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ジェムの使い方と食事を作る事

 オオタカのテリトリーから離れて、しばらく進んでいると段々と周りが暗くなってきた。

 ファルコは俺の肩が気に入ったらしく、ずっと肩に留まったままだ。


 そろそろランタンに火を入れておかないと、あっという間に真っ暗になりそうだ。

 マックスに頼んで止まってもらい、俺はひとまず背中から降りる。

 まず最初にサクラに頼んで、ランタンの入った巾着を吐き出してもらった。

 しかしすげえな、スライムって。その透明な体の何処に、預けた荷物が入ってるんだ?

 しかも、渡した荷物の全量の方が、どう考えても大きいと思うんだけど、こいつらの大きさは全く変わらない。

 ……物理の法則も、質量保存の法則も無視かよ。


 しかも、聞くと何が入ってるかは把握しているらしく、言えばちゃんと探してくれるらしい。

 倉庫係のスライム達、完璧じゃん。

 それなら後で、中に入れたものに名前をつけて教えておこう。そうしたら出してもらう時にすぐ分かるだろう。

 うん、良い考えだ。


 頷いた俺は、まず先にランタンに火を灯す事にした。


 こんな、何にも無い平原と雑木林しか無いような場所。日が暮れた瞬間、鼻先も見えないくらいの漆黒の闇になるのは確実だ。

 絶対、怖いぐらいの真っ暗になるって。

 とにかく手元が見えるうちに、光源を確保しとかないとね。


 ランタンを巾着から取り出し、改めてまじまじと見る。

 真ん中部分が丸く膨らんだ、丸い金属の筒型になっていて、上部に可動式の大きな輪っか状の持ち手が付いている。

 膨らんだ胴体真ん中部分がガラスになっていて、中に火芯が見える。うん、俺の知ってるランタンと相違無いな。

 ほっとして、グローブと呼ばれる風除けのガラスのシェード部分を、持ち上げてみようとして気が付いた。

 ランタンが妙に軽い。これって、もしかしてもしかしなくても、燃料が入っている様子が無いぞ!

 そしてオイルライターを付けようとして……こっちもオイルの匂いがしない事に気付いた。


 ええ! これってまさかの新品か? どうするんだよ。荷物の中にオイルは入って無かったぞ。


 まさかの展開に無言で慌てていると、またシャムエル様が腕に現れた。

「あのね、それを使うなら、さっきのスライムを倒した時のジェムを出して」

 アクアを見ると、さっき渡したちっこい石を出してくれた。

「あ、そっか。一つしか無いか。じゃあランタンにはこれを使って」

 そう言って、5センチぐらいの水晶みたいな六角柱の綺麗な透明の石を差し出してくれた。

 有り難く頂くけど、それ……何処から出したのか聞いても良い?


「まず、ライターの中側を取り出してくれる」

 言われるままに、蓋を開いて二重構造になったインサイドユニットと呼ばれる中の部分を取り出す。

 うん、俺の知ってるオイルライターと構造は同じだ。普通なら、この部分の中に入った綿にオイルを染み込ませるんだよ。

 しかし、覗き込んだインサイドユニットの中は、火芯用の紐があるだけで、肝心のオイルを含ませる綿が入っていない。

「その中に、さっきの小さい方の石を入れて」

 不思議に思いつつも、言われた通りにその石を中に入れる。ギリギリ入る大きさだった。

「よし、戻して良いよ」

 言われた通りに、石を入れたインサイドユニットを元に戻す。

「それは一旦蓋をして置いておいて。それで、ランタンの底が外れるようになってるから、開けてくれる」

 自信満々に言われて、不思議に思いつつひっくり返してみると、確かに底が外れるようになってる。

 普通なら、ここに燃料を入れるんだから、こんな場所に蓋が付くのはあり得ない。

 なんとなくこの先が読めた。

「もしかして、さっきもらったこの石を、ここにいれるのか?」

「そうそう。丁度入るでしょう?」

 当然のように頷かれて驚いたが、俺はとにかく底蓋を外してみた。

 少し大きいかとも思ったが、もらった石を入れてみるとぴったりと入った。

「で、蓋を閉める……まさか、これで火が付くのか?」

 自慢気に頷かれて、半信半疑で先ほどのライターの蓋を開けて、ホイールを回して火を着けてみる。

 小さな火花が飛んで、簡単に火が着いた。


 なんだよこれ!どうなってるんだ?


