いざ出陣!
「おはようございます。お迎えに来ましたよ」
迎えに来てくれたエルさんの声とノックの音に、扉の近くにいたバッカスさんが開けてくれた。
「おはようございます」
丁度、ソファーの背もたれに並んで留まっていたお空部隊を順番に撫でていた俺は、そう答えながらセキセイインコのメイプルを撫でていた手を止めて顔を上げた。
急に撫でるのをやめられたメイプルが、もっと撫でろとばかりに俺の右手に頭を擦り付けてくる。
「ああ、ごめんごめん」
笑いながら両手を使って撫でまくってやった。
なんだか今の仕草はちょっと猫っぽかったぞ。
「それじゃあ祭りの本部へ行こうか。君達が最後だよ」
にんまり笑ったエルさんの言葉に、前回のあの大騒ぎを思い出した俺は遠い目になったのだった。
またしても移動用の手押し車に、小さくなった従魔達を乗せてそのまままずは一階にある厩舎へ向かう。
そこには、しっぽの先までピカピカに磨き上げられたマックスとシリウスが俺達を待っていてくれた。
大人しくおすわりして並んで待ってるけど、二匹の尻尾が見事なまでの扇風機になってる。
またしても飛び散る干し草達。スタッフさん、ごめんなさい。
「おはようマックス。いよいよ始まるぞ。よろしくな」
大きな頭に飛びついてそう言い、ゆっくりと撫でてやる。それから取り外してあった鞍を取り出してマックスの背に乗せた。手早くベルトも装着してその場でマックスの背に飛び乗る。
ハスフェルも同じく取り出した鞍をシリウスの背に乗せてからベルトを締めて背中に飛び乗る。
目が会った俺は笑って拳を突き出してやり、互いにぶつけるように突き出しあった。
その場でギイ達も元の大きさに戻ったそれぞれの従魔の背に鞍を乗せて、その背に飛び乗った。
バッカスさんは、エルさんから関係者用の身分証をもらい、一旦その場で別れる。
「ええ、仲間なんだから一緒に行けば良いのに」
「謹んで遠慮させていただくよ。せいぜい見世物になってきてくれ」
笑いながらそんな事を言われて、全員揃って大爆笑になった。
俺の他の従魔達は、いつものようにマックスとニニと、それから大型犬サイズになったセーブルの背中に分かれて乗り込む。
ランドルさんも自分の従魔達をダチョウのビスケットの背中に乗せている。
ちなみにクーヘンは、ここにはチョコだけを連れて来ていて、他の子達は店で留守番しているんだって。
それから、ホテルの人に先導されて外に出る。
「さて、どれくらいの人出なのかねえ」
小さくそう呟いて背筋を伸ばした。
すみません。早駆け祭りの人気、舐めてました。
早くも帰りたい気持ちでいっぱいです。
ホテルの横の通路から外に出た途端、俺たちは大注目を集めた。
そして、道を埋め尽くしていた人達から大きなどよめきと共に一斉に拍手が沸き起こる。
「すげえ。エルクだ。あの角を見ろよ」
「うわあ、あれってオーストリッチだよな。でけえ」
「今回も乱戦になりそうだな。ううんこれは難しい」
「やっぱり、マックスは格好良いよ。俺、絶対彼に賭けるぞ」
「お母さん、見て見て恐竜だよ! すごいすごい!」
「そうね。格好良いわね」
「絶対、二連覇してくれよな〜!」
あちこちから漏れ聞こえる好き勝手な感想と称賛の大嵐な会話に、へたれの俺は羞恥心が限界突破してしまい、現在HPをゴリゴリ削られております。
だけど、これも興業のうち。
一応そう考えて、笑顔で軽く手を振ったりしたら、もっとすごい大歓声とどよめきと黄色い歓声が聞こえて、本気でビビって泣きそうになったのは内緒だ。
俺は平凡な人生がいいよ〜。
俺のメンタルとHPをゴリゴリと削りながら、一行は大勢の人に囲まれたままお祭りの本部へ向かう。
街を出て旧市街へと続く幅の広い道路は、両端を屋台が埋め尽くしていてあちこちに行列が出来ている。
「ああ、また香りだけとか苛めだよこれ。俺も屋台で買い食いしたい」
前回と同じ感想を抱きつつ、静々と進む。
いつもの倍以上は距離を感じつつやっとの思いで旧市街の外環に到着した。その街道横にある広い公園が祭りの本部だ。
見覚えのあるテントへ案内されると、ようやく一息つく事が出来た。
今回も六本柱のガレージタイプの大きなテントだ。
俺達のテント同士は二列三棟全部を連結してくれてあり、隣り合うテントの垂れ幕をまとめて巻き上げてあるので中はとても広い。そして前回同様に奥には水場も用意されているので、従魔達には好きに水を飲ませてあげられるようになっている。
広いテントの中を見て従魔達は大喜びだ。お空部隊だけでなく、全員の鳥達が仲良く集まってテントの梁に並んで留まっている。ううん、鳥もこれだけ集まるとなかなかに壮観な眺めだよ。
好きに寛ぐ従魔達を見て和んでいると、何処かへ行っていたエルさんがスタッフさん達と共に戻って来た。
「お待たせ、じゃあ行こうか。見張りはおいておくから、他の従魔達はここにいてもらって構わないからね」
「分かりました。じゃあ、ここで留守番しててくれよな」
そう言いながらニニを撫でていると、耳元でベリーの声が聞こえた。
『前回と同じく、ここには私とフランマが残りますのでご心配なく。どうぞ楽しんできてくださいね』
完全に面白がってるベリーの声に、小さく吹き出した俺は肩を竦めた。
「じゃあお願いするよ。まあ、今回はもう騒動は無いと思うけどさ」
『ええ、そうですね。いってらっしゃい』
フランマの笑う声も聞こえて、従魔達の横に見える揺らぎに手を振った俺は、マックスの手綱を持ってもう一度その太い首に抱きついた。
「じゃあ、祭りの開始だ。よろしくな、相棒」
「ええ、絶対に二連覇しましょう!」
元気良くそう言って一声吠えたマックスの首筋を叩いてやり、もう一度手綱を握りしめて深呼吸をした俺は、胸を張ってテントの外に出た。
俺達の姿が見えた途端に湧き上がったまるで地響きのような大歓声に、本気で回れ右をして帰りたくなった俺は……間違ってないよな?