デザート付きの夕食
「ええと、ご飯とパン、どっちが良い?」
「ご飯でお願いします!」
そう言って手を挙げたのは、いつもの如くオンハルトの爺さん、ランドルさんとバッカスさん。それから俺もご飯だよ。
ちなみにパンは、ハスフェルとギイとクーヘンだ。
「付け合わせは、焼きポテトと温野菜、それからおからサラダとトマトとレタスで良いな。あ、やっぱりここは味噌汁がいるよなあ」
作り置きのワカメと豆腐の味噌汁を取り出して、鍋に人数分より少し多めに取り分けてコンロにかけておく。
温まったまま保存してあるから、すぐに火から下ろす。味噌汁は沸騰させたら駄目なんだぞ。
「味噌汁は好きにどうぞ。そしてこれが今日のメインディッシュだ!」
大皿に乗せたハイランドチキンのオーブン焼きを取り出すと、全員から何故か拍手が起こる。
「じゃあ切っていくぞ」
すると、ハスフェルがとんでもない事を言い出した。
「何だ、それ一人一枚ずつじゃないのか?」
無言になった俺は、全員を見回す。
「ええと、これ一枚食べる自信がある奴は手を挙〜げて!」
冗談だったんだが、全員が目を輝かせて手を上げてるし。
「分かった。一人一枚ずつどうぞ。だけど残すなよ」
そう言って笑いながら、巨大なハイランドチキンのもも肉のオーブン焼きの乗ったお皿をあるだけ取り出していく。
「全部で八枚あるから足りるな。いくらなんでも、これ一枚食えば、さすがのあいつらでも腹いっぱいになるよな……?」
若干の不安はあるが、まあなんとかなるだろう。
「もし足りなければ、他の作り置きを出してやれば良いな」
小さくそう呟いた俺は、一人一皿ずつオーブン焼きの乗った大皿を渡し、残った二皿を見つめる。
「俺は半分もいらないと思うから、予定通り切って食べるぞ。残りは保存用だ」
って事で、残った一皿はサクラに預けておき、まずはそのままいつもの簡易祭壇に丸ごと乗せる。ご飯をよそったお茶碗と味噌汁、サイドメニューを盛り合わせた大きな取り皿と麦茶も一緒に並べる。
「新作のハイランドチキンのもも肉のオーブン焼きです。付け合わせと一緒にどうぞ」
手を合わせて目を閉じると、いつもの収めの手が俺の頭を撫でてから料理を順番に撫でて行った。最後にメインのもも肉を両手で掴むようにして一瞬持ち上げるみたいにしてそのまま消えて行った。
「さすがにあれは大きかったかな? でもまあ、シルヴァ達も細い身体に似合わずよく食べてたもんなあ。絶対一枚くらいペロッと食べそうだよなあ」
自分の呟きにその光景が目の前にリアルに浮かんで思わず笑ってしまう。
「さて、食べよう」
笑って首を振ると、席に戻って待っていてくれた彼らにお礼を言って改めて手を合わせる。
「で、シャムエル様はどれくらい食べるんだ?」
顔を上げると予想通り、どう見ても小さな体には不釣り合いなくらいに大きなお皿を手にしたシャムエル様が、飛び跳ねて何やら複雑なステップを踏んでいる。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ!ジャジャン!」
最後は片足立ちで華麗にポーズを決める。
「はいはい、今日も格好良いぞ」
笑ってもふもふの尻尾を突っついてから、サクラに手を綺麗にしてもらって手にしたナイフでもも肉を分厚く削ぎ切りにしていく。
ううん。小さめに切ったつもりだったが、かなりの大きさだ。
「五枚ください!」
目を輝かせてそう言われて、若干呆れながらも言われた数だけお皿に乗せてやる。うん、どう見ても味見じゃ無くて山盛りだ。
サイドメニューと味噌汁とご飯も分けてやり、麦茶も蕎麦ちょこに入れてやる。
自分用には半分弱くらいを切り分けたところで手を止め、俺もとりあえず五枚取り皿にもらう。
「足りなかったら、後でまたもらう事にしよう」
そう言って、まずはメインのハイランドチキンを一切れ豪快に口に入れる。
「おお、香ばしくて美味しい。思った以上にしっかり味がついてるな。うん、これはご飯に合いそうだ」
ハスフェル達も、美味しい美味しいと言いながら豪快に切り分けて食べている。あれなら残す心配はしなくて良さそうだね。
「うん、香ばしくて美味しいね。鶏ハムとは全然違うや。これ気に入った。美味し〜い!」
