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一件落着!

「はあ、笑った笑った」

 笑い過ぎて出た涙を拭いながら、もう一度大きなため息を吐いた俺は、エルさんとアルバンさんを振り返った。

「じゃあ、もうこの件は一件落着でいいんだよな。後始末は、それこそ軍部の仕事だろう?」

「ああ、もちろんあの馬鹿達同様に、今回の二人の大馬鹿の弟子達もしっかりと裁かせてもらうよ」

 真顔のエルさんの言葉に、アルバンさんも真剣な顔で頷く。

「今回の一件、君には本当に迷惑をかけた。楽しむために祭りに参加してくれているのに、こんな形で出迎えてしまって本当に申し訳なかった」

「安全を考えて街の外にやったのに、逆に危険に晒してしまった。各ギルドを代表して、せめて謝らせてくれ」

 立ち上がった二人が揃って俺に向かって頭を下げるのを見て、慌てて立ち上がった。

「いやいや、そんなのやめてください。水臭いですよ。それを言い出したら騒ぎの発端は、前回の祭りの前に、俺達とあの馬鹿二人がマーサさんと一緒に店の見学に行った時に揉めたのが始まりなんですから」

 俺の言葉に顔を上げた二人が、顔を見合わせて苦笑いしている。

「そう言ってくれたら少しは気が楽になるよ。それじゃあこう言わせてもらうよ。これでもう事件は全て一件落着だ。後はもう思いっきり祭りを楽しんでいってくれたまえ」

「二連覇、期待しているぞ」

「あはは、もちろん全力で勝負させて頂きますよ」

 誤魔化すようにそう言って笑うと、いつの間にか立ち上がっていたクーヘンが俺の背中を叩いた。

「負けませんよ」

 短くも強気なクーヘンの言葉に続き、ハスフェル達もにんまりと笑って拳を突き出して来た。クーヘンも笑顔でそれに倣う。

「俺達を忘れるなよ」

「そうだぞ。一位と二位は金銀コンビが独占させてもらうからな」

 ギイまでがそんな事を言い、オンハルトの爺さんまでが俺の横へ来て肩を叩く

「俺も忘れてもらっちゃあ困るなあ。エラフィの足の速さを忘れたか?」

「そうですよ。ビスケットの加速も忘れないでください」

 ランドルさんまでがそう言って笑い、拳を突き出す。

「もちろん正々堂々と受けて立つよ。二連覇、阻んで見せてくれよな」

 俺もそう言って笑うと、円陣を組む全員の拳を集めた先に俺の拳も突き出した。

「思い切り楽しむとしようぜ!」

「おう!」

 ハスフェルの号令に、全員の声が唱和する。

 拳をぶつけ合った俺達は、もう一度顔を見合わせて笑い合ったのだった。




「さてと、今日は何をしようかなあ」

 エルさんとアルバンさんが帰った後、何となく全員揃って俺の部屋でダラダラとして過ごしていたんだが、すぐに飽きて来た。

 ううん、何もしないでいると落ち着かないって、我ながら貧乏性だねえ。



「ちょっと、厩舎のマックスとニニの様子を見に行ってくる」

 そう言って立ち上がると、従魔達はそのまま部屋に残して、自分だけで階段を降りて厩舎へ向かった。

 一応、装備は整えて剣帯も装着してあるから何があっても大丈夫だ。多分。

 一階受付のスタッフさんに声をかけてから、一人でホテルの裏にある厩舎へ向かった。

「あの、お待ちください!」

 受付にいたのとは別のスタッフさんが、慌てたように俺に声を掛ける。

「こちらからお入りください。今、裏の厩舎は一般客は立ち入り禁止とさせていただいておりますので、そちらからは入れません。ご案内致しますので、どうぞこちらへ」

 いつもの廊下から行こうとしたら止められてしまい、素直にそのスタッフさんについて行くと関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を開いて通された。

 そこはおそらく裏方用の廊下なのだろう。表の廊下と違って装飾などは一切無く、照明も暗めだ。



「お客様をこんなところにお通しして、申し訳ありません」

 前を歩きながらの申し訳無さそうなその言葉に、笑って顔の前で手を振る。

「お気になさらず。それだけしっかり従魔達を守ってくれてるって事ですからね。それに、こう言う裏方しか入れないところに入るのって、何だかワクワクしますよ」

「そう言っていただけるとありがたいですね。まあ、確かに普通は入れないところですねえ」

 苦笑いしてそう言ったスタッフさんは、振り返って俺を見て嬉しそうに一礼した。

「こんなところで言うも何ですが、どうか頑張って二連覇してください。実は、前回同様あなたの勝ちを期待して、単勝で個人とチーム戦の賭け券を買ってるんですよ」

「うわあ、それは責任重大ですね。今回も前回以上の強敵揃いですから正直どうなるかは分かりませんが、負けるつもりはありませんよ」

「そのお言葉を聞けただけで、もう大満足ですね」

 照れたように笑ったそのスタッフさんは、誤魔化すように声を潜めた。

「本当はスタッフが直接参加者の方にこんな事を言うのはいけない事なんですけどね。ちょっと、あなたとマックスの大ファンなんで興奮して我を忘れてしまいました。大変失礼をいたしました」

 最後だけ改まったその口調は、完全にホテルのスタッフさんらしいキリッとした顔になっていて、笑った俺は黙って拳を突き出した。

 一気に嬉しそうになったそのスタッフさんは、満面の笑みで拳を差し出してくれたので通路に立ち止まって俺達は拳をぶつけ合った。



「ここから出られます。ああ、お帰りの際もご案内させて頂きますので大丈夫ですよ」

 どうやって戻ったら良いんだろうと、裏の廊下を振り返った俺に気付いたスタッフさんが教えてくれる。

「良かった。帰りは一人で戻れって言われたら、絶対に迷子になって遭難する未来しか見えないですからね」

「まあ、確かに知らずに歩いたら裏の通路は遭難しそうですよね。新人は、たいてい一度はやらかして先輩に救出されてますから」

「あはは、やっぱりそうなんですね」

「そうなんですよ」

 そこまで言って、顔を見合わせて同時に吹き出す。

 うん、こういうベタなやりとりも嫌いじゃないよ。

 右肩に座ったシャムエル様に呆れたような目で見られた俺は、誤魔化すように笑ってそそくさとスタッフさんの後に続いて歩き出したのだった。

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