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朝食と待機

「揃ったな。それじゃあ、何か食べよう」

 そう言いながら、俺はいつものサンドイッチとか朝の定番メニューをいろいろ適当に机の上に並べて行った。

 ハスフェル達が起きて来て間も無く、ランドルさん達とクーヘンも起きて部屋にやって来た。これで全員集合だから、何はともあれまずは食事だもんな。




「ううん、さすがにこの人数で食べたら減るのが早いぞ。祭りが終わったら料理する時間を取らないと朝のサンドイッチが足りなくなりそうだ」

 タマゴサンドの数をこっそりサクラに確認しながらそう呟いていると、いきなり右肩に現れたシャムエル様に頬を力一杯叩かれた。

「痛い痛い。痛いってば。いつも言ってるだろ。そのちっこい手で頬を叩くなって」

 慌ててそう言いながら頬を空いていた左手でガードする。

「それは駄目です。タマゴサンドを切らすなんて犯罪です! 品切れは絶対許しません!」

 今度は足をダンダンと踏み鳴らしながら若干過激な事を言ってる。

「だから落ち着けって。大丈夫だよ。まだ在庫はあるから心配するな。シャムエル様の好物を切らすわけないじゃないか」

 そう言いながら尻尾を触ってやろうと手を伸ばすと、速攻でガードされた。

「ええ、良いじゃん。ちょっとくらいもふらせてくれても、減るもんじゃなし」

「大事な尻尾の毛が減るから駄目です!」

 思わず文句を言ったら真顔で否定された。いや、毛ぐらい何もしなくても抜けるだろうが。



「ほら、そんな事より、タマゴサンドを確保してください!」

 誤魔化すようにそう言うと、また俺の頬を叩く。

「分かった分かった、だからまだ大丈夫だって言ってるのに」

 苦笑いした俺は、タマゴサンドを二切れと鶏ハムと野菜の入ったサンドイッチをこれも二切れ取る。それからトマトのざく切りをサンドイッチの横に山盛り取り、マイカップにコーヒーと激うまジュースも入れてから席に戻る。今朝はシンプルメニューだ。

「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ!ジャジャン!」 

 お皿を振り回しながら跳ね回っているシャムエル様からお皿をもらい、卵サンドを丸ごと一つと、鶏ハムと野菜サンドも真ん中を大きく切って乗せてやる。

「トマトは?」

「ふた切れください!」

「はいよ。あとは飲み物だな」

 並んだ蕎麦ちょこにコーヒーと激うまジュースをスプーンですくって入れてやる。

 食べる方はどんどん量が増えてるけど、飲み物は蕎麦ちょこサイズのままなんだな。

 そんな事を考えつつ、飲み物もたっぷり入った蕎麦ちょこを返してやる。

「ありがとうね。これが美味しいんだよね。それじゃあ、いっただっきま〜す!」

 嬉しそうにそう言うと、タマゴサンドをもの凄い勢いで齧り始めた。

「相変わらず豪快だなあ。それじゃあ俺も頂くとするか」

 軽く手を合わせてから食べ始めた。




「ご馳走様。じゃあこのあとは、お迎えが来るまで部屋でのんびり待機だな」

 机の上を片付けたあとは、特に何もする事が無いので従魔達を順番に撫でたり揉んだりしながらのんびりと過ごした。

 ランドルさんが、窓を開けに行ったのでセーブルを撫でながら見ていると、開いた窓から街の大騒ぎの声が聞こえて来た。

「楽しそうだな。ううん、一度くらいは観客としてこの街のお祭りを見てみたかったよ」

「おや、ケンさんはハンプールの早駆け祭りを見た事が無いんですか?」

 ランドルさんとバッカスさんの驚く声に、俺は苦笑いして頷いた。

「俺は少し前まで樹海にいましたからね。レスタムの街で初めて冒険者登録をして、それからあちこち見て回っているんです。だから、こっちの世界の事は、まあ……常識だって言われるような事を実はあまり知らなかったりするんですよ」

 一応表向きの俺の出身は樹海って事になっているので、こう言えば大抵が驚いて黙ってくれる。

 でもまあ、実際にあそこに住めるかって言われたら……。うん、無理だね。絶対三日も持たずに逃げ出す未来しか見えないよ。

 そこまで思い出して、あの夜の事も思い出した。

「リュート、元気にしてるかな」

 苦笑いしながら思わず呟く。

 樹海の獣人の村にいる、未来の俺の嫁になるかもしれない愛しの猫娘の名前だ。

 まあ、彼女が大きくなる頃には、俺の事なんて忘れてるだろうけどさ。



「そう考えたら、この世界に来てから、まだ半年くらいしか経ってないんだよな。来た時が春の始めで、今が秋だもんな。ううん、もう十年くらいはいる気がするぞ」

 ここでの濃密すぎる今までを思い出して、遠い目になる俺だったよ。




「何一人百面相してるの? 変なの」

 いつの間にか、ソファーに座る俺の膝の上に座っていたシャムエル様が、呆れたように俺を見上げながらそんな事を言う。

「うん、ちょっと色々思い出してたんだよ」

 誤魔化すようにそう言うと背もたれにもたれかかって目を閉じ、開いた窓から入ってくるひんやりとした秋の風と街の遠いざわめきを楽しんだのだった。

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