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早朝の大騒ぎ

「ううん……暑い……」

 その朝、珍しく起こされる前に俺は目を覚ました。理由は、何故か知らないけど妙に暑くて苦しかったからだ。

「あっつい。もう秋だろうに、何でこんなに暑いんだよ……」

 寝ぼけて文句を言いつつも、薄目を開けた状態で何とか起き上がろうとしたのだが、これまた何故か全く起き上がれない。

 そして目を擦ろうと右手を上げようとして気が付いた。両手も両足も動かねえよ。

 そりゃあ起きられない訳だ。だけどどうしてそんな事になっているのかが分からない

「何だこれ? どう言う状況だ?」

 熱があってぐったりして体が動かないとか、そんなのではないのは分かるけど、じゃあどうして動けないのかがさっぱり分からない。

 寝起きの働かない頭を総動員させて何とか原因を探ろうとして、方法をひとつ思いついた。



「なあ、シャムエル様……そこらにいる?」

 しかし反応が無い。

 返ってきたのは、近くから聞こえる小さな寝息だった。

 ううん、困った。シャムエル様はまだ寝てるみたいだ。

「ええと……ベリー。そこらにいる?」

 そこでもう一つの頼りになる仲間を呼んでみる。すると今度はすぐに反応があった。

「おや、おはようございます。起こされる前に自分から起きるとは珍しいですね」

 返事をしてくれたのはいいんだけど、ベリーの声は完全に笑っている。

「なあ、全然動けないんだけど、今どういう状況なのか教えてもらえるか?」

「ええ? どういう状況って、起きてみれば分かるでしょう?」

「いやあ、頭はもう起きてるんだけど目が全然開かないんだよなあ。それに何故だか体も動かないんだよ」

「じゃあまずは、頑張って目を開ける事からですね」

 完全に面白がってるその声を聞き、諦めた俺はニニの腹毛に埋もれたまま大きな欠伸をした。

 それからしばらく頑張って眠い目を必死で何度か目を瞬きさせていると、何とかそれなりに目が開いた。

 そしてそのままもう一度起き上がろうとして、ようやく動けない理由を理解したよ。



「ソレイユ、フォール。それにタロンまで……お前ら何してるんだよ。俺を押し潰す気か?」

 呻くようにそう言うと、俺の上に覆いかぶさるようにして並んで寝ていた巨大化したソレイユとフォールが顔を上げた。タロンもゆっくりと起き上がって伸びなんかしてる。

「おはようご主人。私達のお仕事取っちゃ駄目です。ほら、まだ起きるには早いですよ。寝ててください」

 そう言って、フォールがデカい手……じゃなくて、前脚で俺の額を押さえつけた。

「いやだから待てって。第一どうしてお前ら揃って巨大化してるんだよ?」

 俺の言葉に、それぞれ誤魔化すように笑って起き上がって伸びなんかしてるし。

 何しろほぼニニサイズになった巨大な三匹は、俺の左右の腕に乗りかかる状態でソレイユとタロンが、そして俺の膝から下には丸くなったフォールが、それぞれ巨大化してのし掛かって寝ていたのだ。

 完全に体の上には乗られていないけど、巨大化した三匹が、俺の手足を完全に下敷きにして俺の体にのし掛かるようにして寝ていたんだから、そりゃあ動けなくて当然だよ。

 ようやくさっきの状況を理解した俺は、よく寝ている間に潰されなかったなと逆に感心していた。

 いや、それよりニニとマックスは、こんなに大きなのに揃って上に乗られて大丈夫なのか?

 慌てて俺を腹の上に乗せてくれているニニを見ると、顔を上げて嬉しそうに声の無いニャーをされたよ。

 何その破壊力。朝から俺を萌え殺す気か?

 手を伸ばして撫でてやろうとしたが、残念ながら完全に痺れて感覚が無くなっている俺の手は、全然ぴくりとも動いてくれなかった。




「ああ、駄目だ。めっちゃ痺れてきた」

 まだスライムベッドの上でマックスとニニの間で横になったままの俺だったが、目は覚めているものの全然起きられる状況じゃない。

 何故って、三匹の下敷きになっていた手足が滅茶苦茶痺れているからだ。

 さっきと違い、ようやく感覚が戻って来たのだが、正直言ってこっちの方が百倍困る。もう、痺れはジンジンなんて可愛いレベルじゃない。激痛だよ。激痛。痛さのあまり笑いが出そうなレベルだ。

 転がったまま、あまりの痛さに動けず固まっていると、二二の腹の上で寝ていたシャムエル様が起きたみたいだ。

「ふわあ、おはよう。ケンもそろそろ起きれば?」

 欠伸半分でそんな事を言われて、俺は尻尾を……。

「うああ。駄目だ。まだ全然痺れが取れねえって」

 少しだけだったんだけど、腕を動かした拍子に指先から肩まで衝撃波のような激痛が走り、俺は情けない悲鳴を上げた。

「おやおやどうしたんだい?」

 素知らぬ顔でそんな事を言ってくるシャムエル様を、俺は涙目で睨みつけた。



「触るなよ。絶対触るなよ。今触ったら俺は泣くぞ!」



 転がったまま見上げたシャムエル様の邪悪な笑みを見て、俺は慌ててそう叫んだ。

「それはつまり、触ってくれって言っているんだよね?」

 笑ってそう言い、そのまま毛の流れに沿ってニニの腹の一番高い所から俺の右腕に滑り降りて来た。

「駄目だって! マジで駄目だってば〜!」

 慌てて叫んだが、時すでに遅し。

 シャムエル様が当たったそこから波のように痺れが全身に走り、俺は余りの衝撃に悲鳴を上げる事すら出来ずに撃沈した。



「訳分かんねえよ……何で、夜明け前からこんな事になってるんだよ……」

 微かに誰かが俺を呼んでいる声が聞こえたが、答える余裕は無い。遠ざかる意識の片隅でそう呟いた俺は、あまりの痛さと衝撃にそのまま意識を手放したのだった。

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