尻尾をブンブンと振り回しながら、両手で持ったもも肉を豪快に噛みちぎっている。
パッと見たところ、どう見ても肉食のリスもどき……うん、見なかった事にしよう。
遠い目になった俺は、見たものを全部まとめて明後日の方向にぶん投げておき、素知らぬ顔で焼きポテトを口に入れた。
「これってご飯にも合うけど、野菜と一緒にパンに挟んでも良さそうだな。できればフランスパンみたいなハード系のパンに。あ、作る時にはもも肉を半分じゃ無くてもう少し小さく切れば、買った新しい方のオーブンなら余裕で入るな。よし、これもまた時間のある時に作っておこう」
気に入ったので、定番作り置きメニューに追加決定だ。
「まあ下ごしらえさえしっかりすれば、後はオーブンに入れて焼くだけだもんな。それほど手間もかからないので、他の作業と並行しながらでも出来そうだ。よしよし、また使えるレシピが増えたぞ」
満足そうにそう呟くと、後は黙々と食べることに専念した。
結局もう少し追加でもも肉のオーブン焼きをもらい、大満足の夕食を終えた俺は立ち上がってクーヘンを振り返った。
「まだ食べられるならデザートを用意するけど、どうする?」
「食べます!」
俺はクーヘンに聞いたつもりだったんだけど、全員から元気な返事をもらってしまった。
「了解、じゃあちょっと待ってくれよな」
全員分用意するにはちょっと在庫が少なめだが、まあ何とかなるだろう。
今回は、前回よりも少し深めで小さめのお皿を用意してやる。
まずは手早く、激うまリンゴをリンゴのウサギにしてやり、後は皮ごとサイコロ状に切っておく。イチゴは薄切りにして扇状に、激うまぶどうは半分に切っておく。
「ハスフェル、ブランデーを出してくれるか」
「おう、これでいいか?」
いつものめっちゃ美味しいブランデーを渡されて、俺は前回と同じく、残りのパウンドケーキをありったけサイコロ状に切り分けて、小鍋で温めたブランデーの中にどっぷりとつけてやる。残りのブラウニーも、サイコロ状にカットして、これもブランデーの中へドボン。
半分以上残っていたレアチーズケーキは、豪快に切り分けてお皿に並べる。その上から作ってあった赤ワインソースを回しかけてやる。
「ええと、生クリームの残りってどれくらいあった?」
「はい、これだけあるよ」
サクラが出してくれたボウルにまとめた生クリームもかなりありそうなので、適当にスプーンですくってレアチーズケーキの横に落とす。
アイスクリームもスプーンでたっぷりすくってその横に並べ、生クリームの周りにはさっきのブランデーしみしみケーキ達を豪快に積み上げていく。最後にちょっとだけ生クリームを上から乗せて切った果物を乗せたら完成だ。
「そして仕上げはこれだよ」
そう言って、アイスの上にもたっぷりブランデーを回しかける。
目を輝かせるクーヘンには一番最初に、それから全員に出来上がったデザートのお皿を手渡してやる。
「コーヒーはこれ。ジュースが良かったらこれをどうぞ」
ドリンクも一通り出してから、自分用にはマイカップにコーヒーを、それからグラスにいつもの激うまジュースを入れて、俺の分を飲み物と一緒に改めて簡易祭壇に並べて手を合わせる。
だってもう、実はこれを作ってる時から、ずっと髪の毛をひっぱられてました。
ちょっと落ち着けって。
「前回よりもちょっと量は少ないけど、スーパースペシャルデラックススイーツプレートの大人バージョンです。ケンカせずに食べてください」
これ以上無いくらいに嬉しそうな収めの手が俺を何度も撫でてから、ケーキとドリンクをしっかり撫で回して消えて行った。
「さて、いただくとするか」
そう言って席に座ると、当然のように新しいお皿を持って待ち構えていたシャムエル様に、半分以上取られたよ。
だけどまあ、俺はそれほど甘いものは好きじゃ無いから、アイスとレアチーズケーキがあれば充分だよ。
「ふおお〜! やっぱりこれは美味しい! 美味しいよ〜〜!」
さっき以上にブンブン振り回す尻尾を、俺はこっそり手を伸ばして気が済むまでモフりまくってやったのだった。
食べてる間は尻尾を触られても全くの無反応。
うん、我ながらデザート作戦はグッジョブだね。