予定変更
「さて、二人揃って無事に目標の猫科の猛獣をテイム出来た事だし、どこか安全な場所で昼にしよう。テイムが終わって安心したら腹が減って来たよ」
振り返った俺の言葉に、ランドルさんも頷いている。
ここの草原は他よりは狭いが見晴らしはいいので、何か近付いてきたらすぐに分かる。
って事で草原の真ん中へ移動して、そこで昼食にする事にした。
当然、巨大化した従魔達が俺達の机の周りを取り囲んで守っていてくれているからこそ出来る事だよ。
「それじゃあもう、作り置きで良いな」
手早く机と椅子を出して並べ、机の上に適当にサンドイッチを色々取り出して並べておく。
「俺は豆乳オーレが飲みたい」
って事で、牛乳の横に豆乳も出しておく。
「はいはい、シャムエル様はこれだな」
師匠特製オムレツサンドを二個お皿に取り、ちょっと考えてガッツリカツサンドと鶏ハムと野菜サンドも取っておいた。
いつものマイカップには豆乳オーレを入れて、グラスに激うまジュースを混ぜて入れる。
大きなお皿を持って待ち構えているシャムエル様には、オムレツサンドを一切れと、横には、カツサンドと野菜サンドは半分に切って渡す。うん、あとでもう一個取ってこよう。
二つ並んだ蕎麦ちょこには、豆乳オーレと激うまジュースをいつもの如くスプーンですくって入れてやる。
「はいどうぞ。師匠特製オムレツサンドと、カツサンド、それから鶏ハムと野菜サンドだよ。ドリンクはいつものジュースと豆乳オーレな」
「わあい、ありがとう。豪華豪華」
嬉しそうなシャムエル様のふかふかな尻尾をこっそりと突いてから俺は、振り返った机の上を見てキャベツサンドも一切れ取り、激うまジュースと豆乳オーレを追加で入れたよ。
「じゃあ、俺もいただこう」
座って手を合わせてから、まずは師匠特製オムレツサンドを食べる事にした。
キャベツサンドも食べたそうにしていたのでそのまま横から齧らせてやり、思いっきり食われたけどまあこれは想定の範囲内だよ。
食べ終わったら、デザート用の激うまリンゴとぶどうも取り出して美味しくいただいたよ。
「それじゃあ、午後からはどっちへ向かうかなあ」
立ち上がったハスフェルが、辺りを見回しながら考えている。
「ご主人、もうここでテイムはしないんですか?」
俺の背中側を守ってくれていた巨大な熊改め、オーロラグリズリーのセーブルが、何か言いたげに聞いてくる。
「まあ、従魔の数はかなり集まってるけど、せっかく貴重な場所に来てるんだから、何か良さそうなのがいればテイムして見てもいいかな、とは思っているよ」
熊は一匹だけしかテイムしていないから、仲間が欲しいとか言われたらどうしよう、と、密かに焦っていると、山側を見て、それから周りにいる従魔達を見て妙な事を聞いて来た。
「仲間達の顔ぶれを見るに、ご主人は、猫科の猛獣が好きなんですね」
改めて、当の従魔からそんなことを言われて、思わず笑ったよ。
だけど改めて顔ぶれを見ると、確かにその通りだよ。
「そりゃあ好きか嫌いかって聞かれたら、大好きだって答えるよ。だけど、犬だって鳥だって、ウサギだってモモンガだって鱗のある蛇だって、ハリネズミだって恐竜だってスライムだって大好きだよ。猫族の比率が高いのは否定出来ないけどな。まあそれは成り行きだって」
笑って手を伸ばして大きな額を撫でてやる。
「もちろん熊だって大好きだよ。でもまあ、まさか熊をテイムする日が来るとは思わなかったけどさ」
嬉しそうに大きな頭を擦り付けてくるセーブルを両手で抱きしめてやる。ううん、これまたもっこもっこだよ。うん、良い。
「それなら山側に、良いのがいますよ。今から行けば日が暮れるまでには目的の場所に到着出来ますので、そこで夜を明かしましょう。大丈夫ですよ。これだけの数の従魔達がいて、更に巨大化した私がいれば他のジェムモンスター達は怖がって近寄って来ませんよ。もちろんご主人達の周りは、私達で囲って守りますよ」
自信ありげなその言葉に、他の従魔達も得意げに頷いている。それを見た俺は思わずランドルさんを振り返った。
「どう思いますか?」
「あの、何の話でしょうか?」
不思議そうに聞かれて、ランドルさんにはセーブルの声が聞こえていなかった事を思い出した。
「ああそっか。ええとセーブルが言うには、山側に何か良いのがいるらしいんだ。それでこのまま出発したら目的地に到着する頃には日が暮れるから、そこで夜明かしして明日行けばいいんじゃないかってさ」
「いやあ、奥地には行ってみたい気もしますが、この中で夜を越すのはさすがに危険すぎますよ」
冒険者としては当然の反応なので、俺はセーブルから言われた事を改めて伝える。
「ええと、これだけの従魔がいて、さらに巨大化したセーブルがいれば他のジェムモンスター達は怖がって近寄って来ないらしいから、中で夜明かししても大丈夫なんだってさ」
まあ、確かにセーブルがいた場所にはジェムモンスターも魔獣も、それどころか普通の野生動物も一匹もいなかったもんなあ。
妙に納得しながらそう言うと、同じ事を考えたらしいランドルさんも、腕を組んで考え込んでしまった。
「そりゃあ確かにこんな機会は滅多にないでしょうから、奥へ少しでも行けるのなら私は嬉しいですが……」
そう言いながらハスフェル達を振り返る。
当然彼らにもさっきの話は聞こえていたらしく、三人で顔を寄せ合って相談している。
最近この展開、多いな。
しばらくすると、頷き合った三人が揃って俺を振り返った。
「了解だ。じゃあ、セーブルに案内を頼んで良いか。もしお前らがテイムしないのなら、俺がもらおう。もちろんジェムにしてな」
「出たな、ジェムコレクター。じゃあ、何が出るか確認して俺はどうするか考えるよ」
笑った俺の言葉に、ランドルさんが同じく笑って手をあげた。
「じゃあ、私は二匹目がいたら考えます」
って事で一匹目は俺が、二匹目がいればランドルさんが担当する事になり、セーブルの案内でこのまま更なる奥地へ進む事になった。
出していた椅子と机を片付ければもう出発準備は完了だ。
「お待たせ。それじゃあ目的地への道案内をよろしくな」
マックスの背中に乗りながらそう言うと、巨大化したセーブルが嬉しそうに俺を振り返って大きく吠えた。
辺り中に轟くその咆哮にその森にいた鳥達が一斉に飛び立つ。
満足気に身震いすると、セーブルは山を見てとんでもないことを言ってくれた。
「では参りましょう。雪豹ならきっとご主人のお気に召すと思いますからね」
「はあ、ちょっと待て。お前今なんつった?」
叫んだ俺は……悪くないと思う。