 まさかと思いつつ、ランタンのグローブを押し上げて、真ん中にある火芯に火を灯してみる。

「おお、着いた! すっげえ! 明るい!」

 思わず声が出るってもんだろう。何しろ、懐中電灯なんかよりずっと明るいのだから驚きである。オイル式のランタンなら、普通はもっと暗いぞ。


 これ、どうなってるんだ? あの石が燃料なのか?


 手にしたライターを改めて見てみる。

 蓋を開けてもう一度着けてみると、やっぱり簡単に火が着いた。

「すげえな。これって、あの石が燃料なのか?」

「そうだよ。こんな風に、ジェムは燃料として使えるんだ。オイルや薪なんかよりずっと簡単だし、小さな物でもかなり長持ちする。しかも安全だからね。旅人には必需品だよ」

「成る程な。宝石としてじゃ無くて、燃料として買い取ってくれるわけか」

 納得した俺は煌々と灯るランタンを手に、暮れ始めて少し薄暗くなった草原を見渡した。


 今いる辺りは、所々に雑木林や大きな木が有り、少し先には小高い丘みたいに段差になった所も見える。

 野宿するなら……あの大きな木の根元の段差になった辺りか? あそこなら、少なくとも片方は岩だから、遠くからでも丸見えにはならないだろう。

 念の為マックスに乗せてもらって、俺は目的の大きな木の生えた場所に向かった。

 うん、草の生えてない地面がある、よしよし、ここなら火を熾せるな。いや待て、まずは燃料に使えそうな木の枝を探さないと。


 それとも、まさかとは思うが、ジェムにそのまま火を着けるなんて事も出来るのか?


 しかし、足元には小枝のかけらも見当たらなかった。

 困って辺りを見回すと、木の奥側の草地の辺りがガサガサと不自然に動いている。

「なあ、もしかして……あそこに何かいる?」

 小さな声で話しかけると、マックスが茂みを見ながら頷いた。

「スライムですね。我らに気付かなかったらしく、逃げ損なってパニックになってます。今後もジェムが必要なんですよね? やっつけますか?」

「うん、じゃあ俺がやってみるから、もし危なそうだったら助けてくれよな」

 ニニとマックスの背中を叩いて、肩にいたファルコをマックスの背中に移動させる。

 持っていたランタンをマックスに咥えてもらって、剣を抜いてそっと茂みへ向かった。


 うう、やっぱり緊張するよ。


 唾を飲み込んで剣先で茂みをかき分けると、案の定スライムが飛び出してきた。

「よっと!」

 今度は、ちゃんと見ながら切る事が出来た。

 スパッと真っ二つになったスライムが消えて、小さなジェムが落ちる。喜んで拾おうとしたその時、茂みからもう一匹飛び出してきたのだ。

「うわわ!」

 慌てて咄嗟に剣を振ったが、残念ながら見事に空振ってしまい、最悪な事に勢い余って転んでしまった。跳ねるスライムが、もう一度俺に飛び掛かってくる。

 転んだまま、俺は必死になって剣を振り回した。

 偶然だけど、飛び込んできたスライムに当たって見事に真っ二つになったよ。

 うん、これからは気をつけよう。

 モンスターは一匹だけとは限らないんだからな。


 誤魔化すように笑って、起き上がって埃を払い、落ちた二粒の石を拾う。

 うん、もうちょっと頑張って、剣の扱いにも慣れるようにしよう。ってか、まずは落ち着け、俺!

 密かに誓って振り返ると、いつの間にかマックスの背中に、ファルコと並んでシャムエル様も座っていた。


「自力での燃料確保、おめでとう。頑張ったご褒美にこれもあげよう」

 にっこり笑って取り出したのは、これまた見覚えのある、シングルタイプのアウトドア用のミニコンロだった。

 だから、それをどこから取り出したんだよ?


