朝のひと時と狩りに出発!
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
こしょこしょこしょ……。
「うん、起きる……」
翌朝、いつものモーニングコールチームに起こされた俺だったが、残念ながら無意識にいつもの返事をしただけで、気持ち良く二度寝の海に沈んで行ったのだった。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
こしょこしょこしょこしょ……。
「うん、起きてる……」
なんとか答えるも、やっぱり起きられない。
「ほらね。本当に起きないのよね」
「毎朝これなのよ。呆れちゃうでしょう」
「成る程。確かに聞いた通りですね。ここまで起きないといっそ感心しますね」
耳元で聞こえるのは、ソレイユとフォールの最強モーニングコールチームだ。
「うん? もう一つの声って、誰だ?」
そこまで考えてすぐに気がついた。
ティグだ。あの声は新しくテイムした虎のティグだよ。
待て待て待て。いくらなんでも虎の舌は駄目だろう。
慌てて起きようとするも、残念ながら寝汚い俺の体は全然起きる気配ナッシング。
いつも思うんだけど、意識が先に起きて体は寝たままってどういう状態なんだろうなあ、シャムエル様、どうなってるんでしょうかね?
フンフンフンフン!
頭の中でそんな事を考えて現実逃避していると、耳元でものすごい鼻息が聞こえてきた。
待て待て待て! これってティグはデカくなってないか?
猫サイズの鼻息じゃねえぞ。まさかとは思うが、そのデカさで俺を舐めるつもりじゃないだろうな!
頼むから起きてくれ。緊急事態だ。これは身の危険を感じるレベルだって! 起きろ俺の体!
パニックになりつつ必死になって自分の体を起こそうとするんだけど、残念ながら全く目が開きません。
そうこうしているうちに、上に影が落ちる気配がして少し暗くなった。
まずい。これって思いっきり襲われる体勢じゃん。
冷や汗だらだら状態で寝ていると突然きた。
ベロ〜ん。
陳腐だけど、そうとしか表現出来なかった。
正しくベロ〜んと俺の右頬の下側からこめかみ、そして額まで一気に濡れたギザギザの硬いヤスリで擦られました。だけど相当気を使って舐めていたらしく、ザリザリとした感触はあったが痛みは全くない。
ただし、そのザリザリの舌に舐められた何とも言えないゾワッとした感触に、俺の背中を震えが走る。
「ひええ〜〜!」
情けない悲鳴をあげて、頭を抱えて転がる。
「起きるからもう勘弁してくれって」
笑いながらなんとかそう言うと、頭を押さえている俺の手の甲と鼻の頭をソレイユとフォールが律儀に左右から分かれて舐めてくれた。
ザリザリザリ!
ジョリジョリジョリ!
こちらは猫サイズだったけど、相変わらずめちゃくちゃ痛い。本気で肉持ってかれてんじゃね?ってくらいには痛い。
なんとか必死で目を開き、自分の顔がちゃんとあるのを確認して薄目で自分の手を見る。
もちろん血塗れになってるなんて事は無く、甲の部分が少しだけ赤くなってる程度だ。
「あはは、朝からスリル満点だな」
腹筋だけで起き上がって、巨大サイズで良い子座りしているティグを見る。
うわあ、あのデカさの舌に舐められたのかよ。
割と本気で怖かったのだが、俺が起きて目が合うと、ティグはこれ以上無いくらいに嬉しそうに目を細めて声の無いにゃーをしてくれた。まあ超巨大虎サイズだったけどさ。
「おはよう、起こしてくれてありがとうな」
なんとか起き上がって、スライムベッドから降りて初モーニングコールを無事に終えたティグを撫でてやる。
「おお、これまた他の子達と違うみっちり毛が詰まってて最高にもふもふだぞ」
笑ってそう言いながら、巨大な頭に抱きついてみっちりもふもふを堪能する。
それからソレイユとフォールの猛獣コンビや、モーニングコールチームを順番にもふってやる。
手早く身支度を整えて、サクラと一緒に水場へ行って顔を洗う。お空部隊とスライム達が全員ついて来たので、スライム達は、泉から流れ出た大きな水溜りに放り込んでやり、そこから手で水をすくってお空部隊にかけてやる。
大喜びで羽ばたく鳥達にだんだんこっちも面白くなってきて、バッシャバッシャと水をかけまくった。
しかも途中からあちこちのテントから鳥達が水音を聞きつけて集結して来て、最後にはお空部隊全員集合状態になっていたよ。
結局靴の中までびしょ濡れになり、もう一回サクラに綺麗にしてもらう羽目になったよ。
「お疲れさん。人気者は辛いな」テントに戻ると、既に俺のテントに全員集合していた。
「お待たせ。じゃあサンドイッチでいいな」
手早く作り置きのサンドイッチや屋台飯を取り出してやり、コーヒーと一緒に美味しく頂いたよ。
シャムエル様は、お気に入りの師匠特製オムレツサンドを丸かじりしてご機嫌だ。
「それじゃあ、片付けて出発するか」
食事の後、少し休憩してから俺達はテントを撤収して狼目指して森の奥へ入って行ったのだった。
俺達の左右には、巨大化した上にオーロラグリーンタイガーのティグと、オーロラサーベルタイガーのクグロフという凄いのが二匹も加わって更に戦闘力の上がった猫族軍団と、同じく巨大化したグリーングラスランドウルフのマフィンが守ってくれているし、上空はファルコとプティラを先頭に、全員の鳥達が加わったお空部隊が上空を制圧してくれている。
おかげで見通しの悪い森の中を進んでいても、横からや後ろからいきなり襲われる心配はしなくて済んだよ。
その時、どこからとも無く遠吠えの声が聞こえて来て俺たちは足を止めた。
『見つけましたよ。五匹ほどの小さな群れのようです。どうしますか?』
ベリーの念話の声が届いて、思わず俺は隣を走っていたハスフェルを振り返る。今の念話は彼にも聞こえていたらしく、軽く手綱を引いて止まるのを見て俺たちも従魔を止めた。
『この先に広い草原がありますから、狼達をそこへ追い込みますね。少し痛めつけておきますので、テイムするなりジェムを確保するなりしてください』
平然と恐ろしいことをさらっと仰る。さすがは賢者の精霊だね。
しかし、せっかく見つけてくれたと言うのならテイムしない手はないよな。
って事で、この先にある草原で一戦やらかす事が無言の打ち合わせで決定して、そのまままた森の中を進んで行った。
よおし、ここまで来たら珍しい従魔をしっかり確保しないとな!