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祝杯と大宴会

「はあ、笑い過ぎて腹が減ってきたよ。部屋に戻ったら昼食だな」

 大きく深呼吸をした俺は、まだ笑いそうになるのを我慢してなんとか平気を装ってそう言った。

「確かに。しかし笑い過ぎで腹が減るってのも、考えたら貴重な経験だな」

 大真面目なオンハルトの爺さんの言葉に、俺達はまたしても堪えきれずに全員揃って大爆笑になったのだった。



「じゃあ、戻るか」

 ひとしきり笑い合い何とか復活した俺達は、小さくなった従魔達をまた手押し車に乗せて部屋に戻ろうとした。

「あの、ちょっと待ってください!」

 同じく従魔達を手押し車に乗せ終えたランドルさんが慌てた様にそう言って、帰り支度をしていた神官を振り返った。

「あの、登録料はどうさせて頂いたらよろしいでしょうか?」

 ベルトの小物入れから巾着を取り出しながらそう質問する。

 ああ、確かにクーヘンの時も登録料ってのを支払ってたな。

 確か一時は、一部の聖職者達が暴利を貪ってたけど、その後元に戻ってるってシャムエル様から聞いたけど……。

 若干不安に思いつつ見ていると、その神官はトレーに一緒に置かれていたメモの様なものをランドルさんに渡した。

「こちらが請求書になります。ホテルを通じてのご依頼でしたので、支払いはホテルの方にお願いします」

 成る程。ホテル内にある分所だから、支払いもホテルを通すんだ。

「銀貨五枚。ええ、そんな金額でよろしいのですか?」

 おお、クーヘンの時と同じだからホテルの仲介料無しだよ。

 密かに感心していると、苦笑いした神官が小さく頷いた。

「お恥ずかしい事ですが、一時期紋章の授与が激減したこともあり、高額な登録料を請求した時期もあったのですがね。そのせいで余計に登録する方がおられなかったのではないかとその後問題になりまして、今は、実際にかかった経費分と手間賃程度をお支払いいただく形になっております。ですので、これでお願いします」

 一礼したその神官は、そう言って俺たちに廊下へ通じる扉を示した。もう帰っていいって事なんだろう。

「じゃあ戻ろうか」

 俺の言葉に皆が頷き、改めて神官にお礼を言ってから廊下へ出た。

「戻ったら祝杯をあげないとな」

 笑って俺がそう言うと、ランドルさんも満面の笑みで大きく頷き互いの拳をぶつけ合った。




 階段まで来たところでまたスタッフさん達に車輪を変えてもらい、従魔達の乗った車を引いて階段をせっせと登った俺達は、五階にある部屋に向かった。

「はあ、到着! 登るのは結構疲れたな」

 車から降りてそれぞれいつもの大きさになった従魔達は、日当たりの良いベランダへ出て好きに寛いでいる。

「それじゃあ俺達は食事にするか。ええとどうする? またルームサービスで何か頼むか? それとも何か出そうか?」

 作り置きはかなりあるし別に手持ちで食べても良いかと思って言ったのだが、ハスフェル達は既にメニューボードを見て注文するものの相談を始めていた。

「任せるけど程々にな。祭り当日までホテルに缶詰なんだから、毎回あんなに食ってたら太るぞ」

 俺の言葉にハスフェル達が笑っている。

「じゃあ、午後からは部屋でも出来るトレーニングでもするか?」

「ええ、今日は今から祝杯をあげるのに!」

 俺とランドルさんの悲鳴が重なり、ハスフェル達がまたしても揃って吹き出す。

「確かにそうだな。じゃあ、今日は祝杯をあげて好きに過ごして、明日は一日訓練しようじゃないか」

「いいな、じゃあそれで行こう」

 確かにずっと室内にいると体が鈍りそうなので、少しでも体を動かせるのなら嬉しい。

「ああ、それなら訓練室が一階にありますから、頼めば開けてくれると思いますよ」

 ランドルさんがそう言ってくれたので、後でルームサービスを持ってきてくれた時に聞く事にした。

 まあ、この規模のホテルなんだから、宿泊者専用のトレーニングルームくらいあってもおかしくないかもな。




「俺、言ったよな。程々にしておけよって」

 またしても広い机に溢れんばりに届いた料理の数々に、呆れた俺はそう言ってハスフェル達を振り返った。

「いや、それぞれ食いたいものを頼んだだけなんだけどなあ」

「だから、程々って言葉の意味をお前らは辞書で調べて来いって」

「そんな言葉、辞書に載ってたかなあ?」

「さあ、覚えがないなあ?」

「俺も知らんな」

 笑いながらハスフェルとギイがそんな事を言い、オンハルトの爺さんまで一緒になって大真面目にそんな事を言ってる。

「もう、何でもいいから注文した以上残すなよ」

「当たり前だ、食いもんを残す様な事はしない」

 何故だかドヤ顔でそう言われて、俺はもう笑って自分の白ビールを手に取った。

「それじゃあ、色々あったけど無事に魔獣使いとなったランドルさんに乾杯だ!」

「確かに色々あったな」

 バッカスさんの言葉に、また全員揃って吹き出す。

「いや、お前らそんな事言うけど、いきなり目の前であの塊が自分の手のひらの中にめり込んでいくのを見てみろ。悲鳴ぐらいあげるだろうが!」

 開き直ったランドルさんの反撃に、またしても揃って大爆笑になった。




「へえ、クーヘンさんは気絶したんですか」

 白ビールで両手の数で数えきれないくらいに乾杯した頃、すっかり出来上がった俺達は、クーヘンが紋章を授与してもらった時の事を話して笑い合っていた。

「ケンさんの時はどうだったんですか?」

 興味津々でそう聞かれて、俺は困った様に机の上で白ビールをがぶ飲みしているシャムエル様を見た。

「俺も何も知らずに紋章を授けてもらったからなあ。確か、驚きのあまり固まってた記憶があるよ」

「へえ、そうなのか?」

 ハスフェル達までが興味津々でそう尋ねてくるので笑って誤魔化しておいた。

『だって、俺はシャムエル様から直接授けてもらったからさ』

 念話でそう伝えておくと、小さく笑った三人が黙って乾杯してくれたよ。



 結局、その日は一日中だらだらと飲み続け、夕食にもまた大量の料理が運ばれて来てまた乾杯して大いに飲んだ。

 その結果、完全に酔い潰れた俺達は、それぞれの従魔達と一緒にそのまま床で雑魚寝する事になったのだった。

 まあ、毛足の長い絨毯のおかげで、野外で寝るよりははるかに寝心地は良かったけどさ。

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― 新着の感想 ―
高級ホテルの絨毯の上なら風邪もひかないよね(*´▽`*)
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