いろいろ大変な参加者紹介前半戦
「次は、人情派の鬼教授! フェルト〜! 騎乗するのは馬のナーデル〜! チーム名は、チームマエストロ〜!」
どんどん参加者紹介は進み、相変わらず聞くのも恥ずかしいレベルの紹介が続き、俺はやっぱり途中から聞いてられなくてマックスに抱きついて現実逃避していた。
ああ、このむくむく、やっぱり癒されるなあ……。
しかし、現実逃避する俺を置いて、気づけばあとはもう知ってる人だけになってた。
「さあ、学生諸君。頑張って応援するのだ! 今季の君達の単位がかかっているぞ〜!」
最後の司会者の台詞と共に、会場はどっと笑いに包まれる。
そして、待ち構えていたかのように、前から二列目に陣取っていた一団が、横断幕のようなものを広げて頭上に掲げてゆっくり左右に揺らし始める。
そこにはこう書かれていた。
ご祝儀テストをもう一度! と。
おお、表彰式の時に言ってたご祝儀テスト、本当にやってくれたんだ。
感心して見ていると、司会者からマイクをふんだくったフェルトさんが学生達に向かって満面の笑みでこう言ったのだ。
「ご祝儀は滅多に無いからご祝儀なんだよ。二度も続けてやると思うな! 世の中そんなに甘くねえぞ。しっかり勉強しろ〜!」
学生達の悲鳴が響き渡り、またしても会場から笑いが起こる。
そうだよな。そうそう、いつも楽して単位が取れると思うなって。学生の本分は勉強だ!
と、自分の学生時代を棚に放り上げて偉そうなことを言ってみる。
……うん、柄にもない事するのはやめよう。背中が痒くなって来たよ。
まだ笑いの残る会場に手を振り、フェルトさんが司会者にマイクを返してから馬のナーデルの手綱を引いて後ろに下がる。
それを見た司会者が、笑いながら額の汗を拭う振りをしてから会場に向き直る。
「学生諸君の健闘を祈る」
低めのめっちゃ良い声でぼそっと呟いたその言葉に、また会場のあちこちから吹き出す音が聞こえた。
「うわあ、選手紹介してる時のテンション超高い声と全然違う。へえ、あの司会者やるなあ。今の一言で会場の空気を一気に自分に引き寄せたよ」
密かに感心して司会者を見ていた。
俺は知らないけど、実は有名な人なんだろうか?
「さあ、どんどん参りますよ。次は、走る知性派! 現役の大学教授のプロフェッサーウッディ〜! 騎乗するのは、馬のレーラー! チーム名は、チームマエストロだ〜!」
さっきの低い声とは別人のような会場中に響くような元気な司会者の紹介に、片手を挙げたウッディさんが笑顔で舞台へ上がる。
またあちこちから学生らしき若者達が、大喜びで拍手をしたり笛を吹いたりしている。そして、当然のように最前席に陣取っていた一団が、彼が舞台に上がった途端に大きな旗を取り出して振り回し始めた。
「出た、前回も振り回してたアレだな。なになに……頑張れ教授! 負けるな教授! 応援してます! 単位下さい!」
相変わらずの学生達に、堪えきれずに吹き出した俺だった。
「やっぱりこうでなくちゃな。だけど上位は俺達が独占させてもらうから、悪く思わないでくれよな」
笑って頷きながらそう呟く。
「応援ありがとう! だけど単位は自力で取れ! 馬鹿もんが!」
またしても司会者からマイクを引ったくったウッディさんがそう叫び、学生達の悲鳴とわき起こる笑い声。
ううん、確かにお約束の笑いって安心するなあ。
そんな事を考えて和んでいた俺はその時、学生達と並んで最前席に陣取っているやや年配の女性の団体と目が合った。
他意はない。何となく学生達の方を見ていたら偶然目が合っただけだ。
しかし、その女性達は互いの肩や背中を叩き合いつつ、いきなり黄色い歓声を上げてものすごい勢いで俺に向かって手を振り始めたのだ。
中には真っ赤になって飛び跳ねながら投げキスをしている人までいる。
完全に俺を見てるんだから、これって俺に向かって手を振ってくれてるんだよな?
そう思ってこっそり小さく手を振り返してみる。
すると、さっき以上のものすごい歓声……と言うか悲鳴が上がる。
あの人達大丈夫か、おい。
しかし、女性達は真っ赤になりつつも目を輝かせてずっと俺の事をガン見している。
ええと……何これ?
もしかして、ボッチ人生初のモテ期到来?
初めての体験に、どうしていいか分からない。
すると、俺の後ろで吹き出したハスフェルとギイが、いきなり俺の左右からあのぶっとい腕で肩を組んできたのだ。
「おい、いきなり何するんだよ」
完全に両腕をホールドされて確保された俺が慌ててそう言ったが、ハスフェルとギイが笑顔で彼女達に手を振ると、これまたさっき以上の黄色い歓声と悲鳴が上がる。
あ、そっか。彼女達は俺じゃなくて背後のハスフェル達に手を振ってたのか。
勘違いに気付いて凹む俺。
ちょっと向こうへ行って泣いてもいいですか。
「さあ、ここから今年も番狂わせの予感をさせる面々を紹介していきます。順番にいきましょう!」
司会者の声に顔を上げると、俺のすぐ前にいたランドルさんが、ダチョウのビスケットの手綱を持って深呼吸をするのが見えた。
「まずは上位冒険者にして最近魔獣使いとなった、遅咲きの努力家ランドル! 騎乗するのはカメレオンオーストリッチのビスケット。これは希少種です。私も初めて見ました。その長い脚は走る為にあるかのようです。チーム名は、チーム脚線美!」
大歓声と共に拍手が沸き起こり、ランドルさんがビスケットと共に堂々と舞台に上がる。
「次も初参加です。いぶし銀の魅力満載オンハルト〜! 騎乗するのはこれまた希少種のグレイエルクの亜種のエラフィだ〜! チーム名はチーム脚線美〜!」
また湧き起こる大歓声と拍手の嵐。
その時、ランドルさんとオンハルトの爺さんが、舞台の上で二人並んで前に進み出たのだ。
そして二人は、揃って背筋を伸ばして反っくり返るようにして後頭部に手をやった。そして二人揃って客席側になる右足を大きく前に投げ出して伸ばし爪先立って見せたのだ。
言ってみれば、セクシーポーズみたいな状態だ。
見よ。おっさんの脚線美! って事かよ。二人揃ってムチムチマッチョな足だけどさ。
それを見た会場中が大爆笑になる。
俺の左右にいるハスフェルとギイも、大喜びで大爆笑だ。
どうでもいいけど、そろそろ離してください。マジで俺の首が締まって来たぞ。