大騒ぎの参加者紹介後半戦
「いやあ、良いものを見せていただきましたね。チームの名にふさわしい脚線美の持ち主です、いやあ羨ましい」
手を振りながら下がったランドルさんとオンハルトの爺さんを見た司会者の言葉に、また会場中が大爆笑になる。
「さて、次は前回第二位の戦神の化身ハスフェル! 相変わらず素晴らしいこの肉体美を見よ! まさしく銀髪の戦神の化身そのものだ〜! 騎乗するのはグレイハウンドの亜種のシリウス! チーム名は金銀コンビ〜!」
軽く咳払いをした司会者の言葉に苦笑いしたハスフェルが俺の肩を解放して、シリウスの手綱を引いて舞台に上がる。
あちこちから物凄い歓声が上がり、さっきの最前列の女性達も大喜びで拍手をしているのが見えた。そして、何故だか男性陣からの歓声もすごい。まああの肉体美を見せられたら、男だったら純粋に憧れるよなあ。
うんうんと一人で納得をしていると、もうギイの名が呼ばれていた。
「次はもう一人の戦神の化身。前回第三位の金髪の美丈夫ギイ〜! こちらもハスフェルに負けず劣らずの素晴らしい肉体美だ〜! いやあ二人並ぶと壮観ですねえ。騎乗するのは、ブラックラプトルの亜種、デネブ! チーム名は金銀コンビ。これ以上ない最高のチーム名だ〜!」
また大歓声と図太い歓声があちこちから聞こえる。
笑って顔を見合わせたハスフェルとギイの二人は、これまた揃って前に進み出ると笑って少し離れた。
両腕を左右に大きく広げて上げ、拳を握って肘を曲げた。一層盛り上がる腕と上半身の筋肉。
そう、いわゆるマッチョポーズだ。
そのまま二人は少し腰を捻って揃って面を切るように観客に向かってポーズを決めたのだ。
もう、これ以上無いくらいの大歓声と、大喜びの観客達。
ポーズを決めた二人が笑って手を振り下がる時にも、またしても大歓声と共に図太い歓声と黄色い歓声が上がった。
「おいおい、揃って何してくれるんだよ。俺たちのハードル爆上がりじゃないか」
思わずそう呟くと、同じく困ったように眉を寄せたクーヘンが俺を見上げている。
「ええと、何かアイデアってあるか?」
無言で必死に首を振るクーヘンを見て、俺もため息を吐く。
そんなの今すぐ思いつくわけ……。
その時、不意に閃いたそのアイデアに俺は手を打った。
「なあ、ドロップは? 連れて来てるか?」
「ええ、ここにいますよ?」
クーヘンの胸元には、いつもしているようにオレンジ色のドロップが小さくなって収まっている。
そして俺の剣帯に付けてある小物入れの中には、同じく小さくなったアクアゴールドが入っている。つまりスライム全員集合だ。
前回、表彰式の後の祝勝会でジェムを出してくれって言われて焦った覚えのある俺は、スライム達だけは念の為に連れて来ていたのだ。
「なあ、それならこれで良いんじゃないか?」
クーヘンに俺の思いつきを耳打ちすると、満面の笑みになったクーヘンが大きく頷き親指を立てて拳を突き出した。
「それは素晴らしいですね。是非やりましょう」
「さあ、どんどん参りますよ〜!」
相変わらずテンションの高い声の司会者が俺達を振り返る。
「次はクライン族の小さな戦士クーヘン。彼はこのハンプールで、絆と光、という店を経営する商人と、魔獣使いとして冒険者を兼業する優秀な人物です! 彼の店のジェムや装飾品のお世話になった方、多いんじゃありませんか〜? ちなみに私も何度もお世話になっております! そしてチーム名は、愉快な仲間達〜!」
チョコの手綱を引いたクーヘンが舞台に上がると、あちこちから歓声が上がり拍手が沸き起こった。笑顔で彼の名を呼ぶ人達も多い。
どうやら彼はもうすっかりこのハンプールの街の人達に受け入れられているみたいだ。
彼が舞台の上で観客に向かって笑顔で手を振ると、マーサさんを始めとしたクライン族の応援団が大きな旗を振り回し始めた。小さいクライン族なのに、旗は大きく他の人の頭の上で振られている。
驚いてよく見ると、旗を振る人は踏み台の上に立って旗を振っていたのだ。さすがのその準備万端っぷりに、ちょっと笑ったよ。
「さて、最後の一人になりましたね。皆様もうご存知ですね。金銀コンビの乗る従魔達だけでなく、オンハルトの乗るエルクも全部こちらの彼がテイムした従魔です。そして、クーヘンやランドルの魔獣使いとしての師匠でもある、前回の早駆け祭の覇者にして超一流の魔獣使い、ケン! 騎乗するのは、ヘルハウンドの亜種のマックス! そしてチーム名は、愉快な仲間達だ〜!」
今までで一番大きな大歓声が沸き起こり、あちこちから黄色い歓声が上がる。
ええ、あの女性達、俺に向かって手を振ってくれてるんですけど?
地響きのような大歓声にびびりつつ、マックスの手綱を引いて舞台に上がる。
うわあ、全員が俺を見ているよ。
そのまま回れ右をして帰りたくなる気持ちを抑えて、なんとか笑顔で観客席に手を振る。
クーヘンが進み出て来たので、頷き合って少し離れる。
「よし、出てこい!」
小物入れに向かって小さな声でそういうと、そこからテニスボールサイズになったスライム達が溢れるようにして出て来た。
小さな小物入れからどんどん出てくる手品のような光景に、会場のあちこちから驚きの声が上がる。
クーヘンも胸元からドロップを取り出して手の上に乗せる。大きさは同じくテニスボールサイズだ。
クロッシェはアクアと一緒になって隠れているので、クーヘンのドロップと合わせて全部で十匹のスライム達を、向かい合った俺とクーヘンは受け止めては交互に投げ合った。
二つの弧を描いて綺麗にスライム達が投げられては地面に落ち、また二人の手の中に戻って投げられる。
いわゆるボールジャグリングならぬ、スライムジャグリングだ。
投げられるスライム達が。自らきっちりと軌道を描いて俺達の手の中に見事に戻ってくれるので、俺達はただ手を一定間隔で動かしているだけで良い。楽ちんだよ。
もちろん、万一にもアクアゴールドに合体なんか絶対にしないように言ってある。
大喜びの観客から手拍子までもらい、大盛況の中スライムジャグリングは終了した。
ドロップはクーヘンの胸元へ。そしてアクア達は順番に俺の小物入れの中に飛び込んで消えていく。そのまま鞄の中でアクアゴールドに合体してペタンコになって巾着に張り付いた。
多分観客達は、また俺が手品でスライム達をどこかへやったと思っているのだろう。
俺とクーヘンが揃って深々と一礼すると、一瞬静まりかえった会場から一気に大歓声が沸き起こった。
手を振ってもう一度歓声に応えた俺達は、そのまま下がる。
そして舞台から降りる際にも、あの女性達が俺に向かって何度も投げキスをして手を振ってくれているのに気が付いて、慌てて振り返る。
まさかのモテ期到来?
しかし、彼女達は声を揃えてこう叫んだのだ。
「マ〜〜〜ックス! お願いだから抱きつかせて〜〜!」と。