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最初の剣と昼食

「あ、ご主人。さっきのジェムの数、訂正ですー! 456,312個は亜種だったよ!」

「ご主人。ごめんね! こっちも訂正〜!569,472個は亜種でした!」

 アクアとサクラが嬉々として報告する数字を聞いて、もう俺は考える事を放棄した。


 うん、スライム達の腹の中はどちらの容量も無限大だって創造主様が言ってた!だから、別に一億超えのジェムが埋まっていようと、誰かに迷惑を掛けるものでも無いだろう……多分。


「なあ、ジェムモンスターって無限に湧いてくるものなのか? もし、俺が買い取りに出さずにジェムのまま持ってたら、これから先に出現するジェムモンスターの数に影響あったりする?」

 さすがに心配になって確認しておく。

 もしも、俺が持ったままにしている事で、この世界に何らかの影響があったりしたら大変だもんな。

「あ、ジェムになってしまったら関係無いよ。どちらかというとジェムモンスターの状態の方が、その場にいる総数は影響するかな」

「つまり、普通なら一定の数でどんどん増える?」

「そうそう、だから、あのブラウングラスホッパーみたいに、攻撃性の高い種類が異常なまでに一斉に増えたりすると問題になるんだよね。ゴールドバタフライも大量発生していたけど、あれははっきり言って蜜を吸うだけの無害な存在だから、増えたところで然程大騒ぎにはならないんだよ」

「じゃあ、俺がこのままジェムを持ってても大丈夫だな」

 俺がそう言うと、シャムエル様は不満げに俺を見た。

「ええ? せっかく頑張っていっぱい集めてあげたのに、換金しないの?」

「いやいや、さすがにあの数は無理だって。全部換金したらここのギルドが破産しちまうよ。まあ、順番にこれから先に行く街で、少しずつ使ったり売ったりする事にするよ」

「欲が無いんだな、本当に。まあ良いや。それは君にあげたものだから好きに使ってよね。あ、こっちは返してもらうね」

 そう言って、シャムエル様は俺が脱いだボロボロの服と防具を手にとって消してしまった。残った剣を見て俺の顔を見る。

「ん? 何、あの剣に何かあるのか?」

「ヘラクレスオオカブトの角で剣を作ってもらうんだよね。あんなのでも土台になるかな?」

「あんなのって、そこまで言うのはどうかと思うぞ。使ってたから分かるけど、バランスの良い、初心者が使うにはかなり良い剣だったと思うけどなあ」

 マックスの背中から飛び降りて、俺は地面に置いたままになっていた、今までお世話になった剣を手にした。

「あれ? なんだか妙に軽いぞ?」

 不思議に思って、柄を持って抜いてみる。


「ええ! ちょっ、これ一体どうなったんだよ!」


 思わず、俺が叫んだのも無理はなかろう。

 俺が抜いたその剣は、今までとは全く違う、世にも哀れな姿に成り果てていた。


 綺麗な鋼の輝きを放っていた剣身部分は、全体に焼け焦げたように真っ黒になり、ついでに言うと両側の刃の部分は、あちこち酷く欠けて刃こぼれして、ノコギリみたいにギザギザになっていた。そして何よりも最悪だったのが、全体の三分の二程度を残して、剣先部分がポッキリと斜めに折れて無くなっていたのだ。


 こりゃあ、わざわざ新しい剣をくれる訳だ。

 これはもうはっきり言って、剣としてはもう使い物にならないレベルだ。さすがにここまで傷んだら、修理も不可能だろう。


 だけど思った。これは、この世界へ来て初めて持った、俺の剣だ。


「これ、記念にもらっても良いか?」

 そっと鞘に戻してやり、剣を見せながらシャムエル様を振り返った。

 まあ、激闘の記念にもなるだろう。

「うん良いよ。どうぞ好きにして。ヘラクレスオオカブトの剣を作る時にはまた考えれば良いからね」

 笑って、これはアクアに持っていてもらう事にした。

「頼むよ。あ、これは保存用だから、普段は取り出す物リストに入れなくて良いからな」

「分かった! じゃあ、もし出す時は何て呼ぶ?」

 改めてそう言われてちょっと考える。

「それなら……折れた古い剣、かな?」

「了解。じゃあそれで預かっておくね」

 咥えていた剣を、アクアが飲み込んでくれた。

「さて、じゃあとりあえず街へ帰ろう。ギルドに言って延泊分の金を払っておかないとな。出来れば明日もう一日泊まって、当初の予定通りに、食材の仕込みや料理をしておきたいんだよな」

