夕食と事情説明
「ええと、とりあえず腹が減ったよ。夕食にしようぜ」
セーブルの時に続いて二度目の全員からの無言の大注目を浴びて、苦笑いした俺はテイムしたばかりの雪豹のヤミーを抱き上げた。
「新しく従魔になった、雪豹のヤミーです。どうぞよろしく!」
抱き上げたヤミーの前脚を持って、手を挙げて挨拶するみたいに顔の横まで引っ張って上げてやる。
ヤミーはご機嫌で喉を鳴らしてされるがままだ。
「戦ってないけど……今のでテイムしたのか?」
茫然としたハスフェルの質問に苦笑いして頷く。
「うん。俺も信じられないけど、こいつから希望してきたんだよ。それで有り難くテイムしたんだ。冗談みたいに聞こえるけどマジっす」
そう言って、ヤミーの胸元にある俺の紋章を見せてやる。
吹き出すハスフェル達と違って、ランドルさんは目が転がり落ちるんじゃないかと言いたくなるくらいに目を見張って、俺が抱き上げたヤミーをガン見している。
「って事だから、次に何か出たらランドルさんの番だからな。確保するのは協力するよ」
持ち上げたヤミーの右手を、招き猫がするみたいにクニクニと動かしてやる。
それを見て、いきなりランドルさんが笑い出した。そのまま膝から崩れ落ちて地面に転がったまま大笑いしている。
「ま、まさかの自らテイムを希望するジェムモンスター!」
笑すぎて涙を流しながら、それでも笑いは止まらない。
「あり得ねえ。冗談も大概にしてくれってな」
同じく大笑いしているギイの呆れたような言葉に俺も大きく吹き出してしまい、その場で全員揃って大爆笑になって、しばらく笑いが途切れることはなかった。
「とにかくまずは食べよう。腹減ったよ」
ヤミーを下ろしてやり、机の上に出しっぱなしだった料理を見る。
「まだ食べるか?」
足元にいるヤミーに聞いてやると、嬉しそうに声のないニャーをされた。
あまりの可愛らしさにノックアウトされた俺は、鞄に入ったサクラからもう一塊鶏ハムを取り出して丸ごとあげようとした。
「ご主人、この体の時はそんなには要らないです。幾つか切ってくれたら充分です」
そう言われたので俺の分とヤミーの分を切って残りを戻そうとして気が付いた。
ヤミーの隣に、タロンを始めとした猫族軍団がいつもの猫サイズになって並んで座っている。しかも、ハスフェルのところのベガと、ギイのスピカのジャガーコンビ。新しくテイムしたマロンとモンブランのカラカルコンビまでが目を輝かせて俺を見上げていたのだ。
最近では、ベリーの作った異空間で勝手に狩ってきて保存している獲物を食っているらしく、タロンも欲しいと言わなくなってそのままにしていた。だけどヤミーが俺から貰っているのを見て、どうやらたまには他の子達も俺から貰って食べたくなったらしい。
「分かった。いつものハイランドチキンで良いか?」
全員揃った声の無いニャーをされて、萌え死なかった俺を誰か褒めてくれ。
切り分けてやったハイランドチキンの胸肉を従魔達が大喜びで食べているのを見て、俺は他の子達にも順番に大量にある肉を分けてやった。もちろん全部生肉だよ。セーブルには、ハイランドチキンのもも肉を丸ごと一枚あげたら大喜びしていた。
草食チームとお空部隊には、果物の箱を取り出して少し離れたところに置いておく。これならベリーやフランマもランドルさん達に気付かれずに食べられるだろう。
ヤミーは黙って生肉を食べている従魔達を見た後、俺を見上げて質問してきた。
「いつも従魔の食事はこんな風なんですか?」
「いや、普段は定期的に狩りに行ってもらってるよ。狩りに行けない時は、今みたいに俺が持ってる生肉をあげたり、いろいろだな。まあ詳しい事は、後で他の従魔達から聞いてくれよな」
「それなら、普段は皆と同じで私も狩りに行きます。それで、時々ご主人が作った鶏ハムをいただけたら嬉しいです」
料理を食べる子が増えたかと思っていたけど、どうやら普段は他の従魔達と同じで良いらしいので仕込みを増やす必要はなさそうだ。だけど、鶏ハムはタマゴサンドと並んで在庫を切らさないメニュー決定だな。まあ良い、俺も好きだからガンガン作って食おう。
「そっか。じゃあそうしてくれ、食べたくなったら言ってくれよな」
笑って小さくなったヤミーを撫でてやる。
うん、小さくなった今見ると、雪豹って他の子達に比べて足が短い! だけど、それはそれでめっちゃ可愛いので問題無いよ。
結局すっかり遅くなった夕食を改めて食べた後、食後のお茶を飲みながら俺は、セーブルとヤミーのご主人の思い出話を皆に話して聞かせた。
「成る程な。セーブルのそれはご主人との約束そのものがきっかけで自ら忘れないようにずっと思い出しては想い続けた。ヤミーは逆に、美味しかった料理にご主人との思い出が紐付けされて忘れなかった訳か。だけどセーブルに比べるとその想い自体はそれほど重いものでは無かったから、だんだんとご主人の顔を忘れ、自分の名前すら忘れていった。辛うじて美味しかった料理の記憶が残っていたところでケンに出会ったわけか。何とも不思議な縁を感じるな」
感心したようなハスフェルのまとめに、俺も笑って膝の上に上がってきたヤミーを撫でてやった。
すぐ後ろには大型犬サイズになったセーブルがくっついて来て、俺の肩に顎を乗せて甘えるような仕草を見せた。
「はいはい、皆ずっと一緒だからな。それにしてもセーブルの毛は、他の子達に比べたら硬いんだな」
改めて撫でてやり、セーブルの他の従魔達とはまた違った硬い毛皮の手触りを楽しんだ。