maybe somedayの話とのんびりレース観戦
「いやあ、あの猫、本当に最高だったな」
笑い過ぎた息を整えながらそう言うと、同じく笑い過ぎて出た涙を拭っていたハスフェル達が何度も頷いていた。
「彼女にはテイマーの才能があるみたいだ。将来、テイマーになってくれたら良いのにな」
俺がそんなことを言うと、クーヘンとウッディさん達が驚いたように一斉に俺を振り返った。
「ケン、今の話は本当ですか?」
うん、シャムエル様が言ってたから間違い無いよ。
とはさすがに言えないので、笑って誤魔化しつつ俺も頷いてみせる。
「みたいだな、将来が楽しみだ」
すると、クーヘンとウッディさんは揃って手を叩き合い満面の笑みになった。
「それは良い事を聞いたな。彼女に教えてやらないと」
「そうですね、きっと彼女も喜ぶでしょう」
笑顔のウッディさんとクーヘンの会話を聞いて、今度は俺が驚く。
「ええ、何々? ウッディさんは彼女の知り合いなんですか?」
「もちろん、彼女の父親は俺の教え子でね。彼女が初めてレースに参加した時にその事を知ったんだよ。そして実を言うと、彼女は君に憧れてるんだよ。前回の早駆け祭の時の君の様子を何度彼女にせがまれて話した事か」
嬉しそうなその説明を聞いて驚きつつ、ちょっと俺まで嬉しくなって来た。
マジで俺が憧れの人だって?
もしかして、未来の嫁候補二人目?
おお、これはもしかしてハーレムのフラグですか?
邪な方向に脱線しそうな思考を無理矢理引き戻し、平然とクーヘンを見る。
「もしかしてクーヘンも彼女を知ってるのか?」
すると、クーヘンも笑いながら頷くではないか。
「ええ。彼女のご両親は、いつもうちの店のジェムを買ってくださる常連さんですよ。実を言うと、来年彼女が十歳になったら、うちの店のペンダントをお祝いに買ってもらう約束をご両親としていると、彼女から直接聞いた事もありますよ。彼女ご希望の猫の形のペンダントは、兄さんが既に幾つか制作に取りかかってくれています」
「へえ、それはすごい。世間って案外狭いんだな」
感心したようにそう言って、二組目が走り始めた会場を眺めた。
「あれ、じゃあもしかして、彼女が十歳になったらニャンコと一緒にレースに出られなくなるじゃんか。これって十歳までって言ってなかったっけ?」
「そうなんですよね。だからさ来年以降は半周の混合戦に出る気満々だったよ。最近はそのための準備だとかで、毎日頑張って走ってるんだって言ってましたよ」
「へえ、そりゃあすごいな。じゃあ体力つけて成長したら、将来はテイマーになって冒険者かな?」
「だと良いですね。テイマー仲間が増えるのは大歓迎ですよ」
「良いなあ、彼女が魔獣使いになったら、ぜひ紋章には俺の肉球マークを入れて貰いたいもんだな」
冗談で言ったのだが、クーヘンとウッディさんは目を輝かせた。
「良いんですか?」
身を乗り出すポーズどころか、言葉までが綺麗にハモる。
何その見事なシンクロ率。
「あの子なら構わないよ。それならテイマーとしての心得はクーヘンが教えてやれよ。そうすれば、俺にとっては孫弟子って事になるからあの紋章を使ってもおかしくないだろう? まあ、未来の仮定の話だけどな」
軽い気持ちでそう言いつつ笑って会場に目をやり、またしても落馬や犬の綱を手放してしまって転び、泣き出す子続出でカオスになっている子供達のレースを見て笑う。
単なる思いつきで描いた肉球マークの紋章だったが、遠い未来に俺が死んだ後もこの世界でこの紋章が定着すれば、俺がいた証を残した気になってちょっと嬉しいなあ。なんて呑気に考えていたのだった。
うん。それはmaybe someday.
いつの日か、もしかしたらね。ってやつだね。
その次は年長組のレースで、こちらはそれなりにしっかりしたレースが展開されて全部で四レースあったんだが、どれも大いに盛り上がった。
「それで次が混合戦だな。これも楽しみにしてたんだよ」
「確かに混合戦は面白い。賭け券の的中率を楽しむのも良いけど、一般参加の人達のレースを見て、何も考えずに笑うってのも良いものだよな。確かにこれも早駆け祭りの楽しみ方の一つだよ」
エルさんが差し入れてくれた生搾りジュースを飲みながら、俺達は好き勝手な事を言いつつのんびりとレースを観戦していた。
時折人影の中に見えるシルヴァ達はとても楽しそうだ、しかも、見つける度に違うものを食べているんだけど、腹具合は大丈夫なの?
そして、レオとエリゴールのやつれ具合がどんどん酷くなってる気がするんだが、俺の気のせいじゃないよな。こっちも大丈夫かちょっと心配になるレベルだぞ。
『気にするな、ちゃんとあいつらも楽しんでるよ。疲れてるのは周りのせいだよ』
俺が彼らの事を心配していたのが分かったみたいで、ハスフェルの笑った念話が届く。
不思議に思って見ていると、どうやら二組のカップルだと思われているみたいで、無駄に男性陣からレオとエリゴールがからかわれたり小突かれたりしているみたいだ。
なるほど、あんな美人の女神をゲットしたからって見せびらかすんじゃねえよ! って事か。
それなら仕方がないな。って納得しかけて思わず吹き出す。
あいつらも神様なのに……何その扱い、可哀想すぎる。