カレーの試食とオーブン焼き
「ご主人、一時間経ったよ」
ガンマとデルタが声を揃えてそう言い、一時間ほど経過した調味液に浸したハイランドチキンのもも肉が入ったバッドを取り出してくれた。
「よし、じゃあ焼いていくか。ええと、せっかくだからジャガイモくらい一緒に焼いてみるか」
大型のオーブンなので、丸ごと半分に切ったハイランドチキンのもも肉が焼ける大きさだ。
試しに備え付けの天板にもも肉を乗せてみると、まだちょっと天板には余裕がありそうなので、サイドメニューに焼きポテトも作ってみる事にする。
「こんな感じで出来るだけ平たくしてっと」
もも肉は思ったよりも分厚そうだったので、均一に焼けるように塊の部分にちょっとナイフを入れて肉を平たくする。
「エータ、ジャガイモの皮を、ええと……とりあえず十個分剥いてくれるか」
「はあい、すぐにやります!」
元気良く返事をしたエータが、机の上に出してあったジャガイモを取り込んですぐに吐き出してくれた。
「クロッシェ、このジャガイモを大きめのくし切りにしてくれるか」
カウンターの影になった部分にいたアクアに小さな声でそう言ってやると、ビヨンと伸びたアクアが皮を剥いたジャガイモを取り込んだ。
しばらくすると、綺麗なくし切りになったジャガイモを吐き出す。
綺麗なレース模様に、アクアが一瞬だけなってすぐに戻った。
「ご苦労さん。たまにはお手伝いもしないとな」
アクアごと撫でてやってから、天板の肉の周りに軽く油を絡めたジャガイモを敷き詰める。
「じゃあこれを焼くけど、三十分くらいかなあ? まあいいや。これは焼き具合を見ながらだな」
余熱の完了したオーブンに、準備したハイランドチキンのもも肉ジャガイモ添えの乗った天板を入れて蓋を閉める。
「ゼータ、とりあえず20分計ってくれるか」
「二回砂が落ちるまでだね。了解です!」
そう言ってから、にょろんと伸びた触手が砂時計をひっくり返す。一回落ち切ると約10分だ。
備え付けの天板は全部で四枚あったので、残りの天板にもハイランドチキンのもも肉を乗せてジャガイモを並べておく。
これはそのままサクラに天板ごと預かっておいて貰えば問題なし。
空になったバットはアクアが一瞬で綺麗にしてくれた。
「焼けるまでに、次の照り焼きチキンを作るぞ。これはグラスランドチキンのもも肉を使うんだったな」
そうこうしている間に、どうやらカレーが出来上がったらしい。
カレーの良い香りが部屋いっぱいに広がる。
「これはいい香りですね。ううん、ここまで作って食べられないなんて」
泣く振りをするランドルさんとバッカスさんを見て、俺は笑って小さめのお皿を二つ取り出してご飯を軽くよそってやる。
「はい、試食な」
「おお、ありがとうございます!」
二人に渡したら、その後ろからハスフェル達三人にジト目で見られてしまった。
「俺達だって手伝ったのになあ」
「だよなあ。二人だけに試食させるなんて、ちょっとずるいよなあ」
「実にその通りだ」
三人の恨みがましい呟きに、苦笑いした俺は黙ってあと三人分のお皿を用意してやった。
「二日酔いじゃなかったのか」
態とらしくそう聞いてやると、揃ってもう大丈夫だとドヤ顔になってるし。
そして、机の上には、いつの間にかお皿を持ったシャムエル様までが、目を輝かせて俺を見ていた。
「分かったから、ちょっと待って」
受け取ったお皿にも、ご飯をよそりハスフェルに頼んでカレーを入れてもらった。
「はいどうぞ。試食だから少しだけな」
そして当然自分用のお皿にも少しだけご飯をよそってカレーをかける。
「うん、なかなか美味しく出来たな。一晩おけばさらに美味しくなるぞ」
スライムに頼めばすぐに出来るけど、それはランドルさん達がいるからあからさまにするのは禁じ手。
って事で、今晩は今焼いてるハイランドチキンのオーブン焼きを食べる予定だ。
「美味しかったですね。これ以上に美味しくなるのなら、もっと楽しみになりましたよ」
空になったお皿を返しながら、ランドルさんとバッカスさんはご機嫌だ。
俺は麦茶を、ハスフェル達はコーヒーを用意してやり、俺はグラスランドチキンの照り焼きを作る作業に戻った。
調味料を合わせて、ぶつ切りにしたもも肉をフライパンで順番に焼いては照り焼きタレを絡めていく。
作業の途中でオーブンの様子を見つつ、結局三十分ちょい焼いて一回目のオーブン焼きが完成した。
こちらも次々にオーブンに入れて焼いていく。あたりがすっかり暗くなった頃に、ようやく全部の料理が終わった。
「まだ夕食には早いな。じゃあこれもサクラに預けておくか」
大皿にドーンと焼いたハイランドチキンを丸ごと乗せて、ポテトは別のお皿に取り分ける。
丁度その時、部屋をノックする音がして俺達全員が顔をあげた。
「何だ? 何も頼んでないぞ?」
ギイがそう呟き、ハスフェルと二人で扉を開けにいく。
何となく身構えた俺は、自分で収納していた剣を取り出しておいた。
警戒心バリバリになった俺達だったが、聞こえた声に一瞬で警戒を緩めた。
そこにいたのは笑顔のクーヘンだったのだ。
「おう、どうした?」
ハスフェルが笑ってそう言い、彼を部屋の中に入れてやる。
「おやおや、何やらとっても良い香りですね」
部屋を見渡して笑顔でそう言ったクーヘンは、キッチンに立つ俺を見て笑って手を振った。
「明日はもう、お祭りの前日ですからね。店は兄達に任せて私も今夜からはここに泊まります」
「そっか、じゃあ久し振りに一緒に食事にしようぜ。今夜はハイランドチキンのオーブン焼きだよ」
「で、明日が俺達全員で作ったカレーなわけか。良いね」
嬉しそうなハスフェルの言葉に、クーヘンも嬉しそうな顔になる。
「嬉しいですね。久し振りにケンの作った料理が食べられます」
「嬉しい事言ってくれるな。だけど、おだてたら何か追加で出るかもな」
デザートに焼いたケーキがまだ少し残っていたのを思い出した俺は、笑ってそう言った。