癒しの従魔達と夕食
「ああ、お粥最高! やっぱり二日酔いの時はお粥が良いよな」
海老団子の入ったお粥を平らげた俺は、大きなため息を吐いてそう言って口元を拭った。
「確かに美味いな」
隣で、大根と人参の入った雑炊を平らげていたハスフェル達も、揃ってウンウンと頷いている。
「ああ、そして今こそ梅干しだよ。これ、塩は薄めだけど、梅の風味もバッチリでめっちゃ美味え。やっぱり値段は嘘言わないよな」
梅干しの種を口に含んでそう呟く。
そう、セレブ買いで見つけた超高級梅干し。他にないのか聞いてみたんだけど、何故かこれしか無かったんだよ。絶対嘘だと今でも思ってる。
大粒とはいえ四十粒しか入ってない陶器の壺入りで、お値段何と金貨二枚。
って事は、多分二万円くらい……。一粒五百円。おいおい、どれだけ高級品なんだって。
だけど、梅干しは絶対欲しかったので在庫あるだけ全部もらったよ。大丈夫だ。予算は潤沢にある。
そして今、その超高級梅干しを俺はありがたく頂いている。
はあ、この幸せ感……。
結局、その日は一日休養日ってことになり、もう一日中ダラダラと過ごした。
ランドルさん達はお粥を食べた後、寝直すんだと言って部屋に戻って行った。
そのまま俺達も何となくのんびりと過ごし、夕方前に、俺はホテルのスタッフさんと一緒にマックスとニニの様子を見に行った。
特に、マックスは三周戦の参加従魔って事で、特別扱いらしい。
「マ〜ックス、ニニも!!元気にしてるか!」
案内された厩舎はとても清潔に手入れされていて、足元にはたっぷりの干し草が敷いてある。
マックスはニニと一緒に、厩舎の中でも広い小部屋の様になった場所で二匹だけで寛いでいた。
俺の声に反応して嬉しそうに飛び跳ねながらヒャンヒャン鳴いてるマックスは、大きさが違うだけでまるで普通の犬みたいだったよ。
駆け寄って力一杯抱きしめてやる。
「やっぱり寝る時はマックスとニニと一緒が良いよ。あいつらと一緒にベッドで寝たら、身動き出来なくてもう身体中ガチガチなんだぞ」
苦笑いしながらそう言うと、マックスは嬉しそうに鼻で鳴いてその濡れた鼻先を俺に押し付けてきた。
そのまま抱きついてたら何だか眠くなってきて、ニニとマックスの隙間に潜り込んで寛いでいた俺は、いつの間にか眠り込んでしまっていた。
目が覚めた時にはもう外は真っ暗になっていて、俺は大きく伸びをして二匹の隙間から外に出た。
「ふああ、すっかり暗くなったな……ええと、何かすみません」
俺が起きたのに気付いたスタッフさんが、慌てたように駆け寄ってくる。
何でも、俺が寝ているのに気付いて起こそうとしたら、マックスとニニに唸って威嚇されたらしい。
「うわあ。何だかご迷惑かけたみたいですみません」
慌てて謝ると、何故だかスタッフさんに慰められた。
「マックスとニニは、貴方の事が本当に大好きなんですね。あなたが寝ている間中、二匹がとても幸せそうでしたからね」
スタッフさん達に、妙に優しい目で見られた挙句にしみじみとそんな事を言われてしまい、俺はもう恥ずかしさの余り居た堪れなくなって、何とか適当に誤魔化してその場を逃げ出した。
「うう、ついいつもの感覚で二匹の隙間で寝ちゃったけど、考えたら自分の従魔達と一緒とは言え、厩舎の中で寝るってどんな奴だよ」
小さくそう呟き、階段を駆け上がってとにかく部屋に戻った。
うん、階段をダッシュしても大丈夫って事は、もう完全に酔いは覚めたな。
「おう、おかえり。遅かったな」
超豪華スイートルームに戻ると、復活したランドルさん達も来ていて、野郎が雁首揃えて何やら真剣な様子で机に向かっている。
「ただいま。いやちょっとマックス達と戯れてたら遅くなったよ。それで、皆揃って何をしてるんだ?」
そう言いながら、彼らの手元を覗き込む。