「いいんじゃない。別に、急ぐ旅じゃ無いんだからさ。ケンの好きにして良いんだよ」

 笑ったシャムエル様にそう言われて、俺も笑って頷いた。

「それじゃあマックス、まずは街へ戻ろう。あ、お前ら食事は? もしかして、食べてないんじゃ無いのか?」

 心配になってそう言うと、二匹は目を細めて笑ったみたいだった。

「すっかり忘れていましたね。じゃあ街へ帰りがてら、近場で狩りを順番にする事にしますね」

「いや待って。俺も実はさっきから腹が減ってるんだよ。ええとちょっと聞くけど、この辺りはマックスの狩りの獲物になりそうな生き物っているのか?」

「もちろん普通にいるよ。ここはもう、郊外の草原そのものだからね。何の問題も無いよ」

 当然のように言われて、俺は小さく吹き出してマックスを見た。

「じゃあさ、俺はここで昼飯にするから、マックスは先に狩りに行って来てくれよな。で、お前が帰って来たら街へ戻る間にニニに狩りに行ってもらえば良いだろう?」

 俺の提案に、マックスは嬉しそうにワンと吠えた。

「おお、普通の犬っぽい鳴き声。久し振りに聞いたぞ」

 笑って首元に抱きついてやる。

「じゃあ行って来てくれよな」

 顔を上げて叩いてやると、もう一度吠えてから走り去って行った。


「じゃあサクラ、まずは大きい方の机と椅子を頼むよ、それからコーヒーセットを出してくれるか。食事は何にするかな? 腹減ってるし、ハイランドチキンのカツレツで、がっつりサンドイッチにするか」

 順番に色々出してもらい、まずはコーヒーをパーコレーターで沸かす。火にかけている間に、食パンを分厚めに二枚切って、バターとマヨネーズを塗っておき、千切ったレタスみたいなのを数枚重ねてパンに乗せその間にもマヨネーズを少しだけ塗っておく。で、揚げたてのハイランドチキンのカツレツを乗せて、モッツアレラチーズを分厚く切って上に乗せて、もう一枚のパンを重ねる。軽く押して半分に切ったら出来上がりだ。ちなみに、サンドイッチの時の、食パンの耳は切らないタイプだ。


 淹れたてのコーヒーを、マイカップにたっぷり注いで、出来立ての分厚いチキンカツを大口を開けて食べる。

 うん、自分で作って言うのもなんだが、美味いよ。

 腹が減っていた事もあり、あっという間にまず半分完食した。

 もう半分を食おうとして、ふとタロンを見た。

「あ、一日半も寝ていたんなら、お前の飯は? うわあ、ごめん。自分だけ先にバクバク食ってたよ」

 慌てて立ち上がりかけた俺を見て、タロンは目を細めて笑った。

「大丈夫ですよ。代わりにシャムエル様が鶏肉を出してくださいました。美味しく頂いてお腹いっぱいですから、ご主人もしっかり食べてくださいね」

 それを聞いて安心した。良かった、さすがは創造主様だね。周りへの気遣いもバッチリだよ。


「そっか。シャムエル様、ありがとうな。あ、食いかけだけど、一口食べてみるか? 美味いぞ」

 机の上に来て、俺が食べるのを見ていたシャムエル様に、俺は半分残ったサンドイッチを差し出した。

「良い?じゃあ一口もらうね」

 嬉しそうに目を輝かせたシャムエル様は、俺が差し出したチキンサンドの真ん中に噛り付いた。


 おお、豪快にいったな。


 だけど、離れた時、サンドイッチに残されていたのは、指先でちょびっと千切っただけみたいな、小さな食い跡が残ってるだけだった。口、ちっせえ!

「うん、美味しい!」

 笑った俺は、ナイフでチキンカツをさらに半分に切ると、真ん中の分厚いチキンの部分を1センチほど切り取ってやった。

「はいどうぞ。これくらいなら食べられるだろう?」

「この半分もあれば十分だよ。でもありがとう、嬉しいよ。あの約束、覚えててくれたんだね」

 細長く切ったチキンサンドをもう半分にしてやると、歯型の残った真ん中部分を嬉しそうに持った。

「うん、じゃあこれはもらうね。嬉しい!」

 目を細めて、抱えたチキンサンドを食べ始めた。

 それを見て、俺も残りのチキンサンドを平らげた。

 うん、やっぱり美味い。


 そして、目の前で嬉しそうにサンドイッチを抱えるシャムエル様をのんびりと鑑賞する事にした。

 だって、それはリスというより尻尾のあるハムスターが、サンドイッチをもらって嬉しそうに食べてる以外の何者でもなかった。


 何これ、可愛すぎる!


 無言で萌える俺に気付かず、シャムエル様もあっと言う間にチキンサンドを完食したのだった。

「こういう時は、こう言うんだよね。ご馳走さまでした!」

「おう、ごちそうさま!」

 慌てて俺もそう言って、俺たちは顔を見合わせて笑い合った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「ご馳走様」と言われたら、振る舞(作)った側は「お粗末様」と返すんだぜ? とか突っ込んじゃうのは野暮なんだろうなぁ~w 粗末なものですがとか、つまらないものですがとか 古き良き日本の謙譲の…
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