表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/2067

ジェムの買い取りと今後の予定

「ええと、幾つ要ります?」

 スライム達の中にある、ブラウングラスホッパーのジェムの在庫の数を思い出して若干遠い目になったが、気を取り直してギルドマスターを見た。


 うん、ちょっとでも減らしてもらえるなら、俺としては有り難いんだけどね。


「いや、だからお前さんがいいだけ出してくれれば……まさか、そんなにあるのか?」

「全部出したら、確実にギルドが破産するくらいには」

 目を輝かせて俺を見るので、断言してやった。

「おお、そんなにあるのか。では五百、いや、千個までなら買うぞ。どうだ!」

「亜種のジェムもありますけど、普通のジェムだけで良いですか?」

 ギルドマスターに背中を向けて、持った鞄にこっそりサクラに入ってもらう。

「それなら、亜種も百個買うぞ!」

 仁王立ちの決死の形相でそう叫ばれて、俺は小さく吹き出して頷いた。

「普通のが千個と、亜種のが百個だってさ」

 俺の言葉に頷いたサクラが、鞄の中で吐き出してくれたジェムを、ゴロゴロと倉庫の床に並べていった。

 おお、千個出すとちょっとしたジェムの小山になるな。

「これで普通のジェム千個ですね。こっちが亜種になりますよ」

 隣に、亜種のジェムを積み上げていく。


 おお、改めて見ると亜種のジェムはデカい!


 無言で目の前の小山を見たギルドマスターは、真顔で俺を振り返った。

「本当に感謝の言葉も無いよ。これで相当長い間、未稼働の街灯も含めて、街にある全ての装置を稼動出来る」

 ん? 今、聞き捨てならない事を言ったぞ。街灯以外に、まだ何か有るのか?

「これの買い取り金額を渡すのは明日でも良いか? さすがにこれだけの数になると、鑑定に時間が掛かるだろうからな」

「ああ、それで構いませんよ。それよりあの、ちょっと聞いても良いですか?」

 亜種のジェムを手に取っていたギルドマスターが、俺の声にまた振り返る。

「なんだ? 俺に答えられる事なら、答えてやるぞ」

 俺は、サクラの入った鞄を足元に置いてジェムを見た。

「街灯以外に、装置って何があるんですか?」

 一瞬何を言ってるんだ? って顔をしたが、俺の聞きたい事が分かってくれたようで、苦笑いしてジェムを俺に見せた。

「そうか、お前さんは樹海出身だったな。それならまあ、知らなくても無理ないかもな」

「いや、自分でもいろんな知識が偏ってる自覚はあるんで、教えてもらえるなら、なんでも聞きますよ」

「良い姿勢だ」

 大きく頷いたギルドマスターは、ジェムを見ながら教えてくれた。

「例えば登録の石。これはお前さんも見たと思うが、ギルドに登録する時に、手を乗せた平たい光る石があっただろう」


 何だって?

 ああ、何だかコピーみたいな不思議な事した、あの石か!


 思い出して手を打つ俺を見て、ギルドマスターは吹き出した。

「あれは、工房都市で作られてる品物でな。人の手を記憶して、用意した鱗のカードに覚えさせる事が出来る。様々な契約ごとに使われていたんだが、最近ではジェムの激減で本当に困っていたんだ。うちのギルドでも、稼動しているのはもうあれ一台だけだったんだよ。これだけの上位のジェムがあれば、遠慮無く使える」

 ほほう、プラスチックっぽいあのカードの正体は、鱗だったのか。別の疑問まで解消して、俺は一人で納得していた。

「井戸に取り付けた汲み上げ機もそうだ。あれが動かなくなったおかげで、水源の無い家は、いちいち井戸から水を運ばなくちゃならなくなって。毎回大変な思いをしているんだ。そして、重い荷物を運ぶ時の手押し車に取り付ける補助輪。あれも、有るのと無いのでは大違いだからな。これだけジェムがあれば、倉庫に置いてある稼動補助輪を順番に貸し出せる」

 おお、お助け道具が本当に色々あるんだな。俺が売ったジェムが街の役にも立つみたいだね。よしよし。

「まあ他にも色々あるが、とりあえず一番動かしたいのはその辺りだな」

 成る程、勉強になった。そして思ったよ。

 何となく俺が最初に思っていたよりも、この世界は中世時代そのままって訳じゃなさそうだ。

 電気の代わりにジェムが働いてて、機械もある程度の物は作れている感じだ。化学の代わりに術と呼ばれる魔法もあるから、冷蔵庫用の氷だって作れちゃうんだろう。


 これは、噂の工房都市へ行ったら、もっと面白そうだ。

 嬉しくなって俺は立ち上がった。

「ありがとうございます。勉強になりました。あ、じゃあ、後二泊させてもらいますんで、受付で手続きしてきますね」

 ベリーを連れて倉庫を出ようとしたら、突然腕を掴まれた。

「待て、お前さん……まさか、この街を出て行くつもりなのか?」

 真顔のギルドマスターに、俺はちょっと困ってしまった。

「いや、もともと10泊したら次の街へ行く予定だったんですよ。まあ、色々あって予定は狂いまくってますけど」

 ショックを受けるギルドマスターの腕を叩いて手を離させる。

「そうだな。お前さんをこんな辺境に縛るのは間違ってるよな。了解だ。好きな時に旅立ってくれ。ただ、一つお願いがあるんだが聞いてもらえるか?」

 改まってそんな事を言われて、俺は何事かとギルドマスターの顔を見つめた。

「行く先々の街で、そこのギルドに顔を出してやって追加登録してやってくれ。地図に名前の乗っている街ならギルドの建物は必ずある。だから、出来るだけギルドに顔を繋いで、在庫に余裕のあるジェムを売ったり、依頼を受けてやってくれ。腕の良い冒険者は、どこのギルドでも大歓迎だからな」

「ええと、もう一つ質問なんだけど、じゃあこのギルドカードで、例えば隣のチェスターの街へ行っても、ここと同じように金を払わずに入れるって事?」

「もちろん、これがあればどこの街でも入れるぞ。それに最初の一度目は、その街の名前の記載が無いギルドカードを出せば、小さな木札をくれる。どこの街でもそうだが、それを持ってギルドへ行って追加登録すれば、ギルドの管理する宿の宿泊費を割り引いてくれたり、食事が出たりするからな。何があるかは街によって違うが、使わない手はないだろう?」

「有り難いですね。それはぜひ活用させてもらいます」

 笑った俺は、今度こそ倉庫を後にして一旦ギルドの建物に戻った。後ろからギルドマスターが付いて来る。

 一緒に開いた受付に行き、後二泊分延泊をお願いした。

 受付でのしばしの問答の末、結局、俺は宿泊費を払わせて貰えなかった。

 ギルドマスターが嬉々として書類にサインするのを見て、こっそりそのポケットに、ブラウングラスホッパーの亜種のジェムを一つねじ込んでおいてやった。


 さて、今夜はゆっくり寝て、明日は一日食材の仕込みかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