ベッドでの平和的寝方について
「分かった。作ってやるからちょっと待て」
呆れたようなため息を吐いた俺は、そう言って鍋の火を強くした。
今日は全員が二日酔いだから食べる量は控えめかと思ったんだが……相変わらず皆の食う量がおかしい。
肉も野菜も相当用意してあったはずなんだけど、気がついたらほぼ全部がかけらも残さずに鍋から駆逐されていた。
なので、もう腹一杯なら締めの雑炊はまた別の日にすれば良いかと思っていたら、当然、締めの雑炊があること前提で食べていたと全員から言われて、俺はもう笑うしかなかった。
そして、こちらも空になったお椀を持って目をキラキラさせながら、次は雑炊〜! とか言ってるシャムエル様。
最初に入れてやった後も、確か二杯はお代わりしていたはずだけどまだ食うみたいだ。大丈夫か、おい。
シャムエル様の腹も、どうなってるのかマジで知りたいぞ。
そんなことをつらつらと考えつつ、沸き立った鍋に大量のご飯を入れてかき混ぜる。
「サクラ、ここに卵を五個割ってくれるか」
ご飯をよそっていたお椀を渡して、雑炊に入れる生卵を割ってもらう。
「はい、どうぞ」
きちんと小皿に一個ずつ割った生卵五個分をお椀に入れて渡してくれる。大量の雑炊なので、五個くらいは余裕でいるだろう。
煮立った雑炊の鍋に溶き卵を回し入れ、かき混ぜたら素早く火を止めて余熱で火を入れる。
結果、大鍋いっぱいにあふれんばかりの雑炊が出来上がった。最後に刻んだネギを散らせば完成だ。
「出来上がったぞ。熱いから気を付けてな」
製作者の特権で先に自分の分を確保してから、大喜びで鍋に駆け寄るハスフェル達にそう言ってやる。
目を輝かせて待ち構えていたシャムエル様のお椀には、俺の分から少し冷ましてから雑炊を入れてやり、俺も締めの雑炊を美味しく頂いた。
はあ、やっぱり鶏鍋の締めは雑炊だよな。
大満足の夕食を終え、スライム達に手伝ってもらって片付けた後、少し休憩してから俺は早めに休ませてもらう事にした。
「俺はもう寝るけど、全員俺の上に乗ってくるのは無しだからな。せめて俺が寝返りを打てるスペースは残しておいてくれ」
ベッドに駆け上がろうとした猫族軍団に慌ててそう言い、順番におにぎりの刑に処する。
「ええ、ご主人にくっついて寝るのが良いのに」
物凄い音で喉を鳴らしながら、ソレイユとフォールが文句を言う。
「だから、別にくっつくなとは言ってないから、俺が寝返りを打てる場所を開けていてくれって話だよ。分かったか?」
「分かった〜〜〜〜〜」
完全に脱力しながらの返事だったのでやや信頼性に欠けるが、まあ言質は取った。
笑ってもう一度全員を順番に揉みくちゃにしてやってから、俺はベッドに潜り込んだ。
足元に中型犬サイズにまで小さくなったセーブルが来て転がる。
「ご主人の足程度なら、蹴っても大丈夫ですからね」
何故か嬉しそうにそう言うので、気にせず腹の上に足を乗せてみる。
「おお、良い感じの固さだ」
笑ってそう言い、少し考える。
「なあ、セーブル。こっちに来てくれるか」
枕元を叩いてそう言うと、不思議そうにしつつすぐそばまで来てくれる。
「ここ、ここに今みたいに横になってみてくれるか」
枕をどかせてそう言うと、俺の言いたいことを理解したセーブルがいそいそと言われた場所にきて横になった。
「それで俺が、ここで寝るっと」
使っていた枕は腰の段差を埋めるのに使い、セーブルの腹の辺りにいつもニニにしているみたいに上半身を預けて横むきに寝てみる。
「おお、これは良い感じだ。よし、俺が部屋のベッドで寝る時には、セーブルに枕担当を任命する!」
「はい、了解しました〜!!」
嬉しそうなセーブルの返事に俺も声をあげて笑い、胸元に飛び込んできたフランマを抱き枕にしてやる。
背中側には巨大化したラパンとコニーがいつもの定位置につき、マックスの場所にはティグとマロンが大型犬サイズになって並んで収まった。
その上から毛布をスライム達が広げてかけてくれた。
「ありがとうな」
スライム達は、ソフトボールサイズになって部屋のあちこちに好き勝手に転がってる。
狼達とソレイユとフォールは、ベリーと一緒にベッドサイドの床でくっついて丸くなった。
「では消しますね。おやすみなさい。良い夢を」
優しいベリーの言葉に、俺は多分返事をしたと思う、
だけど、俺は横になって目を閉じてすぐに気持ち良く眠りの国に旅立ってしまったので、そこから先の記憶は無い。
いやあ、相変わらず我ながら感心するくらいに墜落睡眠だねえ。
翌朝、気持ちよく自力で目を覚ました俺が見たのは、俺が枕にしているセーブルと抱き枕になっているタロン以外、何故だか全員が大型犬サイズになって、俺の周囲を円陣を組むみたいにしてびっしりと取り囲んで寝ている謎の図だった。
どうやら俺が寝返りが打てる場所を確保してくれって言った結果、こうなったみたいだ。
キングサイズのベッドだからこそ出来る荒技。
セーブルの頭の上でくっついて熟睡しているシャムエル様とモモンガのアヴィを見て、俺はちょっと笑ってふかふかの尻尾を突っついてやり、そのまま、また気持ちよくセーブルの腹にもたれかかって目を閉じた。
「よし決めた。もう一日何もしない日にしてやる」
そう呟いて、ふかふかなタロンに頬擦りする。
いつもならそろそろ起きる時間だけど構うもんか。
ううん、休日の二度寝って最高だね!