鶏肉料理と謎の人物達
「さあて、夕食はどうするかなあ」
サンドイッチと野菜サラダでちょっと遅めの昼食を食べ終えた俺は、残りのコーヒーを飲みながらそう呟いた。
今日の夕食は、鶏肉で鍋にしようと思って材料を切ってあったのを思い出したからだ。
「でも、あの巨大唐揚げでビール飲みたい」
なんとなく作ってる間に、あの巨大唐揚げが夕食の様な気がしていただけに困ってしまった。
「あ、そっか、鍋も作って仕込んでおけばいいんだよな。それでハスフェル達が帰って来たら、どっちがいいか聞いてみればいい。よし、そうしよう」
残りのコーヒーを一気に飲み干した俺は、そう呟いて立ち上がった。
手早く食べた食器を片付けて机の上を綺麗にする。
「だけど、まだ時間があるな。何を作るかな。あ、鶏そぼろ丼も食べたいから、久々に鶏そぼろを大量に仕込んでおくか。あれがあると、卵焼きに入れたり、おにぎりの具にしたりも出来るもんな」
って事で、まずはハイランドチキンの胸肉ともも肉を使って、大量の挽肉を作ってもらう。
大きな深めのフライパンに、出来上がった挽肉を入れて、砂糖とみりんとお酒、それから醤油を計って入れる。最後にすり下ろした生姜を汁ごと入れて軽くかき混ぜたら火をつけてあとはひたすら炒めて解すだけだ。
菜箸を立てて持って、鍋底に当ててぐるぐると円を描く様に混ぜたり、箸を前後左右に動かしたりして、ひたすら混ぜ続け、鶏肉の塊ができない様にするだけだ。
これは、火を使うのでスライム達は参加できない。悔しそうに少し離れてシャムエル様と一緒に俺のする事を見ているだけだ。
「危ないから離れてて良いぞ。出来上がったら冷やしてくれよな」
笑ってそう言い、後は出来上がったら大皿に山盛りにして、スライム達に交代で冷ましてもらってはサクラに預けるのを繰り返した。
用意していた大量の鶏肉が半分になったところで鶏そぼろを作るのをやめ、ボウル一杯分くらいを取り分けておいて、残りのこれを使ってミンチカツを作る事にした。これもトンカツ屋の定番人気メニューだった一品だ。
「まずは、みじん切りの玉ねぎを炒めるぞ」
油を引いた大きめのフライパンに、みじん切りの玉ねぎを入れ、軽く塩胡椒をして飴茶色になるまでじっくり炒めていく。
出来上がったら冷ましてもらい、溶き卵、黒胡椒と鶏肉用の配合スパイスを鶏ひき肉と一緒に大きなボウルに入れて、繋ぎに少しだけ細かく砕いたパン粉を足してバターを小さなサイコロ状に刻んで入れる。
「じゃあ、これをなめらかになるまで混ぜてくれるか」
順番に並んでいたので、一番前にいたイプシロンとガンマに渡してお願いする。
張り切って混ぜてくれている間に、残りの子達には手分けして揚げる為の準備をしてもらう。
形成担当、小麦粉担当、溶き卵担当、そしてパン粉担当だ。
俺は揚げるの担当だから、コンロを二つ並べて大きなフライパンにそれぞれ、たっぷりの菜種油と大白胡麻油を混ぜて入れて火にかけておく。
「じゃあ作っていきま〜す」
混ぜ終えたところで、イプシロンとガンマも形成担当に加わり一気に作って行く。
今回は、真ん中部分にスライスしたとろけるチーズを入れている。サクサクの衣とバターを足している為に鶏肉の臭みは全く無くて、ふんわり仕上がった肉汁たっぷりの部分。その間から溶けてあふれるチーズ。
定番トンカツと並んで、女性陣に絶大な人気だったメニューだんだよ。
まあ、ここにはむさ苦しいマッチョなおっさんしかいないけどな。
また懐かしい事を思い出しつつ、どんどん渡されて出来上がってきたミンチカツを丁度良い温度になった油で揚げていく。
仲良く手分けして手伝ってくれるスライム達のおかげで、手間のかかるこんなメニューも簡単に出来るんだものな。俺はもう、スライム達の手伝い無しには料理出来ないと思うぞ。
「いつもありがとうな」
パン粉のついたミンチカツが並んだバットを持ってきてくれたアルファを、そう言って突いてやる。
「お手伝い、楽しいよ!」
「楽しいよ〜!」
「いっぱいお手伝い出来て嬉しいです!」
アルファだけで無く、他のスライム達までが次々に楽しい楽しいと嬉しそうに言ってくれ、得意気なその言葉に俺も笑顔になったよ。
ああ、うちのスライム達は全員揃ってなんて可愛いんだろう。
和みながら最後のカツを揚げ終え、手分けして片付け終わると、次は鶏鍋の準備だ。
両手鍋の大きくて浅めのを取り出し、出汁昆布と水を入れて一煮立ちさせて昆布を取り出したら、まずはぶつ切りにした鶏もも肉を大量に投入。白菜もどきの芯の部分とネギを入れ、沸いてきたら残りの野菜やきのこもどんどん入れていく。
沸いて来るまでの間に、さっき取り分けた挽肉で手早くつみれを作る。これは混ぜるだけだから簡単だ。
鶏ひき肉に刻んだネギと生姜のすりおろしを汁ごと入れ、ごま油と溶き卵、塩胡椒をして片栗粉を入れて混ぜるだけだ。
湧いて来た鍋に、スプーンですくってつみれを来た鍋に落とせば良い。
そのまま少し煮込んだところで、豆腐を入れてもう一煮立ちさせれば完成だ。
「じゃあ冷めない様に、これは鍋ごと預かっててくれるか。追加の野菜はこれな」
残った野菜やきのこ、豆腐なんかをまとめて預け、また机の上を片付けたところで、いきなり寝ていたセーブルが起きて立ち上がった。
そのまま一気に一番大きなサイズにまで巨大化して、俺のいるテントのすぐ側にまで一瞬で走って来た。それと少し遅れて、周りで適当に草を食べていたはずの草食チームまでが、瞬時に全員巨大化して俺のテントを取り囲むみたいにして配置についたのだ。
どうやら誰か来たらしい。
「馬に乗った二人連れが、まっすぐこっちへ向かって来ます。念の為ご主人は私の背に乗ってください」
セーブルがそう言った瞬間、周りにいたスライム達が一斉に返事をして俺に飛びかかって来た。
そのままスライム達によってアリに運ばれる獲物よろしくセーブルの背中に一瞬で運ばれた俺は、太いセーブルの首に跨った状態で下半身をスライム達に固定された。
この高さになると、俺の目にも確かにこっちに向かって走ってくる馬に乗った二人連れが見える。
一気に緊張した俺は、サクラが出してくれた剣帯を慌てて身に付けながら一気に近づいてくるその人影を黙って見つめてたのだった。
こんな辺境の危険な場所に、一体誰が来るって言うんだよ。