 まあきっと、深く考えてはいけないのだろう。


 深呼吸を一つしてコンロを受け取った俺は、ひとまず荷物を降ろして、地面に座った。

 まずはサクラに頼んで、預けた荷物をとりあえず全部取り出してもらう。

 ミニコンロに確保した石を一つ入れて、一旦置いておく。残りの一つはアクアに渡して持っていてもらう。

 大きな巾着から鍋を取り出し、ちょっと考えて干し肉を取り出してみた。

「なあ、俺は自分で何とか料理出来るけど、こいつらの食事ってどうすればいいんだ? スライム達はいざ知らず、三匹は、このデカさだと相当食うんじゃないのか?」

 干し肉の塊を見ながら、いつの間にか俺の肩に座ったシャムエル様に聞いてみる。

「あ、この子達は皆、自分で狩りをするから食事の心配はいらないよ。時々君から離れるけど、どちらかは必ず一緒にいるようにすれば構わないでしょう? スライムは、基本雑食だから、そこらに生えてる草でも十分だよ。ケンは自分の食事だけ用意すれば良いからね」

「あ、そうなんだ。じゃあ、俺の分だけで良いんだな」

 納得した俺は、ナイフで、持っていた干し肉をとにかく少し削ってみた。

 ちょっと硬いが鰹節ほどじゃない。うんよしよし、これぐらいなら手でも削れるな。

 試しにひとかけら齧ってみたが、少し塩っぽくて、硬めのベーコンみたいだ。これなら、そのまま煮込めば、干し肉の出汁を取る時に塩分も補給出来るな。

 適当に干した野菜みたいなのを取り出して、お皿の上でナイフで切って、鍋に水筒から水を適当に入れて、削った肉と切った野菜を鍋に放り込む。

 ライターで、新しいコンロにも火を着けてみる。

 ちゃんと着いたのを確認して、具材を入れた鍋を火にかける。


 自炊の第一歩。とりあえず煮込めば何とかなるだろう作戦だ。


 袋に入っていた干した野菜はカスカスでフリーズドライみたいな感じだったから、そのままでも大丈夫だろう……多分。


 待つ事しばし。


 沸いてきた謎スープをスプーンでゆっくりかき回しながら、しばらく煮込んでみる。

 何となく、上手く出来た気がする……多分。

 少し掬って食べてみると、案外美味しい。

 箱からクラッカーを数枚取り出してお皿に置き、深めのお皿に出来たスープをよそる。

「いただきます」

 手を合わせて、まずは一口食べてみる。

「お、適当に作ったにしては上出来だな。普通に美味いぞ」

 野菜は、思ったほど嵩が増えなかったみたいで、全体に若干水っぽくなったが、十分美味しいと言って良いだろう。次に作る時は、もう少し野菜を増やそう。

 クラッカーを割り込んで、汁に浸しながらしっかり食べた。

 うん、飯が美味いって大事な事だよな。


 食後に、パーコレーターでコーヒーを沸かして淹れて、味わって飲んだ。

 コーヒーのお供に、チョコをまた一粒だけ食べる。これも美味しい!


 満足した俺は、サクラに頼んで汚れた鍋や食器を綺麗にしてもらった。

 スライムってすごい。ペロッと取り込んで吐き出したら、もうピカピカなんだよ。

 凄すぎる! ちょっと感動したよ。


「こうなると、小さくても良いから、野外で使える折りたたみ式の机や椅子が欲しくなるな。あとは……まな板だな」

 片付けながら思わずそう呟いて、街へ到着した時の買い物リストを頭の中に用意する。

「それから後は……絶対必要なのがテントだな。晴れた日なら野宿するのに野ざらしでも何とかなるが、さすがに雨が降ったりしたら濡れたまま寝るのは辛いだろう」

「ああ、テントね。ごめん。それは思い付かなかったや」

 俺の無意識の呟きを聞いたシャムエル様に、突然そんな事言われて、思わず笑ってしまった。


「まあ、一晩ぐらいは何とかなるだろうさ。まさかとは思うけど、街までって、そんなに遠いのか?」

「ここで一泊して、明日の朝出発するとしたら……夕方までには街へ到着出来るね」

 シャムエル様の言葉に、俺は少し考える。夜通し走るのは、まだこの世界の様子が分からないから危険だろう。それに、そこまでの危険を冒してまで、急ぐ旅では無い。

 それなら、もう今夜はここで野宿だな。

 大きく伸びをした俺は、寝る為の準備をする事にした。

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