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朝の攻防

　ぺしぺしぺし……。

　ふみふみふみ……。

　カリカリカリ……。

　つんつんつん……。

　チクチクチク……。

　こしょこしょこしょ……。

　ふんふんふんふん！

「うん、起きる……起きます……」

　翌朝、いつものニニとマックスの間に挟まって熟睡していた俺は、メンバーが大幅に増員されたモーニングコールチームに起こされて何とかして目を覚ました。

「待った待った！　ほら、起きた！　起きたって！」

　今にも俺を舐めようと体に乗り上がってきたソレイユとフォールを捕まえて、まだ半分寝ぼけ眼ながら、俺は必死になって起きたアピールをしていた。

「ええ、ご主人起きちゃったの？」

「私達のお仕事を取らないでください！」

　二匹は揃ってそう文句を言いつつも、ご機嫌で喉を鳴らし始める。

「起きたもんなあ〜」

　笑いながら手を伸ばして二匹の顔を揉みくちゃにしてやる。

　すっかりご機嫌になったソレイユとフォールが寝転がる俺の顔の横に来てピッタリとくっつく。それだけじゃなくタロンを筆頭にモーニングコールチームの子達がご機嫌で俺の周りに来て、俺を舐めたり頬擦りをしたり頭突きをし始めた。

「待て待て、起きるから待て！」

　笑いながら腹筋だけでなんとか起き上がり、従魔達を順番におにぎりの刑に処してやった。

「最後はセーブルだな！　よしこい！」

　雪豹のヤミーをおにぎりにしてから辺りを見回すと、あと撫でていないのはセーブルだけな事に気づいてそう言って両手を広げてやる。

　甘えるように鳴いたセーブルが、俺の腕の中に勢いよく飛び込んで来る。

「うわあ、やられた〜！」

　笑いながら悲鳴を上げてそのまま仰向けに押し倒された俺は、のしかかってきたセーブルの顔を両手で掴んでこれまた揉みくちゃにしてやった。

「ご主人捕まえました〜！」

　そう言って上から襲いかかるみたいにセーブルがのしかかってくるが、ちゃんと腕を俺の体の脇についていて体重は全くかけていない。その状態で頭を俺に擦り付けてきた

「だけど抵抗するぞ！　よし、浴びせ倒しからの押さえ込みだ〜！」

　そう言って顔を掴んでいる両手を思いっきりそのまま横に捻るようにして押しやる。

　わざとらしい悲鳴を上げたセーブルがそれに合わせて横に転がる。もちろん俺が倒したんじゃなくてセーブルが自ら俺の掛け声に合わせて転がってくれたものだ。

　起き上がった俺が、その大きなお腹に向かってダイブする。

　がっしりとした筋肉質のセーブルの身体が俺を受け止めてくれる。

「おう、なんだこの抱きつき甲斐のある大きなクッションは……」

　セーブルの腹に抱きつく形で収まった俺は、なんとも言えない安心感に包まれて笑いながらそう言って、意外に柔らかいセーブルの腹の毛を堪能した。

「ああ、駄目だ……吸い込まれる……」

　腹毛に頬擦りしていた俺は、襲ってきた急激な眠気に抗おうとして起き上がろうとした。

　しかし、抵抗も虚しく俺はセーブルの腹に抱きついたまま、気持ち良く二度寝の海に墜落して行ったのだった。

　ぺしぺしぺしぺし……。

　ふみふみふみふみ……。

　カリカリカリカリ……。

　つんつんつんつん……。

　チクチクチクチク……。

　こしょこしょこしょこしょ……。

　ふんふんふんふんふん！

「うん、起きてるぞ……」

　実を言うと、少し前から何とかうたた寝状態で目を覚ましていた俺は、セーブルの腹に抱きついたままその腹毛に頬擦りした。

「ううん、セーブルの腹毛も案外危険だって事が判明したから、抱きつく時は気をつけよう……」

　苦笑いしながらそんな事を呟いていると、いきなり耳の後ろと頬に最終モーニングコールがきた。

　ザリザリザリザリ！

　ジョリジョリジョリジョリ！

　悲鳴を上げて飛び起きた俺は、勢い余ってセーブルの腹から転がり落ちた。しかし、地面に転がる前に巨大化したスライム達によって無事に確保された。

「ご主人確保〜！」

「確保からの〜」

「返却〜！」

　声を揃えてそう言ったスライム達が、俺の体を勢い良く放り投げる。

「うわあ〜！」

　綺麗な放物線を描いて投げられた俺が落ちた先は、横になって待ち構えていたニニの腹の上だった。

「おう、振り出しに戻ったぞ」

　突っ伏したまま、柔らかな毛に顔を埋めてそう呟く。

「おかえりご主人！」

　嬉しそうにそう言ったニニが、大きな舌で俺を舐める。

「痛い痛い。ニニの舌は痛いんだよ。はいはい、起きるって」

　何とか手をついて起き上がった俺は、大きく伸びをしてからニニの腹の上から飛び降りた。

　ううん、今朝のモーニングコールは、なかなかに激しかったぞ。

　苦笑いしながら身支度を整え、手早くテントの垂れ幕を巻きあげていると起きていたハスフェル達が手伝ってくれた。

　大急ぎで顔を洗ってきてサクラに綺麗にしてもらう。

「ごめんよ。じゃあ出すから好きに取ってくれよな」

　いつものサンドイッチ各種を既に並べてくれてあった机の上に取り出して並べる。

「じゃあ、今日も俺は留守番して料理でいいか？」

「おう、俺達は今日は向こうの山側へ行ってみるよ。ヤミーが、あの山側にかなり大きいハイランドチキンの亜種の巣があると教えてくれたんでな。頑張って集めてくるよ」

「おう、そうなのか。そりゃあ楽しみだな。じゃあそっちは任せるよ」

　聞くと、どうやらエンカウント率の低いジェムモンスターを狙うよりも、この辺りに相当いる、野生の肉の食える動物を狩る方にシフトチェンジしたらしい。

　まあ、珍しい肉はどこへ行っても喜ばれるからな。頑張って集めてもらおう。

　自分の分とシャムエル様の分のタマゴサンド、それから野菜サンドと鶏ハムとレタスのサンドイッチを取り、

　マイカップにオーレを入れて、グラスにはいつもの激うまジュースミックスを入れてから席に戻った。

「あ、じ、み！　あ、じ、み！　あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ！ジャジャン！」

　割と軽めのステップの後、決めのポーズでお皿が差し出される。

「はいはい、今日も格好良いぞ」

　適当に返事をしてお皿にタマゴサンドを丸ごと乗せてやる。

「こっちは？」

「じゃあ、これだけください」

　野菜サンドと鶏ハムサンドを見せると、シャムエル様は手を伸ばして鶏ハムを一切れサンドイッチから引っ張り出した。

　並んだ蕎麦ちょこに、スプーンですくったオーレとジュースをそれぞれ入れてやり、もう一度自分用の飲み物を追加してから席に戻る。手を合わせてからそれぞれ食べ始めた。

「さて、それじゃあ今日は一日煮込み料理だな」

　そう呟いた俺は、タマゴサンドに豪快に噛り付くシャムエル様を見ながら自分の野菜サンドに齧り付いた。