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カマキリ退治も大騒ぎ

「じゃあ、場所を変えようか」

 俺の右肩に座ったシャムエル様の指示で、マックスがブラウンビッグラットのいた平原を出て、また林の中に入って行った。

 とは言え、木々の間は十分な広さがあり下草もそれほど生えていない為、マックス達はそれほどスピードを落とさずに一気に駆け抜けて行った。

 そして林を抜けた先にあったのも、また草原だった。しかし、所々に俺の身長ぐらいのこんもりとした木が生えていて、見通しはあまり良くはない。

「着いたよ、ここがブラウンキラーマンティスの生息地。ここにいるのは、言ってみれば生まれたばかりの子供だから、君でも大丈夫かと思ってさ」

 何やら不穏な言葉にまた嫌な予感がした俺は、マックスの背中から降りずに周りを見渡した。

 よく見ると、あの所々にある丸い低木の色がおかしい。何というか……まだら模様なんだよな?

「ん? あれ、どうなってるんだ?」

 身を乗り出してもっとよく見ようとしたら、バランスを崩して鞍からずり落ちそうになって、必死で縋り付いた。

「何してるの?」

 呆れたようなシャムエル様の言葉に、とりあえず笑って誤魔化す。

「で、何処にいるんだよ。そのカマキリの子供は?」

 誤魔化すようにそう言うと、シャムエル様は平然とあの丸い木を指差した。

「君の目には見えてるでしょう? あそこにいるよ。ほら降りた降りた」

 頬を叩かれて、仕方無しに地面に降りる。

 なんか嫌な予感がするんだけど、もうこれも、いつもの光景になりつつあるよな。



 腰の剣を抜いて、恐る恐る、カマキリがいるのだと言う丸い木へ近寄ってみる。

 すると、俺が近づくと木が揺らめき始めたのだ。

 いや、違う! あの葉っぱみたいなのは、全部カマキリじゃんか!

「気持ち悪りー! 何だよこれ!」

 叫んだ俺は、間違ってないよな。

 だって、葉っぱだと思っていた緑の細長いのは、全部枝にぶら下がるカマキリだったんだよ。

 小さいので30センチくらい、大きいのでも40センチぐらいはあるから、決して小さくはない。

そして、正直言ってかなり怖い。

 俺達に気付いた三角の小さな顔が、一気にこっちを向いてぶら下がったまま鎌を持ち上げて威嚇のポーズをとってる。

 次の瞬間、そいつらが枝から離れて地面に降り立ち始めた。

「ちょっと待って! 子供であれって事は。成虫になったらどんだけデカくなるんだよ!」

 後ろに下がりながら叫ぶと、シャムエル様の呆れた声が聞こえた。

「脱皮を繰り返して最上位種になる頃には、君の身長より大きくなるよ。そうなるとかなり危険だから、頑張って今のうちに数を減らしておいてね。お願い」

「んな事言ったってよ!」

 飛びかかってくるカマキリを剣で叩き斬る。こいつ、案外細くて剣を当てるのが難しいぞ。

 それに鎌の大きさが、最低でも15センチぐらいは確実にあるから結構怖い。

「ってか、何だよこの数! 何百?いや、何千だろうこれ。これを駆逐するなんて絶対無理だって!」

 飛びかかってくるカマキリを叩き斬りながら、叫んだ俺は間違ってないよな!


 しかし、俺の叫びも虚しく既に戦闘は始まっていて、巨大化したラパンとセルパンとタロンは、バタンバタンと暴れまわってカマキリを踏み潰したり叩きまくってるし、マックスとニニは、超嬉しそうにカマキリ達を前足でこれも叩き潰している。そして飛び散るジェムを拾いまくっているサクラとアクア。

