激闘のボードゲームとカツカレー!
「おおい、そろそろ終わるか?」
取り出したトンカツを切りながら、見ているハスフェル達に声を掛ける。
「よし! やっと抜けたぞ!」
ガッツポーズで叫ぶギイを見て、思わず吹き出す。
「ちょっと待て、もしかして今までずっと底無し沼と戦ってたのかよ」
笑いながらも思わずそう聞くと、頷いたギイがドヤ顔で振り返った。
「おう、まさかのそれだ。なんと底無し沼にハマってから二十四回サイコロを振ったぞ。二十五回目にして無事に脱出だ」
それを聞いて、俺だけじゃなく全員揃ってもう一回吹き出したよ。
カウンターの上では、シャムエル様までお腹を抱えて転がって大笑いしてるし。
「運が無いにも程があるな。無事脱出おめでとう。だけど、底無し沼を脱出したのならもうすぐにゴールじゃ無かったっけ?」
確か、ゴール前の連続トラップが降格トラップと底無し沼だったはずで、無事に脱出出来ればすぐにゴールだったはずだ。
「ってか、もうやってるのは俺とバッカスだけだから、どちらかがゴールすれば終了だな」
苦笑いするギイの言葉に、横に座ったバッカスさんが笑っている。
どうやらさっきの回で、こちらも沼にハマってたバッカスさんも同時に脱出したらしく、底無し沼の隣のマス目に二人のキャラの駒が並んでいる。
「ここで、降格トラップにどっちかがハマると最高なんだけどなあ」
先にゴールしたハスフェルのからかう言葉にまた皆で大爆笑になる。
「んな訳あるかってな。見てろよ、最少回数でゴールしてやる」
ギイの言葉にバッカスさんも笑って頷き、サイコロを振るう。
「よし、降格トラップを抜けたぞ」
六の目が出て降格トラップを飛び越えて別のマス目に止まる。そこは、サイコロを一回振って出た数だけ進めるラッキータイムだ。ここで四の目以上が出ればそのままゴールとなる。
しかし、必死で振ったサイコロの目は一だったよ。
ため息を吐いたバッカスさんが、一つ進む。
「いけ!」
そしてギイが振ったサイコロは、無情にも四で止まる。
ハスフェル達が揃って手を叩いて大笑いしている。
ギイがそれを見て、机の下でハスフェルの足を蹴飛ばし、悲鳴を上げたハスフェルが椅子から転がり落ちてまた大笑いになった。
全く、何やってるんだって。
「うああ、よりにもよって、ここで止まるか」
頭を抱えたギイの言葉に、起き上がって椅子に戻ったハスフェルがまた手を叩きながら大笑いしている。
そう、ギイの止まったここが噂の降格トラップだ。
ここでもサイコロを振り、偶数ならセーフ。奇数なら降格となり一段下のルートに下がらなくてはいけない。
「頼む! 二か四か六!」
まあ確率としては五割なので決して不利ってわけでは無いのだろうけれど……。
出た目を見たギイの悲鳴が部屋に響き、見物人達が全員揃って大爆笑になる。
うん、出たのは奇数だった訳だ。ご愁傷様。
結局そのままバッカスさんが逃げ切り、ゲームはそこで終了となった。
俺以外の全員で手分けして机の上を手早く片付ける。
「お疲れさん。ほら座った座った」
ごちゃ混ぜサラダとトマトの入った皿を置き、小皿を横に置く。
「サラダとトマトは好きに取ってくれ。それで本日のメインはこれだよ」
カレーの入った鍋を持って来て、ご飯を大きめのお椀にぎっしり入れてお皿の真ん中に伏せてやる。
綺麗に山型に盛られたご飯を見て全員揃って拍手する。小学男子か。
「カツは、トンカツとハイランドチキンカツとグラスランドチキンカツがあるから、どれでも好きなのを好きなだけどうぞ」
一口サイズに切った各種カツが山盛りになったお皿を並べれば準備完了だ。後は好きに食え。
大喜びでカツを取り合う彼らを見て、俺も自分のお皿を手にその後に続いた。
まずは小皿にサラダとトマトをたっぷりと取り、トンカツを半分くらいとチキンカツ二種類はそれぞれ三切れずつご飯の横に盛り付ける。そこに、全体にかかるようにたっぷりのカレーをかければ完成だ。
お鍋の横では、目を輝かせたシャムエル様が大きなお皿を手にして飛び跳ねている。
「食、べ、たい! 食、べ、たい! 食べたいよったら食べたいよ!」
久々の食べたいダンスいただきました〜。
飛び跳ねながら空中で短い足を交差させて、何とも不思議なステップを踏んでる。
最後は片足で立ち、お皿を突き出して決めのポーズだ。
「はいはい、今日も見事なダンスだったぞ」
笑いながらお皿を取り、普通サイズのお椀にご飯を詰めて盛り付けてやる。
「カツは?」
「全種類二切れずつお願いします!」
そう言いながらサラダ用の小鉢も取り出す辺り、食べる気満々。
「りょーかい、ちょっと待っててくれよな」
小鉢も受け取り、リクエストのカツ各種を大きめのを二切れずつ取ってから、カレーをたっぷりとかけてやる。
小鉢にサラダとトマトを盛り付ければ完成だ。
「はいどうぞ。ごちゃ混ぜサラダとトマト、それからカレーにカツの盛り合わせトッピング付きだ」
「ありがとうね。ふおお、やっぱり美味しそう!」
ダンダンと足踏みしながらその場で回転してステップを踏んでいる。分かったからちょっと落ち着け。
「で、まずはシルヴァ達にお供えだな」
笑いながら小さく呟き、用意してあった簡易祭壇に俺の分のカツカレーとサラダのお皿を並べ、冷えた麦茶も添えておく。
「トンカツとチキンカツの盛り合わせトッピング付きカレーライスだよ。母さん直伝のごちゃ混ぜサラダと一緒にどうぞ」
小さくそう呟き手を合わせる。
とても優しく収めの手が俺を撫でた後、カツカレーとサラダを何度も撫でてから消えていった。
「じゃあ、俺も頂こう」
お皿を持って席につき、待ってくれていた彼らにお礼を言ってから、全員揃って手を合わせてから食べ始める。
「うん、なかなか上手く出来たな。辛過ぎず甘過ぎず、俺の好みピッタリ」
一口食べてそう言うと、後は黙々と食べることにした。
「では、いっただっきま〜す!」
そう叫んだシャムエル様は、カレーのお皿を両手で持って見事なまでの顔面ダイブを決めていた。
カレーって、目とか鼻とかに入ったらめっちゃ痛いんだけど……大丈夫なのかね?
顔中カレーまみれになりながら大喜びで食べているシャムエル様を見ながら、時々サラダも食べつつ俺達は皆で作ったカレーを楽しんだ。
さて、いよいよ明日は祭り当日だぞ。
「またあのこっぱずかしい紹介をされるのかと思うとちょっと気が遠くなるけど、まあお祭りなんだから、あれくらい羽目を外してもいいんだろうさ」
笑ってそう呟くと、自分とシャムエル様のおかわりを入れるために俺は立ち上がったのだった。