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三周戦スタート!

「はああ、もう倒れてもいい?」

 大歓声の中を本部のテント前までやってきて、さらに観客に手を振って愛想笑いをした俺は、逃げ込むようにしてテントの中に入った。

 合計六張りのテントが合体したここはかなりの広さになっていて、テントに逃げ込んだ瞬間、俺だけじゃなくてほぼ同時に全員の口から安堵のため息が漏れた。

 どうやらあの大歓声を前にしてメンタルを削られたのは、俺だけじゃあなかった模様だ。



「ご苦労様。レースまでまだ少し時間があるから休んでくれていいよ。それじゃあ」

 エルさんは、そう言うと忙しそうに出て行ってしまった。

 今回の主催は商人ギルドだと聞いてるけど、まあ冒険者ギルドも協賛しているから何かと忙しいみたいだ。

「お茶でも飲むか。何だかホテルからここまで来ただけでどっと疲れたよ」

 苦笑いした俺は、用意してくれていたテーブルの上にコンロを取り出して、水を入れたヤカンを乗せて火をつける。

 久々に緑茶を淹れて、同じくテーブルの上に置かれていたカップに人数分のお茶を入れてやる。

「はあ、久々の緑茶うめ〜」

 大きなため息と共にそう呟き、行儀悪く音を立てて啜る。若干猫舌なので許してくれ。

 ハスフェルが持ってた摘めそうなものを出してくれたが、さすがに腹一杯の俺は遠慮して、のんびりと緑茶を啜っていた。



「いよいよだね」

 蕎麦ちょこに入れてやった緑茶を飲みながら、シャムエル様がそう言って笑っている。

「勝負は時の運だからね。どうなるかはやってみないと分からないよ」

「そりゃあそうだね。まあ頑張ってね」

 俺より早く緑茶を飲み終えたシャムエル様は、蕎麦ちょこを一瞬で収納するとそのまませっせと尻尾のお手入れを始めた。

「なあ、また勝ったらその尻尾もふらせてくれるか?」

「ええ、どうしようかなあ?」

 思わせぶりに、もふもふになった尻尾を俺の腕にぺしぺしと叩きつける。

「お願いします。それならもっと頑張れると思うんだけどなあ」

 手を合わせてそう言うと、笑ったシャムエル様はドヤ顔で胸を張った。

「分かった。じゃあ二連覇出来たら、好きなだけもふらせてあげるよ」

 くるっと回ってそう言うと、またドヤ顔になる。

「おお、ありがとうございます。これでさらにやる気が出たよ」

 笑ってちっこい手とハイタッチをした。




「三周戦参加の皆様にお知らせいたします。そろそろご準備をお願いします」

 テントの外から職員さんの声が聞こえって、俺達は一斉に立ち上がる。

「いよいよだな。お互い全力で勝負しようぜ」

 拳を突き出してそう言うと、テントにいた全員が笑顔で振り返った。

「もちろんだ。二連覇は絶対に阻ませてもらうぞ」

「負けても泣くなよ」

 ハスフェルとギイが笑いながらそう言って拳を突き出す。

「もちろん私だって負けませんよ」

「エラフィの走りをとくと見よ。ってな」

「ビスケットだって、負けませんよ。初優勝はいただきます」

 クーヘンとオンハルトの爺さん、そしてランドルさんも自信たっぷりにそう言って拳を突き出す。

 円陣を組んで真ん中で拳をぶつけ合った俺達はお互いの顔を見て笑顔で頷き合った。



「さあ、勝っても負けても恨みっこなしの一発勝負の始まりだ」

「おお〜!」



 俺の掛け声に、全員の声が重なった。

 直後に、何故かテントの外から大歓声と拍手が聞こえたんだけど……単なる偶然だよな?






「さあ、皆様お待たせいたしました! 早駆け祭りの最後を飾る三周戦が間も無く始まりますよ〜! 賭け券の購入はお済みですか? 間も無く販売が終了いたしますので買い逃しの無いようにしてくださいね〜! 泣いても笑ってもこれが最後! 三周戦の勝者は果たして誰になるのか? おお、選手が出てきました! 皆様、スタートラインにご注目ください!」

 相変わらずテンションの高い司会者の声が会場中に響き渡っている。

 テントから出てきた俺達は、それぞれの従魔や馬に乗ったまま係の人の案内でゆっくりとスタート地点へ向かった。

 もう会場の興奮度合いは最大級だろう。あちこちから俺達の名前を呼ぶ声が聞こえて、笑顔で軽く手を振っただけで物凄いどよめきと拍手が沸き起こる。

 ううん、こうして聞いていると俺とマックスを呼んでくれている人も相当いるみたいだ。頑張って期待に応えないとな。



 前回と違って、スタートラインに並んだらもうスタートの時間みたいで、それを見た会場は、大歓声と拍手と選手や騎馬を呼ぶ声で物凄いことになっている。


『頑張ってね〜!』

『賭け券買ってるんだから絶対勝ってね!』

『そうだよ。絶対勝ってね!』

『応援してるぞ!』


 突然、聞き慣れた懐かしい声が頭の中に届いて、俺は慌てて周りを見渡した。

 だけど、人混みの中に彼らの姿を見つける事は出来なかった。

「だけど、ちゃんと見てくれてるんだ。恥ずかしくないレースをしないとな」

 笑って小さく呟いた俺は、マックスの手綱をしっかりと握り直した。

「頼むぞマックス。目指せ二連覇だからな」

「ええ、勿論です。誰にも絶対に負けませんからね。ご主人はしっかり掴まっていてください!」

 相変わらず、尻尾を扇風機にしたマックスが力強く応えてくれる。

「おう、よろしくな相棒」

 そっと首を叩いてやり俺は顔を上げる。

 銅鑼の前に係の人が立つのが見えて、グッと前のめりになる。

 ゆっくりと呼吸を整えてその時に備える。

 大きく息を吸った直後に物凄い銅鑼の音が響き渡り、俺達は弾かれたように一斉にスタートしたのだった。



 さあ、目指せ二連覇!

 絶対に勝ってやるぞ!

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