総力戦の朝と今後の予定
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
ショリショリショリ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きる、よ……」
翌朝、いつもの如くモーニングコールチームに起こされた俺は、無意識で返事をしつつ違和感を覚えた。
「あれ、またモーニングコールチームが増えたぞ。しかも、肉球ふみふみが増えたじゃん……何これ、超幸せ……」
そしてそんな事を寝ぼけた頭で考えつつ、当然いつもの如く二度寝の海へ真っ逆さまにダイブしていったよ。
二度寝サイコー。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
ショリショリショリショリ……。
ふんふんふんふんふん!
ふんふんふんふんふん!
ふんふんふんふんふん!
「うん、起きてま……す……」
寝ぼけつつ答えるも、やっぱり目は開かない。
「ほらね、毎朝こんな感じで起きないんですよ」
「だから皆で毎朝起こしてあげているの」
「コツは、怪我をさせないように優しくする事。こんな風にね!」
耳元で聞こえるのは、お空部隊の鳥達だ
無言で慌てる俺に構わず、羽ばたく音がした直後に俺の耳たぶと額と上唇をちょっとだけ噛まれて、あまりの痛さに俺は飛び起きた。
「待った待った! 起きます起きます! 痛い痛い痛いってば〜!」
ベリーの吹き出す音と同時に鳥達の羽ばたく音が聞こえて、飛び起きた俺は顔を覆った。
「うああ、マジで痛かったぞおい」
「ご主人起きた〜!」
嬉しそうな声と共に羽ばたく音がして、インコサイズの鳥達が戻って来て俺の肩や頭に留まる。
「おはよう、起こしてくれてありがとうな。ええと、ちょっと聞くけどモーニングコールチームのメンバー、めっちゃ増えてないか?」
ニニの腹にもたれるみたいにして座った俺は、スライムベッドに並んでいるモーニングコールチームを見回した。
「一番は私だよ!」
ニニの腹の上でシャムエル様が得意そうに手を上げている。
「二番は私です!」
そう言って、普通猫サイズのタロンが俺の膝の上に飛び乗って来る。
「三番は私が担当しました」
猫サイズになったカラカルのマロンが、そう言って嬉しそうにタロンの横に飛び乗ってくる。
「四番目は私が担当になりました」
そう言って、タロンとマロンの間に潜り込んで来たのはこれも猫サイズの雪豹のヤミーだ。
おう、俺の癒しの肉球ふみふみが強化されたぞ。
「五番目は私です!」
そう言ったのはプティラだ。
そうだそうだ、あのカリカリはプティラの鉤爪だったな。
「六番目は私が担当してます」
やや控えめにそう言ったのは、普通の蛇サイズになったセルパンだ。
「七番目は私です!」
少し離れた場所から、ハリネズミのエリーがそう言って一瞬だけ丸くなった。
おう、何度見ても見事な針山だな。
「八番目は私達です!」
猫サイズになったソレイユとフォールが、得意気に胸を張る。
確かにお前らは、いつも二匹一緒に舐めてくれてたよな。
「九番目と十番目は私達が担当です」
得意気にそう言ったのは、オーロラグレイウルフのテンペストとファインの狼コンビだ。
「って事は、十一番目って?」
「はい、それは私です!」
得意気なセーブルの言葉に、俺はもう一度顔を覆って二二の腹に倒れ込んだ。
「そしてやっぱり起きないご主人を起こす最後モーニングコールは、私達が担当しました!」
鳥達が得意気に胸を張る。
「ちょっと待ってくれ。一体何だよ。その総力戦みたいなモーニングコールチーム構成は!」
「え、だってそれくらいしないと起きないもんね」
当然のようにそう言われて、俺は情けない悲鳴をあげてもう一度ニニの腹に潜り込んだ。
うん、そうだよな。俺が起きればいいんだよな。マジで頑張って起きよう。
「って事でもう一回噛まれたくなければ、いい加減に起きなさい!」
後頭部をシャムエル様に思いっきり叩かれて、もう一度悲鳴を上げた俺は何とか起き上がった。
「ふああ、じゃあ起きますか」
諦めて立ち上がった俺は、一瞬でバラけたスライムベッドから跳ね飛んで来てくれたサクラに全身をきれいにしてもらって身支度を整えた。
とは言え、危険地帯で寝ていたので防具は身に付けたままだったから、そのまま軽く腕や足を動かして解してから剣帯を装着したら終わりだ。
「おおい、起きてるか?」
「おはよう、もう起きてるよ」
外から聞こえるハスフェルの声に返事をすると、テントの垂れ幕を巻き上げたハスフェル達が入って来た。
「おはよう。じゃあ適当に出すから好きに取って食べてくれよな」
いつもの朝食メニューを一通り並べて、自分とシャムエル様の分を取って席に座る。
タマゴサンドを齧るシャムエル様を眺めながら、俺も自分のサンドイッチを齧りながらこの後の事を考えていた。
「さすがにこれだけ従魔達の戦力が強化されたら、もう無理にテイムしなくていいよな。まあ、もしもセーブルやヤミーみたいなのがいたら考えてもいいけどさ」
仲良くくっついて寛いでいる従魔達を見てそう呟き、俺は残りのコーヒーを飲み干した。
「なあ、もう俺はこれ以上は無理にテイムしなくてもいいと思うんだけど、ランドルさんはどうだ?」
同じく残りのコーヒーを飲んでいたランドルさんも、俺の言葉に苦笑いして頷いた。
「そうですね。皆様のおかげで相当強い従魔をこれだけテイムする事が出来ました。まあ、機会があればまたテイムしても良いかとは思いますが、そろそろ打ち止めにしてもいいと思いますね」
俺達の話を聞いていたハスフェル達も苦笑いして頷いている。
何しろ今のランドルさんは、最初のスライムから数えてカラカルのモンブランまで、全部で九匹もの従魔を従える堂々たる魔獣使いになったのだ。まだ紋章は授けてもらっていないけれど、この従魔達の顔ぶれを見れば魔獣使いと名乗っても良いだろう。
「ですが、バッカスの開店資金の為にも、珍しいジェムは少しでも集めておきたいので、もしもこのまま狩りを続けるのならご一緒させていただきたいですね」
予想通りの答えに、俺は頷いてハスフェル達を振り返った。
「なあ、それなら俺はちょっとやってみたい料理が幾つかあるから、このまま境界線の草原へ戻って祭りまでの後半はそこで料理をしようかと思ってるんだけど、お前らはどうする?」
「ああ、それなら俺達はランドル達と一緒に狩りをしてみるか。ケンがいてくれるなら、境界線の草原にベースキャンプを張ったままにしておけるからな。あまり奥地へは行かずに、日帰りでここでの珍しいジェム集めをすれば良かろう」
「良いですね。じゃあそれでいきましょう」
ランドルさん達も同意してくれたので話はまとまり、このまま一旦境界線の草原まで戻る事にした。
テントを撤収してそれぞれの従魔の背に飛び乗った俺達の周りを、さらにメンバーが強化された肉食チームが巨大化して取り囲み、お空部隊も巨大化して上空を制圧してくれている。
頼もしい従魔達に守られて、俺達は一先ず全員揃って境界線の草原へ戻っていったのだった。