 ファルコも、嬉々としてあの大きな足でカマキリを掴んで捕まえて嘴で噛みついていた。

 うん、うちの子達最強だね。


 子供カマキリがようやく少なくなり、何匹かは木の中へ逃げ込んで行った。

「もう終わった? はあ、疲れた……」

 そう呟いてその場に座り込んだ俺は、鞍袋に入れた水を飲もうと思ってマックスを探して横を向いた。


 で、目が合っちゃいました。

 すぐ横の茂みにいた、2メートルクラスの巨大カマキリさんと。


「ええ!おい、なんかデカいのがいるぞ!」

 そう叫んで、慌てて立ち上がって剣を抜く。ここまで流れるような一動作だ。

 おお、俺もちょっとは使えるようになってきたじゃん。


 マックス達が俺の悲鳴に振り返るのと、緑がかった茶色の巨大なカマキリが襲いかかってくるのは、ほぼ同時だった。

 1メートル近くある巨大な鎌が振り上げられるのを見て、俺は頭を下げて、持っていた剣を咄嗟に横薙ぎに払った。

 剣は見事に鎌の根元をぶった斬り、まさに俺に襲いかかろうとしていた二本の巨大な鎌が落ちる。

 最大の武器である巨大な鎌を失ったカマキリは、金属が擦れるような気味の悪い叫び声を上げて、しかしそのまま俺に飛びかかって来た。

 カマキリって確か、あの三角頭の口で噛まれても痛かったよな。

 もう一度剣を横に払って、襲いかかるカマキリの三角の首を落としてやった。そこでようやく、巨大カマキリの動きが止まり、巨大なジェムになって転がった。

「デカいな。亜種のジェムよりデカいんじゃないか、これ」

 拾ったジェムは俺の手でも握れないぐらいの大きさがあった。

 そして、足元に落ちている巨大な二本の鎌。


「これも消えないって事は、硬化した素材って事か。じゃあ今のが最上位種って訳だな」

 足元に落ちていた鎌も拾ってみたが、これまた硬い。それに、ヘラクレスオオカブトの角と違って、鎌の質感は鉄というよりガラスのようで、やや茶色がかった乳白色だ。

「へえ、綺麗なもんだな。で、どうした? お前ら?」

 振り返ると、マックスだけでなく、ニニやセルパン達、全員が揃って無言で俺の事を見ていたのだ。

 右肩にいるシャムエル様までが、呆然と俺を見ていた。

「だからなんだよお前ら。俺の顔に何か付いてるか?」

 頬を触りながらそう叫ぶと、シャムエル様がいきなり、俺の頬をバシバシと叩いた。

 痛いって。そのちっこい手で叩かれるとマジで痛いからやめてって。

「凄いよケン! ブラウンキラーマンティスの成虫をあっと言う間にやっつけちゃったね。腕を上げたね。いやあ大したもんだ」

 感心したようにそう言って、また俺の頬を叩く。

「じゃああっちの茂みに行こう。もう少し大きいのがいるからさ!」

「ええ、もういいよ」

 叫んだ俺の言葉は無視されて、マックス達は一斉にシャムエル様が示した茂み目指して走り出した。

「待てって。俺をおいて行くなよ、お前ら!」

 とりあえず、拾ったジェムと鎌を持ったまま、俺も皆の後を追いかけて茂みへ向かった。


「アクア、これ頼む!」

 そう叫んで、拾ったジェムと鎌を放り投げると、ジャンプしたアクアが見事に空中キャッチして一瞬でまとめて飲み込んでくれた。

 さっき程の数ではないが、茂みから巨大カマキリが次々と飛び出してくる。

 だが、その大きさは色々で、子供のカマキリと変わらない大きさのもいれば、先ほど俺が戦ったのと同じくらいの。超デカい奴もいる。

 サクラは俺の横にぴったりと付いて、盾になってくれている。

「いつもありがとうな!」

 そう叫んで安心した俺は、襲いかかる巨大カマキリと正面から向かい合い、次から次へとガンガン戦った。

 だんだん楽しくなって来たぞ。


「ケン、大きいのが来たよ。気を付けて!」

 シャムエル様の声に、俺は慌てて振り返った。

 しかし一瞬遅く、もの凄い勢いで振り降ろされる鎌を、頭上で剣で必死になって受け止めた。

 物凄い衝撃が肘まで響き、剣を取り落としそうになって必死で両手で握って堪えた。

「ギ、ギ、ギ」

 目の前まで迫る、俺の顔ほどもある三角の顔。逆三角形の左右に付いた巨大な目が俺を見るのが分かって、俺は総毛立った。


 こいつ、今笑ったぞ。


 物凄い力に押されて、堪えきれずに片膝をつく。

「負け、るか……よ……」

 必死になって押し返し、足で、下から無防備な巨大な腹を力一杯蹴飛ばしてやった。

 怯んだ次の瞬間、駆けつけて来たマックスが横から勢いよくカマキリに体当たりをかました。力一杯押し返したのと同時だったので、俺は簡単に鎌の下から逃げ出す事が出来た。

 勢い余って横っ跳びに吹っ飛ぶ巨大カマキリ。

「うわあ〜!」

 大声で叫んだ俺は、思いっきり振りかぶって、倒れてもがくカマキリを叩き斬った。

 今までで一番巨大なソフトボールサイズの太い六角柱のジェムが転がった。

「うわあ、これもデカい」

 呆れて足元に転がったジェムを見ていると、跳ね飛んできたアクアが、地面に落ちて転がった巨大な鎌と一緒にせっせと飲み込んでいった。

 振り返ると、どうやら戦闘は終わったようで、もうそれぞれ座って身繕いをしている。


「ええと、終わったのかな?」

 右肩に座るシャムエル様にそう言ってやると、シャムエル様は、ちっこい手を叩いて嬉しそうに笑った。

「うん、これなら旅に出ても大丈夫そうだね。いやあ、強くなったね、大したもんだ」


「待てよ。何故にそこでシャムエル様がドヤ顔なんだ?そこでドヤ顔するのは、どう考えても俺の役だろうが!」

 自分で叫んで、堪えきれずに吹き出した。シャムエル様も声を上げて笑っている。

 俺達はマックス達から呆れた目で見られながらも、止まらない笑いに、しばらくしゃがみ込んで大爆笑していたのだった。

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すぐに吹き出すし苦笑するのが気になる
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