狼をテイムする
「おお、草原に出ましたね」
森を突っ切った先にあった草原を見て、ランドルさんが興奮したようにそう言っている。
ものすごい勢いで鳴いている声がまた聞こえて、俺達は従魔達とともに足を止めた。
「来るかな?」
ハスフェルが態とらしく森を見ながらそんな事を言う。
まあ、俺達は来るって分かってるけど、ランドルさん達は知らないもんな。
また声が聞こえたが、今回は遠吠えでも、威嚇の鳴き声でも無く、キャンキャンとまるで悲鳴のような鳴き声だった。
そのままガサガサという音とともに、狼達が森から飛び出して来た。
聞いた通り五匹だけの小さな群れだ。
しかし、ボスと思われる明らかに他よりも大きな一匹は、おそらく亜種だ。毛並みも体の大きさも他とは桁違いだった。
「五匹は多いな。数を減らすか」
「ああ、確かに」
ハスフェルとギイの嬉しそうな声が聞こえて俺はちょっと遠い目になる。
いや、そんな恐ろしい事を簡単に言うなって。あの狼、ボス以外の四匹だって、相当大きそうだぞ。
その時、マックスが大きく吠えて首を回して俺を振り返った。
「ご主人、ハスフェル様達に言ってください。倒すならあの大きな亜種を倒しましょう。そうすれば残りは間違いなくこちらに従います。テイムするならその方が効率的ですよ。それなら二頭ずつテイム出来ますよ。同種の仲間がいれば、狩りがしやすくなりますから!」
嬉々としてそう言うマックスの言葉が聞こえたかのように、シリウスとマフィンが揃って同意するかのように声を揃えて鳴いた。
「それが良いですね。出来れば二匹ずつテイムしましょう!」
俺の耳にはそう聞こえたよ。
「あはは、了解。じゃあそうするか」
マックスの首を叩いてそう言って笑い、ランドルさんを振り返る。
「ランドルさん、まずあのデカいのを狩りましょう。そうすれば他の四匹を確保出来ますから、二匹ずつテイムしましょう」
「ええ、そんな無茶な!」
「大丈夫ですよ。従魔達がやってくれます!」
俺のその言葉が合図だったかのように、パワーアップした猫族軍団が先頭の巨大な狼に一斉に襲い掛かる。
マフィンは逆に、亜種を猫族軍団に任せてそれ以外の奴らの動きを牽制している。
とは言っても、体格で負けているマフィンは真正面からは行くような事はせず、マックスやシリウスと息を合わせて動き回り、ボスである亜種の元へ駆けつけようとする群れの進路を遮って、せっせと群れを分断して回っていたのだ。
マックスの背の上で、俺は見事に統率の取れた動きをする従魔達のを見てひたすらに感心していた。
その時、亜種の狼の悲鳴のような声が響き、ニニの猫パンチに狼が吹っ飛ぶのが見えて驚いたよ。そのまま起き上がろうとするところを俺の従魔のオーロラグリーンタイガーのティグが狼を勢いよく押し倒して押さえつけ、更にオーロラサーベルタイガーのクグロフがすごい勢いで首に噛みつくのが見えた。
狼の悲鳴とともに、一瞬で巨大なジェムになって転がる。
おう、巨大な狼を一撃かよ。あのサーベルタイガーの牙、マジですげえな。そして素材は毛皮が落ちたよ。デカい!
