懐かしのメニュー登場!
「あいつら。そういえばまだ帰ってきてないんだ」
スライム達が片付けてくれているのを見てから振り返った俺は、降ろしてあるテントの垂れ幕を巻き上げに行く。
外はすっかり暗くなっていて、ランタンの明かりで昼間のように明るいテントの中と違って漆黒の闇だ。
ランドルさん達のテントにもランタンが点っていて光っているので、どうやらもう起きてるみたいだ。
「どこまで行ったんだよあいつら。もう夕食の時間だぞ」
小さく呟いて中に戻り、すっかり綺麗になった机の上を見る。
「ふむ、あとは何を作るかな?」
作り置きは山のようにもらっているので、まあいいかと思った時、ふと思いついた。
「かき揚げがあって、炊いたご飯があるんだから、これは作らない手はないよな。あ、だけどあのタレが無いな」
腕を組んで考える。
作りたいのは、俺の元いた世界の某ファストフード店のかき揚げライスバーガー。ジャンクだけどたまにめっちゃ食いたくなって、最寄駅の一つ手前でわざわざ降りて、その駅前にある店で食べたっけ。
思い出したらどうしても食いたくなってきた。
「こんな時の師匠のレシピだよな。何か、それっぽいのが無いかな?」
レシピ帳を取り出して探してみる。
「お、それっぽいのがあるぞ。ネギ塩ダレ、よしよし、これで良いんじゃね?」
嬉しくなって、早速作ってみる事にした。
「ええと、材料はネギとニンニク。ネギはこれでいいな」
サクラに出してもらったのは、白くて太い、いわゆる白ネギだ。
「これ、出来るだけ細かいみじん切りにしてくれるか」
みじん切りを近くにいたアルファとアクアに頼んで、その間に調味料を合わせていく。
「何々、ボウルに酒と胡麻油、砕いた岩塩と黒胡椒を入れ、みじん切りの白ネギとニンニクを加えてちょっとだけ水を入れる。しっかり混ぜ合わせて出来上がり。何これめっちゃ簡単じゃん」
ちょっと舐めてみたが、なかなか美味しいな。これって蒸し鶏につけてもうまそうだ。今度やってみよう。
出来上がったタレをそのまま置いておき、ご飯を軽く握ってから直径10センチちょいの大きさに平らに広げて、油を引いたフライパンに並べる。
「軽く焦げ目がつくまで焼いてっと」
時々フライパンをゆすりながら、両面を軽く焼く。
お皿に焼いたご飯を置いて、サクラにさっき作ったばかりのかき揚げを出してもらう。
「ここにさっきのかき揚げを乗せて、塩ダレをかける。で、ご飯で挟めば出来上がり! おお、ライスバーガーになったぞ!」
見た目もほぼそのままだ。かき揚げの具に、緑色の豆を入れれば完璧だった気がする。
「ああ、食べたい!」
周りを見るが、ハスフェル達が戻ってくる様子は無い。
ちょっと考えて、念話でハスフェルを呼んでみる。
『おおい、どこまで行ってるんだ? 飯の支度出来てるぞ』
しかし、返ってきたのはハスフェルの焦ったような声だった。
『悪い、今ちょっと手が離せないから後にしてくれ!』
そう言うなり、いきなり念話をぶった斬られた。まさにガチャ切り。
「おおう、何があった?」
驚いたが、すぐに状況を察した。どうやら、今まさに狩りの最中に呼んだみたいだ。
「そりゃあガチャ切りになるか。悪い、邪魔するつもりは無かったんだよ。頑張れ」
小さく笑って、机の上を見る。
お皿に乗せられた、かき揚げライスバーガー。俺の一番好きだったメニューだ。
「これは味見だ。試作は出す前に食っておかないとな」
そう言いながら冷えた麦茶を取り出し、椅子に座って大きな口を開けてライスバーガーに齧り付いた。
「うん、そうそうこれだよこれ。ああ、美味い。あ、そうだ。サクラ、フライドポテト出してくれるか」
やっぱりバーガーの相棒はポテトだろ。あ、オニオンリングフライも作ればよかった。今度、時間のある時に作っておこう。
「はい、どうぞ。これだね」
ちゃんと一人前をお皿に取り出して渡してくれる。何この気配りの出来る子は。
「ありがとうな」
手を伸ばしてサクラの肉球の紋章の辺りを突っついてやる。
もう一口大きく齧ってからポテトを摘んだ時、視線を感じてお皿の横を見ると、キラッキラに目を輝かせたシャムエル様が大きなお皿を振り回しながら踊り始めた。
「食、べ、たい! 食、べ、たい! 食べたいよったら食べたいよ!」
おう、ダイレクトに食べたいダンス来ました。
「食いたいのか。だけど、これは千切ると崩壊するからなあ」
二口齧っただけのライスバーガーを見る。
「これでも良いか?」
ものすごい勢いで頷かれてしまい、苦笑いした俺はそのまま齧りかけのライスバーガーをお皿に乗せてやった。
「もう一個食うぞ」
立ち上がって、もう一度ご飯を焼くところから始めたよ。
でもまあ、おかげでレシピが一つ増えたので、これはぜひ作り置きしておこう。
って事で、いくつか小さめのおにぎりを作って平べったくしたのを焼いて、かき揚げライスバーガーをまとめて作っておいた。
だって、先にかき揚げを確保しておかないと、出したら最後、絶対食い尽くされるもんな。
「さてと、これで良し。これは俺の晩飯にしよう」
一旦、出来上がったライスバーガーもサクラに預かってもらい、机の上を片付けているとハスフェルから念話が届いた。
『さっきは悪かったな。ちょっといいところだったんでな』
『おう、お疲れさん。こっちこそ忙しい時に悪かったな。それで今どこだ?』
『もうすぐそっちへ着くよ。夕食よろしく!』
最後の一言は、三人一緒の声が届く。
『あはは、了解。それじゃあ準備して待ってるよ』
『おう、楽しみにしてるよ』
笑って今度はいつものように、スッと消えるみたいに繋がりが切れる。
「それじゃあ、腹減り軍団が帰って来るみたいだから、すぐに食べられるように出しといてやるか」
小さく笑ってそう呟き、空のお皿やお椀を適当に取り出してから、さっき作った白身魚のフライとかき揚げを山盛りにした大皿を取り出して並べ、タルタルソースも大きなお椀にたっぷりよそって隣に並べておく。それからライスバーガーを取り出して自分の前に置く。
サイドメニューはちょっと考えて、レタスのサラダとフライドポテト、それから温野菜の盛り合わせときゅうりの酢の物も出しておく。
玉ねぎスープを鍋に取り分けて温めていると、外が一気に騒がしくなった。
「おかえり。準備出来てるぞ」
中から声をかけてやると元気な返事が聞こえて、ランドルさん達も一緒にテントに入って来た。
ご飯の入ったおひつと、パンを適当に盛り合わせた籠を簡易オーブンと一緒に取り出せば準備完了だ。
「じゃあ話は後だな。まずは食べよう」
俺の言葉に、全員揃って嬉しそうに拍手してたよ。
何を狩って来たのかは気になるけど、ライスバーガー食いたいから先に食事にする事にしたよ。