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もふもふとむくむくと異世界漂流生活  作者: しまねこ


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ボードゲームと夕食準備

「全く、お前らは今の体の大きさを理解しろよな。干し草だらけになっちゃったじゃないか」

 結局押し倒されて干し草だらけになった俺は、笑いながら小さくそう呟いて何とか起き上がり、もう一度ニニとマックスを順番に抱きしめて、最近不足していたもふもふとむくむくをしっかりと充電してから顔を上げた。

「寝るのはやっぱりニニの腹の上が良いよ。手足を伸ばしてベッドで寝ているのに、なんだか落ち着かないんだよな」

 振り返ってニニの耳元でそう言ってやると、嬉しそうに目を細めたニニが声の無いニャーをくれた。

 ああ、可愛すぎる。お前は俺を萌え殺す気か。

 無言で悶絶した俺は、もう一回思いっきり、気が済むまでニニを撫でまくってやった。




「それじゃあ部屋に戻るよ。良い子にしてるんだぞ」

 ニニとマックスに手を振り、お世話をしてくれるスタッフさん達に改めてお礼を言ってから、エルさんとアルバンさんとは厩舎で別れて、ウッディさん達やハスフェルと一緒にスタッフさんの案内で部屋に戻った。

 廊下でウッディさん達と別れた俺とハスフェルが部屋に戻ると、残っていた五人は前回もやっていたあの商人になって全ての街に支店を出すと言う、題して立身出世ってボードゲームをしていた。

「何して……ああ、もしかしてまたやらかしました?」

 ゴール前のデッドヒートを繰り広げているギイとオンハルトの爺さん、そしてバッカスさんとクーヘンだったが、またしてもランドルさんだけが中盤あたりでボッチになっていたのだ。

「そうなんですよ。うう、あのゴール前の取引がなければもう終わってるのに」

 泣く振りをしながらも、笑いながら地道にサイコロを振るランドルさん。

 笑ってその少し猫背になった背中を叩き、俺は皆の昼食用に作り置きを適当に取り出して机の上に並べた。



 作り置きの昼食を好きに食べた後は、そのまま夜までゲームをして遊んでいた。



 スタッフさんが追加で持って来てくれていた、冒険者達ってボードゲームがめちゃめちゃ面白くて全員で大いに盛り上がった。

 内容は、初心者冒険者になって全てのクエストをこなし、自分のキャラを最高位の冒険者にするゲームだ。

 田舎から出て来たばかりって設定の自分のキャラの人形を、ボードの上をサイコロの出目に従って進めていく。いわゆる双六ゲームだ。

 しかし、進む道が一本道では無く、途中枝分かれした道が何本も用意されていて、しかもそれを自分で選べない場合がほとんどなのだ。

 止まった場所の指示に従って進み、上手くすればランクアップ出来るのだがそう簡単では無い。

 全くの初心者が冒険者ギルドに加入して見習いとなり、薬草採取やネズミ退治の依頼受けながらポイントを稼ぎ、地道にランクを上げていくのだ。ランクが上がると枝分かれしたショートカットルートに移動出来て、上がる度にもっと高ランクの依頼を受けられるようになる。しかし、失敗するとランクダウンで、元のルートに逆戻り。

 大丈夫だろうと舐めてかかって始めたが、とんでもなく高難易度のゲームだった。

 何しろ、サイコロの出目でほぼ全てが決定するんだけど、事前準備って項目があって、それを幾つも準備していると失敗した時の補填が出来るようになっているのだ。

 例えば、ルートの途中で手に入れた万能薬が手持ちにあれば、怪我をして一回休みの項目をその手持ちの回数分まではスルー出来るとかね。

 しかも、俺達同士は場合によっては協力する事も可能で、一時的にチームを組んで高難易度のダンジョンを攻略したり大型のジェムモンスターを退治したりも出来る。

 最初はのんびり始めたんだけど、だんだん実際の今までの冒険とリンクする部分が多いもんだから全員揃って白熱してきてしまい、最後の難関のソロのクエスト攻略では、もう何かある度に誰かが絶叫すると言う、大騒ぎのデッドヒートが繰り広げられたのだった。




「よっしゃ〜! これでゴールだ!第三位〜!」

 俺の喜ぶ声に、競り負けたハスフェルとバッカスさんとランドルさんが揃って呻き声を上げて顔を覆う。

 先にゴールしていたクーヘンとオンハルトの爺さんと順番に手を叩き合ってから、隣で撃沈しているギイの背中を叩く。

 彼は、さっきから底無し沼のトラップにハマってもう五回も出られずに足止めを食らっているのだ。

「健闘を祈るぞ。それじゃあ俺は夕飯の準備をするから先に抜けるけど、その後の経過は実況してくれ」

「へ〜い」

 気の抜けたギイの返事に声を上げて笑った俺は、もう一回彼の背中を叩いてからキッチンカウンターに向かった。



「さてと、今夜は景気付けにカツカレーかな」

 作り置きのカツ各種の在庫を確認してから、俺は置いてあったカレーの入った大鍋を取り出して火にかけた。

 温めている間に、サラダの用意をする。

 洗って冷やしてあった何種類もの葉物の野菜を、一口でも食べられるように小さめにちぎってから大きめのボウルに全部放り込む。上からサイコロ状に刻んだ鶏ハムと茹でた豆も適当に散らす。

 そこに師匠特製玉ねぎドレッシングをぶっかけて全体に和えれば出来上がりだ。

 あとは、トマトを切っておけば良いだろう。



 生野菜のサラダをそのまま出すとハスフェル達はほとんど食べないんだけど、こんな風に全体に味を付けて鶏ハムとか燻製肉をちょっと入れて食べやすくしてやると、案外しっかり食べるんだよな。

 野菜嫌いの子供かってな。

 でもこれって実は、俺が子供の頃に母親がしてくれた方法なんだよな。

 レタスやキャベツを刻んだハムとか茹で卵とかコーン缶とかツナ缶と一緒に、ドレッシングやマヨネーズで和えてくれたごちゃ混ぜサラダ。

 見かけは若干残念だったけど、すごく美味しくってあれだと野菜がどんどん食べられたんだよな。

 それを見て嬉しそうにしていた母さんの顔は、いまでもよく覚えてる。

「それが今では作る側だもんなあ。しかもここは異世界で、作ってる相手は全員野郎って……どうよ。いやあ、本当に人生何が起こるか分からないよな」

 自嘲気味に小さく呟いた俺は、温まってきたカレーを焦がさないようにしっかり混ぜながら笑ってため息を吐き、子供みたいに笑い合って大騒ぎしながらゲームをしている仲間達を眺めていたのだった。

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