呆気なくボスを倒した従魔達を見て、群れの残りの四匹は明らかに怯んだ。
二匹は完全に戦意を喪失したらしく、その場にうずくまって動かなくなった。そして後の二匹は、踵を返して森へ逃げ込もうとしたものの果たせず、巨大化したジャガー達とソレイユに次々に襲い掛かられてししまい、ボスの亜種を一撃で倒したティグとクグロフ、それからマフィンも参加して、あっという間に四匹は従魔達に確保されてしまった。
俺達が手出しする間なんて全く無かったよ。
まあ、見事なまでの従魔達の連携プレーのおかげで、あっという間に目的の狼が四匹も確保された。
「ご主人、さあどうぞ!」
嬉しそうな従魔達の声に、俺とランドルさんは思わず顔を見合わせる。
「どれをいきますか?」
見た限り、大きさに多少の差はあるが、まあそれほど変わらなさそうだ。
「じゃあ、俺の従魔のマフィンとクグロフが捕まえているのを貰います」
真剣な顔のランドルさんがそう答える。
「ああ、丁度良い。それなら俺は、ティグとフォール達が捕まえているのにします」
もう一度顔を見合わせて頷き合い、それぞれの従魔達が押さえ込んでいる狼の側にゆっくりと近寄っていく。
しかし、昨日のティグやクグロフのように唸る事もなく、大人しく押さえつけられている。
念の為、いつでも氷を出せるように準備した状態で、手前側にいたソレイユとフォールとギイの従魔であるレッドクロージャガーのベガが捕まえてくれた狼の頭を一気に押さえつけた。
しかし、狼は無抵抗だ。
「俺の仲間になるか?」
声に力を込めてそう言って、同時に押さえつける手にも力を加えて更に押さえつける。
一瞬もがくように足を動かしたが、右前脚に噛み付いていたソレイユが一気に力を入れて牙を立てる。それを見てフォールも同じく牙を食い込ませた。
しかし見事なまでの力加減で、牙が肉に食い込む一歩手前のギリギリのところで止めている。ベガも、後ろ足に噛み付いていた口に力を入れた。
キュ〜ンって感じに、小さく鼻で鳴いた狼が一気に大人しくなる。
「もう一度言うぞ。俺の仲間になるか?」
「はい、あなたに従います」
ずいぶんと可愛らしい声でそう答えると、小さくもう一度鼻で鳴いた。
やっぱり俺の従魔は雌率が異常に高い。また雌だったよ。
噛み付いていた従魔達がゆっくりと離れていく。
大人しく座り直した狼は光った瞬間一気に大きくなった。なんとマックスよりちょいと小さいくらいじゃん。すげえ。
そしてもう一匹、ティグ達が捕まえてくれていた狼を見る。
完全に戦意喪失したらしい二匹目の狼を見て、俺はもう一度頭を押さえつけてお決まりの台詞を言った。
俺の仲間になるか?と。
「はい、あなたに従います」
呆気なくそう言われて逆に拍子抜けしたけど、これが普通でティグやクグロフが異常に強かったんだよな。
って事で、二匹目もさくっとテイム完了。
これまた一気に光った後に巨大化した狼は、仲良く二匹並んで俺の前に良い子座りしている。
「紋章はどこにつけるんだ?」
「ここにお願いします!」
二匹揃って胸を大きく反らせて胸元のふかふかの毛の部分を見せる。
「じゃあ、ここだな」
手袋を外した素手で、胸元に手を当てる。
「お前の名前は、テンペストだよ。よろしくな、テンペスト」
一瞬光って胸元に俺の紋章が刻まれる。
「お前の名前は、ファインだよ。よろしくな、ファイン」
こちらも胸元に手を当ててそう言うと、一瞬光って胸元に俺の紋章が刻まれた。
「ありがとうございます。お役に立てるように精一杯頑張ります!」
揃ってそう言うと、一気に小さくなって中型犬ぐらいになった。うん、これなら街中で連れ歩いても大丈夫そうだな。
駆け寄って来た二匹を交互に撫でてやり、ランドルさんを振り返る。
「ええ、次は俺がやってみます」
真剣な声でそう答えたランドルさんも、俺と同じように案外簡単に、捕まえていた二匹を無事にテイムしたよ。
どうやら、サーベルタイガーをテイムした事で、一気に自信がついたみたいだ。
ちなみに、名前はシュークリームとエクレア。これまた美味しそうな名前じゃんか。
ランドルさんのスイーツ好きは、どうやら筋金入りのようだ。
ブレないその姿勢。もう最高だな。