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虎との遭遇

「はあ、おいしかった。ご馳走様」

 残りのコーヒーを飲み終えてそう言いながら、俺は草食チームに果物を齧らせてやっていた。



 食後に休憩しながら皆で相談して、この場は一旦撤収する事にした。

 まあ誰も来ないだろうけれど、飛び地と違ってここは誰か他の冒険者が来る可能性も充分にある。なので一応、盗難防止の為なんだって。

 ここは綺麗な水場に近いからもったいないかと思ったんだが、この境界線の草原には、いくつか良い水場が点在しているからテントを張る場所には不自由しないんだってさ。

 成る程。それならこの場所にこだわる必要は無いな。

 キャンプ地を決める時なんかは、この世界の事を詳しく知っているハスフェル達に任せている。本当、彼らには助けられっぱなしだ。




「それじゃあまずは、ケンの目的のオーロラグリーンタイガーを探すか。もし先に他のジェムモンスターに出会ったら、それをテイムしても良かろう」

 お代わりのコーヒーを飲み干したハスフェルの言葉に俺は頷く。

「そうだな。あ、俺の第一希望はそのオーロラグリーンタイガーだから、それ以外が出たらランドルさんに譲っても良いぞ」

「ああ、それはありがたいですが……ここのジェムモンスターの噂は聞いた事があります。そもそも俺にテイム出来るかどうか分かりませんよ」

 自信無さげにランドルさんがそんな事を言ってるけど、シャムエル様は笑顔で頷いてるから大丈夫なんだろう。

「俺達も手伝いますから大丈夫ですって。あ、俺の希望のオーロラグリーンタイガーが見つかれば、その時は助太刀よろしくです」

「せ、戦力になりそうなのは、俺の従魔ならこのマフィンぐらいですかね」

 そう言って足元で寛いでいるグリーングラスランドウルフを見る。

「ああ、そういえば名前を聞いてなかったけど、また可愛らしい名前にしたんだな」

 思わずそう言った俺の言葉にランドルさんも笑う。

「良いでしょう。もうここまで来たら従魔達の名前を全部お菓子の名前で統一しますよ。実は私は甘党なんです」

「あはは、良いなそれ。じゃあ今度お菓子も焼いてやるよ。実は師匠からいろいろお菓子のレシピも貰ってるんだけど、俺もそれほど甘いものは食べないから、残ったらどうしようと思ってまだ一度もチャレンジしてないんだよ」

「是非! よろしくお願いします!」

「是非! よろしくお願いします!」

 目を輝かせて身を乗り出すようにしながら、バッカスさんまで一緒になってそんな事を言われて俺達は顔を見合わせて笑い合った。

 よし、作ったら確実に食ってくれる人達がいる間に、何かお菓子も作る事にしよう。




 手を叩き合って立ち上がり自分のテントを撤収した俺達は、それぞれの従魔に飛び乗りその場を後にしたのだった。

 さて、どんなジェムモンスターが出るんだろうな。






「何だか、鬱蒼とした森って感じになってきたな」

 マックスの背の上で、覆いかぶさるように伸びる木の枝を避けて、やや体を屈ませて伏せるようにしながら周りを見渡す。

 足元は従魔に乗っているから分からないけれど、マックスの足が少し見えるくらいまで下草が茂っていて、時折飛び跳ねるようにして大きく何かを飛び越えたりしているので、相当足場が悪いであろう事が想像出来る。

 本当に今更だけど、従魔達のありがたみを思い知るよ。

 用心しつつ、俺達は森の中の獣道を進んで行った。

 ハスフェルの乗るシリウスを先頭にその後ろをギイの乗るデネブ、その後ろに俺の乗るマックスとランドルさんとバッカスさんの乗るダチョウのビスケットが並び、しんがりはエルクのエラフィに乗るオンハルトの爺さんが務めてくれている。そして俺達の両横を巨大化した肉食の従魔達が守ってくれている。草食チームとスライム達は従魔達の背の上で小さくなって大人しくしている。もしも戦いになって危険な時は、俺とランドルさんの鞄の中に小さくなって避難する予定だ。

