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角煮まんと味噌汁

「おお、いい感じに煮詰まってきてるな。どれどれ、ちょっと味見してみるとしよう」

 艶々に炊き上がっている覗き込んだ鍋の中を軽く混ぜてやってから、角煮を一切れ取り出してまな板の上でナイフで半分にする。

「おお、とろとろになってるじゃんか。ううん。これは美味い。なかなか上手く出来たっぽいぞ」

 半分を口に入れて満足そうにそう呟く。

「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ!ジャジャン! ほら、早く早く!」

 軽くステップを踏んだ後、俺が何となくぼんやりとシャムエル様を見つめていると、いきなりシャムエル様は足踏みを始めた。

 だんだんと賑やかな足音が響く。

「はいはい、どうぞ。言っておくけど、これが本当の味見だからな」

 笑って残りの大きな方の角煮を渡してやる。

「うわあ、これ美味しい、ふわふわのトロトロだね」

 両手で角煮を受け取ってそのままいきなり齧ったシャムエルは、ご機嫌でそう言って尻尾を振り回している。

「うん、我ながらなかなか上手く出来たよな。これは煮卵な。これも味見だから半分こだぞ」

 鍋の底の方にあった玉子を混ぜて取り出して、同じく半分に切って大きい方を渡してやる。

 自分の分は、そのまま丸ごと口に放りこむ。外側には味はついてるけど、思った程は付いていない。希望としては、ここはもうちょっとじっくり味が染み込んで欲しい。

「ううん、煮玉子はもうちょっと時間をおいたほうが味が染みそうだな。そうか、これも冷まして貰えばいいんだよな」

 こういう煮物は、冷める時に味が染み込むんだもんな。これはやるべきだろう。

 って事で、隣で待ち構えていたエータに鍋ごと預けて半日程置いてもらう事にする。

「半日分だね。ちょっと時間がかかりま〜す」

 モニョモニョと動きながら、仕事を頼まれたエータが張り切って働いている。



「ご主人、そろそろ時間だよ」

 すっかりキッチンタイマー代わりになっている砂時計とスライムのコラボタイマー担当のゼータが、蒸し器の時間を教えてくれる。

「おう、ありがとうな。どれどれ」

 慌てて蒸し器に駆け寄り、ゆっくりと蓋を開けて滴防止に被せていた布巾を外す。

「おお、めっちゃ綺麗に蒸し上がってるじゃんか。ううん、これも味見したい!」

 しかし、残念ながら角煮は今はエータが時間経過のために鍋ごと飲み込んでいる最中だ。

「じゃあ、これは角煮が仕上がってからのお楽しみって事で、蒸し時間も分かったので残りも蒸していくとするか」

 って事で、バットの中に小分けして用意していたタネを順番に同じように平べったくして、表面に油を塗り、二つ折りにしてから蒸し器にかけていく。

 蒸し上がった分はそのままサクラに預けておけば、いつでも蒸し立てのまま食べられるからな。

 そこまでやって、昼食の時間をとうに過ぎていた事を思い出した。

「はあ、じゃあ一休みするか」

 蒸し器から最後の角煮まんの皮を取り出してサクラに預けてから、一旦机の上を片付ける。

「昼は何にするかな」

 かなり頑張って働いたので、腹は減ってる。

「師匠の弁当の丼があったな、あれを頂くとするか」

 サクラに聞いて、取り出したのはずばり牛丼だ。

「午後からは何をするかなあ」

 冷えた麦茶を取り出して、手を合わせてから食べ始める。

「うん、これも美味しい。メイン料理はまだ師匠にもらったのとホテルハンプールからの分がかなりあるからなあ。あ、それならお出汁を大量に取って味噌汁を用意しよう。もう在庫が無くなっていたはずだからな」

 味噌汁は、案外パン食中心のハスフェル達も好きなんだよな。俺としてはパンに味噌汁はどうかと思うんだが、彼らは平気みたいだから、これは好みの差なのかもしれない。

 玉ねぎスープやコンソメスープは師匠からもらったのやホテルハンプールからの分もある。煮込み料理やおかず系もかなりあるので、あと追加で何か仕込むのなら在庫を見ながらやるべきだな。



 って事で、午後からはコンロを並べて寸胴鍋にお湯を沸かし、出汁を取るところから始めた。

「まずは一番出汁を取るぞ」

 大量の鰹節を振り入れアクをすくってから、別の寸胴鍋にざると布巾で濾していく。

 残った鰹節にまたお水を入れて、沸いたら追い鰹を入れて二番出汁を取る。二番出汁を取った後の鰹節の搾りかすは、当然だがスライム達が大喜びで平らげていた。

「じゃあ、この鍋はワカメと豆腐の味噌汁。こっちは揚げとじゃがいもとなす。こっちは具沢山の豚汁にするか。あ、キノコも色々あるから、キノコとワカメの味噌汁なんても良いなあ」

 味噌汁の具を考えながら、ふと思い出した。

 昔、母さんがよく作ってくれた具沢山の味噌汁が大好きだった俺は、ちょっとしか具の入ってないインスタントの味噌汁があまり好きじゃなかった。

 学生時代のバイト先の定食屋とトンカツ屋では、残り物の味噌汁に残った食材を全部入れる、いわゆる賄い味噌汁が多くて、俺は密かに喜んでいたんだよな。

 大学を卒業して就職した会社の事務所にはいわゆる社員食堂が無かったので、皆、持参の弁当やコンビニ弁当と一緒にマグカップにインスタントの味噌汁を用意していた。

 俺はインスタントの味噌汁に乾燥したワカメや味噌汁の具ってのを別売りで買って追加で入れたりして、同僚の人達から女子みたいだって言われたんだ。いいじゃん。味噌汁に好きな具ぐらい追加してもさ。



 懐かしい事を思い出してちょっと笑った後に不意に少し寂しくなって、側にいたセーブルに抱きついて誤魔化した。

「急にどうしたんですか? ご主人」

 心配そうなセーブルの言葉に、苦笑いした俺はもう一回力一杯抱きついてから顔を上げた。

「何でも無い。ちょっと抱きつきたくなっただけ」

 照れ隠しに素っ気なくそう言うと、机に戻って味噌汁の具の準備を始めた。

 何かあった時に、何も言わずにただ受け止めてくれる存在があるって……良いよな。

 改めて従魔達に感謝したよ。




 日が暮れるまでに、ワカメと豆腐の味噌汁をはじめ、具沢山の味噌汁各種が大量に出来上がり、それ以外に自分が食べたかったので作っただし巻き卵とふわふわオムレツがこれまた大量に仕込み完了。それ以外にも、定番おからサラダやフライドポテトなども大量に仕込みが完了したのだった。

「お、帰ってきたな」

 賑やかな足音に振り返ると、ちょうどハスフェル達が森の中から勢いよく駆け出して来たところだった。

 どうやらまた駆けっこをしてきたみたいで、笑いながら誰が一番だと子供のように言い合っている。



「おかえり、優勝候補の俺抜きで何をやってるんだよ」

 わざと煽るみたいにそう言ってやると、何故だか全員から笑われたぞ。解せぬ!

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