夕食はシーフードに決定!
ぺしぺしぺし。
「うん、起きるよ……」
あれ?
無意識に返事をした俺は、不意に感じた違和感に慌てて飛び起きた。
「うわあ、びっくりした。いきなり起きるなんて、どうしたの?」
顔のすぐ横で尻尾を膨らませたシャムエル様が俺を覗き込んで、そんな失礼な事を言う。
「いや、モーニングコールが一回だけだったからさ、何かあったのかと思って……」
そう言いながら俺の周りを見ると、いつものようにラパンとコニーが俺の背中に巨大化して収まり、ソレイユとフォールの猫科の猛獣トリオが、小さくなったまま俺の顔の横に三匹重なるように丸くなってどちらも熟睡している。そしてフランマとタロンの幻獣コンビも、二匹揃って俺の腹の横に潜り込んでこれも丸くなっている。
モモンガのアヴィとハリネズミのエリーは、ニニの腹の上の一番高いところで仲良く並んでくっついてこれまた熟睡している。
お空部隊はセレブ買いで見つけた止まり木用のハンガーに、皆揃って仲良く並んで留まっている。
平和なテントの中をしばらくの間呆然と見渡し、今が朝ではなく、テイムに疲れて昼寝をしていたところだった事をようやく思い出した。
小さく笑ってそのままもう一度ニニの腹に倒れる。
「あはは、そうだったそうだった。俺、昼寝してたんだ。おお、やっぱり腹毛はニニのが最高得点だな。手触りといいボリュームといい、もう最高だよ」
そのまましばらくの間、俺はニニの腹毛に潜り込んで脇腹に顔を突っ込み、これ以上ないもふもふを堪能した。
そのまま気持ちよく二度寝の海に墜落し、目が覚めたのはそろそろ日が暮れ始める頃だった。
どれだけ寝てるんだよ、俺。
だけど、寝る前まで感じていた怠さや妙な体の重さはもうすっかり無くなっていて、すっきり爽やかな目覚めだ。夕方だけど。
「ええと、良い加減起きるか。あ、そう言えばハスフェル達ってまだ戻って来てないんだな。狩りの方はどうなったんだろう」
そんな事を考えながら何とか起き出し、毛布を畳んでから添い寝してくれた子達を順番にもふもふしたりおにぎりにしたりしていく。
新しく仲間になった虎のティグは、撫でた手触りがまた違っていた。見かけの割に毛が深くて、要するにもふもふのもふもふ。
よし、今度巨大化したティグの腹にも潜らせてもらおう。
内心で決意を固めつつ大きく伸びをして固まった体を解す。
「さて、夕食は何にしようかなあ。このところ肉続きだったから、今夜は魚にしよう」
タラみたいな白身の魚を大量に購入したので、あれを白身魚のフライにしてみようと思う。
そうそう、今回のセレブ買いの収穫でもう一つ嬉しかったのが、小振りだけど新鮮なエビを見つけた事。個人的にはもう少し肉厚のがあれば最高だったんだけど、ややスリムでちょうど車海老より少し小さいくらいの大きさだ。
何でもこの世界のエビは、カデリー平原の海側ギリギリの川沿いにあるハンウィックって街とターポートって街で手に入るらしいんだけど、エビ漁は夏から秋と漁の期間が限られていて、しかもほとんどが加工品や干物にされてしまい、特に新鮮なままのものは漁の期間中の川沿いの街くらいしか出回らないらしい。
アポンの街では普通に食べられているそうなので、単に俺が見逃していただけらしい。
そうか、魚屋は朝市じゃなくて実店舗の魚屋か。今度行ったら探してみよう。と、セレブ買いでのスタッフさんからの説明を聞いて、西アポンに行った時の予定を決めた俺だったよ。
「あ、じゃあエビフライと白身魚のフライって事でやってみるか」
サクラに材料を出してもらい、まずエビの殻剥きから始める。
しかし、ここで問題が発生した。
エビのお頭を外して殻を剥くと、思っていた以上に身がかなり小さかったのだ。
「ううん、火を通すと更に小さくなるもんなあ。これでエビフライにしたら、幕の内弁当に入ってるエビチリレベルに小さくなりそうだ」
周りでは、殻剥きをやりたいスライム達がポンポンと跳ねて自己主張している。
「あ、もういっそかき揚げにするか。玉ねぎや何かと一緒に揚げれば良いな」
小さいなら、いっそ小さいなりに使えば良い。発想の転換で事なきを得たよ。
「じゃあ、もう一回やるからよく見ててくれよ」
代表してサクラとアクアが机の上に上がってすぐ横で俺のする事を見ている。他のスライム達は椅子に登ってきて、のびあがって俺のする事を見ていた。
「まずこうやって頭を外す。それで足を取り、殻はこんな風に腹側から剥がすみたいにして剥くんだ。今回はかき揚げにするから、尻尾も全部丸ごと外してくれて良いぞ」
実演しながら、一つ一つ丁寧に教えてやる。
「了解、一度やってみるね」
サクラとアクアが一匹ずつエビを飲み込み、しばらくモゴモゴやっていたが、どちらもすぐに覚えてくれた。
「それで、下処理をするんだ。この背中側を軽く切ると、こんな風に汚れた部分があるからこれを取り除くんだ。これをしないと、食べた時にジャリジャリしたり匂いがしたりして美味しくないんだよ。なのでこれは絶対にやる事。それから、時々綺麗で何も入ってないのもあるけど、それは気にしなくて良い」
皮を剥いたエビをもう一回取り込み、すぐに吐き出した時には、これ以上無いくらいに完璧に下ごしらえが終わっていた。
「ええと、最後に臭み消しと汚れを取る為に……」
完璧に綺麗になった車海老の身を見る。
「うん、大丈夫だな。そっか背ワタを取った時に洗浄の能力で全部綺麗にしてくれたわけか」
「そうだよ〜! 綺麗にしたからね!」
得意気なアクアとサクラの答えに俺は笑ってプルンプルンの紋章を突っついてやった。
って事で、海老の下ごしらえはアクアとサクラからやり方を伝授されたレインボースライム達に任せて、サクラとアクアには白身魚の骨取りをしてもらう事にした。フライにした時に、骨があったら食べにくいものな。
これは説明だけすればすぐに理解してくれて、あっという間に完璧な骨取りをしてくれた
後は玉ねぎとニンジンをやや大きめの千切りにして貰えばかき揚げの準備完了だ。
「さてと、じゃあ俺にとっても久々のシーフードな夕食。早速作って行きますかね」