表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
623/2066

まずは子供達の早駆けから

「うわあ、もうパンケーキを食べ終わって次へ行ってるよ」

 観客達に目をやって無意識にシルヴァ達を探した俺は、案外すぐに見つける事が出来た。

 遠目に見えるシルヴァ達は、とても楽しそうだ。そしてもう、手にしていたはずのパンケーキは何処にも無い。食うの早えなおい。

 よく見ると武装はしておらず、ふんわりゆったりとした可愛いワンピースみたいなのを着ている。はっきり言っていつも身に付けていた胸当てなどの防具に比べると、無防備すぎるくらいのラフな格好だ。おいちょっと横の冒険者野郎。胸を覗くな胸を!

 遠くから勝手にヤキモキしていたが、そんなの関係ないとばかりに、周り中の視線を集めた二人は嬉々として屋台を回っている。

 次に手にしたのは前回も食べてたクリームだかアイスだかのタワーみたいなのだ。やっぱり大盛り盛り盛りで、あれは絶対倒れるだろうってレベルの高さだ。

 しかし彼女達は手にした匙でそのタワーを倒さずに攻略している。ううん、相変わらず作る方も食べる方もすごい技術だ。

 そしてそんなシルヴァとグレイの二人の両横には、何だか疲れ切った風情のレオとエリゴールの二人の姿を今度はしっかりと確認出来た。多分、人混みの中を好き勝手動き回る彼女達に振り回されているんだろう事が容易に想像できて笑ったね。護衛役ご苦労様。二人の健闘を祈るよ。

 その彼らが手にしているのもシルヴァ達と同じクリームだかアイスみたいなのだけど、クリームの山は普通サイズだ。ちょっと巻きが多いっぽいけど、普通のソフトクリームレベル。あれなら俺でも食べられそうだ。




 遠目にシルヴァ達を眺めて和んでいると、いつの間にかレース開始の時間になったらしく、一番最初の子供達が、それぞれの動物達と一緒にスタート地点に集まり始めた。

 観覧席正面から見て左奥側に、道を横切るようにして太いラインが敷かれている。前回と同じであれがゴール地点。および一周以上のスタート地点でもある。俺達も明日、あそこから出発して三周回ってゴールする訳だ。

 子供達のスタート地点はゴールから約100メートルくらい離れた場所で、普通に走ったらすぐに終わりそうな距離だ。

 まあ、当然走るのは子供達だからそう簡単じゃないけどね。



 しばらくすると会場の騒めきが静かになってきた、そろそろスタートかな?

 そう思って見ていると、あの司会者がマイクを手に舞台に上がって来た。



「それでは皆様。お待たせいたしました〜! 早駆け祭り、最初のレースが間も無くスタートいたします。最初は十歳以下の子供達による早駆けです。さて、今回の子供達はどんな活躍を見せてくれるのでしょうか〜! どうか皆様、参加する子達に温かい拍手とご声援をお願い致します!」

 司会者の大声が会場中に響き渡り、湧き上がる拍手と歓声。

 スタッフさんの案内にしたがってスタートラインに並ぶ子供達。どのこの顔も真剣そのものだ。

 ロバや仔馬に乗っている子。犬に乗っている子もいる。そしてあの猫に跨がっただけの女の子も健在だ。

 そしてそれを見てあちこちから笑いが起こるのも前回と同じだ。



 そして、会場中に大きな銅鑼の音が響き渡った瞬間、ロバと仔馬に乗った子達が走り出した。

 まあ、これも前回と同じで、擬音を付けるならトコトコって感じの速さだったけどさ。



「さあ、最初の早駆けが始まりました〜! 今回も、ニャンコと一緒に参加しているチサ選手は果たして大丈夫なんでしょうか? さあどんどん行け〜! 頑張れ〜! どの子も頑張れ〜!」

 相変わらず暑苦しい解説の中、真剣な顔で子供達は走っている。



「あはは、今回もニャンコにまたがって走ってるよ。ああ〜転んだ! 大丈夫か、おい!」

 思わず立ち上がったのは俺だけじゃない。クーヘンやウッディさん、ハスフェル達まで立ち上がって慌てている。

 ニャンコにまたがった状態のままで走っていたチサ選手が、見事に前に顔面からすっ転んだのだ。確か前回も転んでたと思うけど、前よりも豪快な転び方だ。ああ、鼻を押さえてるけど大丈夫か? ってか、今のはズボンを履いていなかったらもっと大変な事態になってると思う。

 それにしても、小柄な子供とはいえあの転び方は痛いと思うぞ。幸い鼻血は出ていないみたいだけど本当に大丈夫か?

 しかし、そこで意外な助けが入った。前回よりも大きくなっている彼女の下に潜り込み、よっこいせ。って感じに、彼女の脇から首を出した猫が、そのまま平然と進み始めたのだ。

 転んだまま鼻を抑えていたチサ選手を自分の背中に乗せて見事に引きずっている。

「うわあ、チサ選手豪快に転倒。大丈夫かあ? いや、しかしニャンコのミーシャはそのままチサ選手を乗せて進む進む進む! 頑張れミーシャ! 負けるなミーシャ!」

 またしても暑苦しい解説に笑いが起こる。

 しかし、僅かの間にも成長した彼女は思っていた以上に重かったらしく、前回と違って途中でミーシャがヘタってしまう。あちこちから応援する声が上がり、手拍子が始まる。

 すると、鼻を右手で抑えたまま、チサ選手が起き上がって手を振って走り出したのだ。当然、ミーシャが嬉しそうにその後に続く。



 彼女達の前方では、今回も落馬や落犬した男の子達があちこちに転がっている。泣き叫んで馬やロバを呼ぶ子。犬を呼ぶ子。半泣きになりながら犬を追いかけて走る子などなど、相変わらずゴール前はカオス状態だ。

 空の馬が一頭、既に一位でゴールしていて笑いが起こっている。確か、動物と騎手の両方が一緒にゴールしないと完走にならなかったよな?

 その時、ずっとマイペースでトコトコと走り続けていた仔馬が騎手と一緒にゴールして、拍手が起こった。

 今回もマイペース君が勝ったみたいだ。

 そして、転がって泣いている子達を避けて走るチサ選手と違い、一直線に進み目の前の障害物は全て乗り越えていく猫のミーシャ。

 今も、地面に寝転がってジタバタしながら自分の犬を呼んでいた子の顔面を思いっきり踏んで行ったし。あれって前の時もそうだったけど、絶対わざと踏んでるだろう。

 また別の子の頭を踏み越えてガンガン進むミーシャに、笑いが起こる。

「ミーシャが容赦なく踏んでいきます。地味に痛い攻撃だ。踏まれたのはジーテン選手とグラシュ選手。グラシュ選手は、前々回、前回に続き何と三回連続で踏まれています。もしかしてこれはわざとか? もしやご褒美なのか?」

 司会者の解説にまた笑いが起こる。

 俺達も声を上げて笑いながら、ようやくゴールしたチサ選手とミーシャに惜しみない拍手を送ったのだった。

 いやあ、あの猫、本当に最高だね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