 木が茂って視界が悪い為、お空部隊はファルコ以外は小さいままですぐ近くの頭上を飛んでいる。

 ファルコは上空から俯瞰して何か見つかれば知らせてくれる事になっている。なんでも、猛禽類の視力はインコ達とは比較にならないくらいに凄いらしく、森の中で動く生き物がいれば見えるんだって。猛禽類の視力恐るべし。

 ちなみに、もしもベリーが何か見つけて知らせてくれたら、ファルコが見つけて俺に知らせてくれた事にする予定だ。



『いませんねえ。ちょっと捜索範囲を広げますね』

 のんびりしたベリーの念話が伝わって間もなく、フランマからの何やら大興奮状態の念話が届いた。

『ベリー今すぐ来てください!』

 その後、何やら念話で意味不明の俺の知るのとは違う言葉でのやりとりがなされて、俺は呆気に取られていた。

『おいおい、何やってるんだよあいつら』

 ギイの呆れたような念話が届いて、俺はちょっと遠い目になった。

 その時、いきなり頭の中に物凄い大声が響いて、驚いた俺はもうちょっとでマックスの背からずり落ちるところだった。



『見つけましたよ! 亜種のオーロラグリーンタイガー! これは素晴らしい!』



 慌てて起き上がり座り直す。

「大丈夫ですか?」

 後ろにいたランドルさんの驚く声が聞こえて、俺は笑って誤魔化しておいた。

『かなり大きいですので、少々痛めつけて弱らせてから追い込みます。その先にある崖の下に泉がありますので、そこなら広いですからね。その側で待っていてください!』

 返事をする間も無く念話が唐突に途切れ、思わず振り返ったハスフェルとギイと目が合う。

 どうやら今の念話は、彼らにも聞こえていたみたいだ。

「なあ、今……」

 口を開いた瞬間、森中に轟くような物凄い雄叫びが聞こえて俺達は全員揃って飛び上がった。

 何かが争うような大きな物音と、時折聞こえるものすごい唸り声。それから何かの悲鳴のような鳴き声。

 一気に従魔達の緊張が高まり、命じてもいないのに全員揃ってもの凄い勢いで駆け出した。

「おいマックス……」

 背にしがみつきながら何とかそう言うと、一声吠えたマックスは森から抜けた先にある崖の下にある泉の側へ大ジャンプして見事に着地した。

「どわあ〜〜〜〜〜!」

 慣性の法則で前方に吹っ飛びそうになるのを、必死になってしがみ付いて堪えようとしたが果たせず、体が浮くのを感じて俺は悲鳴を上げた。

 瞬時にアクアとサクラが鞄から飛び出して俺を支えてくれてなかったら、確実に堪えきれずに泉に落っこちていたよ。




「あはは、ありがとうな」

 足を確保してくれたアクアとサクラにお礼を言い、何とか震える体を叱咤して起き上がって周りを見回す。

 ハスフェル達は苦笑いしているだけだが、ランドルさんとバッカスさんはビスケットの首にしがみついたまま二人揃って完全に硬直している。

 また物凄い咆哮が聞こえて飛び上がったが、その声はさっきよりも何だか弱々しい気がする。

 唸り声とバキバキと枝の折れる音がして、崖の上にある森の木がまるで生きているかのように蠢いている。

「あの、もしかしてあれって……」

 完全に上ずった声のランドルさんの質問に、答えようとして果たせなかった。



 何しろその瞬間に、一番大きなマックスよりもまだ大きい巨大な一頭の虎が飛び出してきたからだった。

「何だよあれ! めっちゃデカいじゃんか!」

 まさかそこまで大きいとは思っていなかった俺の悲鳴が、泉のほとりに響き渡ったのだった。

 おいおい。これ、マジでどうするんだ?

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