どうやら、部屋に置かれていたボードゲームを見つけて始めたら思いの外面白くて、皆して夢中になっているらしい。
何でも見習いから始まり、修行したり商売したりしながら立身出世していくみたいな感じのゲームだったらしく、オンハルトの爺さんとギイはすでにゴールしていて、ハスフェルとバッカスさんは、二人揃ってゴール手前で、進んでは戻るという堂々巡りのトラップにハマっていた。
そしてランドルさんは、何故だかようやく中盤が終わったあたりで一人ポツンと取り残されていた。
何でもゴール直前で自分の会社が乗っ取りに遭ってしまい、資産から持ち物から全部身ぐるみ剥がされて放り出されてスタートからやり直しをしているらしい。要するに、振り出しに戻る。
何それ怖い。
横で見ていても確かに結構面白くて、俺はサイコロを転がす役目を仰せつかり、結局ランドルさんが何とかゴールするまで俺も一緒になって楽しんだのだった。
「へえ、こういうのもたまには良いなあ。ちょっと一つくらい欲しいかも。ところで夕食はどうする? また何か頼むか?」
使った駒を片付けているのを見ながら、側に寄ってきた従魔達を順番に撫でてやる。
「ああ、ホテルの料理続きだったからな。そろそろケンの料理を食いたいなって話をしていたんだけど、構わないか?」
ハスフェルの言葉に全員揃って頷いている。何だよ。嬉しい事を言ってくれるじゃんか。
「じゃあ、ここへ来る前に仕込んでた鶏鍋にするか。さっぱりポン酢で食べようと思ってたんだ。それで良いか?」
「お願いします!」
「了解、じゃあ準備するから待っててくれ」
見事に声が揃ったので、笑った俺は綺麗に片付いた机の上に、鞄に隠れたサクラから簡易コンロを取り出して置き、鶏鍋の入った大鍋も取り出して火にかけた。
作り立てを収納してあったから、鍋はすぐにぐつぐつ言い出す。
「じゃあ。これが取り皿で、箸はこれ。これが師匠特製ポン酢だ。後は好きに食ってくれよな。追加の肉と野菜はこれ」
追加の野菜と鶏肉も出して並べておく、こうすれば後は俺も一緒に食えるからな。
各自、嬉々として好きに取るのを見て、俺も慌てて参戦した。つみれは絶対に確保するぞ。
俺の分の取り皿と、ハスフェルが出してくれた冷えた白ビールをいつもの簡易祭壇に並べて手を合わせる。
「つみれ入り鶏鍋です。味付けはポン酢でどうぞ。鍋にはやっぱり冷えたビールがいいと思います」
小さく呟いて目を閉じると、いつもの収めの手が俺の頭を撫でてから、つみれや肉、それから野菜が山盛りに入った取り皿を撫でて、白ビールのジョッキを持ち上げる振りをしてから消えて行った。
「気に入ってくれると良いな。俺、鍋の中ではこれが一番好きなんだよ。締めの雑炊がまた最高なんだよな」
そう呟いてから、自分の取り皿を持って席に座り、もう一度手を合わせてから食べ始めた。
「ううん、美味しい!」
二個目のつみれを口に入れようとした時、お茶碗サイズのお椀を振り回しながらステップを踏むシャムエル様と目が合ってしまった。
なかなかに激しいダンスを終えたシャムエル様が、お椀を差し出してキメのポーズで止まる。
「たっぷりお願いします!」
手を止めた俺は、鍋を見て俺の取り皿を見た。シャムエル様の視線は俺の手元の取り皿に釘付けだ。
「うん、それが良い。ちょっと冷めてるでしょう?」
神様にそう言われてしまえば仕方がない。
ひとまず食べるのを諦めて、差し出されたお椀に俺の取り皿の分を入れてやる。
どう見てもそのお椀、見た目以上に入った気がするんだが……俺の気のせいか?
結局、俺の取り皿は汁だけ残してほぼ空になってしまい、早くもおかわりを取りにいく羽目になった。
まあ、まだまだ材料はあるから良いんだけどね。
小さめのカップに並々と入れた白ビールを飲みながら、大喜びでつみれを齧るシャムエル様を見ながら、俺は追加の肉と野菜を鍋に入れたのだった。