今後の予定
「いやあ、美味かったよ。ご馳走様」
「本当に美味しかった。ご馳走様。だけど、こんな食事に慣れたら祭りが終わった後が怖いよ」
バッカスさんとランドルさんは、かけらも残さず平らげたお皿を返してくれながら満面の笑みでそんな事を言っている。
「はい、お粗末様でした。まあ、それだけ綺麗に食べてくれたら作り甲斐があるってもんだよ。材料は山ほどあるから、一緒にいる間はどうぞ遠慮無く食べてくれよな」
受け取ったお皿をスライム達に綺麗にしてもらいながらそう言って笑うと、同じく空っぽになったお皿を返してくれたマーサさんとクーヘンにまで、またお礼をお言われてしまった。
「まあ、余裕がある時は、今みたいに新しいレシピを色々試してみるから、お楽しみに。言っとくけど、何が出るかは俺も知らないよ」
笑ってそう言うと、全員揃って期待に満ちた眼差しで見つめられてしまい、ちょっと照れ臭くなって誤魔化すようにデザートの果物を取り出したのだった。
「それで、さっき言ってた今後の予定だかを詳しく聞かせてくれよ」
激うまリンゴを飲み込んで、ハスフェル達にそう尋ねる。
「ああ、予定ではクーヘンとマーサさんが帰った後、一旦ここを撤収して全員でカルーシュ山脈の奥地へ行く予定だったんだがな。言ったように、一番の目的だったランドルの為の強い従魔をテイムしちまったもんだから、どうするべきかと思ってな」
そう言いながらハスフェルとギイだけでなく、オンハルトの爺さんまでが揃って俺を見ている。
「で、なんでそんなに俺の意見を気にする訳? あ、もしかして芋虫系が出るとか?」
もしもそうなら、俺は絶対行かないぞ! と内心で決意を固めていると、三人は揃って首を振った。
「違う違う。言っただろうが。あそこのジェムモンスターは、下手すると地下迷宮並みなんだよ。恐竜じゃなくて出るのは主に猫科と犬科の猛獣レベルのジェムモンスターだよ。ああ、確か熊も出たな」
当然のようにそう言われて、マジでドン引きしたよ。
「いやあ、俺はちょっと遠慮し……」
「言っておくが、あそこにいる猫科のジェムモンスターは、お前ならテイムしたくなると思ったんだがな」
俺の言葉を遮るようにして話すハスフェルの、にんまり笑うその笑みが怖いっす。
だけど、猫科の猛獣と言われて一気にやる気の天秤が傾く。
「ちなみに、何が出るか聞いていい?」
すると、またにんまりと笑ったハスフェルはこう言ったのだ。
「良さそうなのなら、オーロラグリーンタイガーだよ。どうだ?」
それを聞いた瞬間、俺は立ち上がっていた。オーロラグリーンタイガーって事は、要は虎だよな。おお、虎も欲しかったんだよ。
「欲しい! 絶対テイムする!」
「よし、それでこそ冒険者だ!」
何故かドヤ顔のハスフェルがそう言い、ギイとオンハルトの爺さんが笑って拍手している。
それと対照的に、ランドルさんとバッカスさんは二人揃って真っ青になった。
「いやいや、待ってください! 幾らなんでも無茶が過ぎます。オーロラグリーンタイガーは、そもそも人間が相手に出来るジェムモンスターではありませんよ」
必死になって顔の前で手を振るランドルさんとバッカスさん。その隣では、クーヘンとマーサさんも呆気に取られてびっくり顔のままで二人揃って固まっている。
「何、そんなに危険なのか?」
振り返って、側にいたギイに尋ねる。
「まあ危険は危険だが、この顔ぶれなら大丈夫だよ。心配するな」
平然とそう言われて何となく嫌な予感がしたが後の祭り。結局、ランドルさん達もハスフェルに言いくるめられてしまい、どうやら奥地の狩りに全員で行く事が決定されたみたいです。
そこまで決まったところで今夜は解散になったんだが、机を片付けながらふと思いついて考える。
「待てよ。狩りの後で料理なんてしたくねえよな。作り置きって……あ、マギラス師匠からもらったのが山ほどあるって言ってたな。じゃあそれで行こう。肉を焼くくらいは出来るだろうからな。あとは屋台で買ったサンドイッチや串焼きなんかもかなりあるし、なんとか大丈夫だろう。いや駄目だ。飲み物が全然ねえじゃんか!」
慌ててサクラに在庫を確認すると、麦茶が少しあるだけでコーヒーも緑茶も全滅。ええと、これはどうするべきだ?
「なあ、ちょっと待ってくれるか」
慌ててテントから出ようとしていたハスフェルを呼び止める。
「ん、どうした?」
呼ばれたハスフェルが、不思議そうに足を止めて振り返る。
「食事の時の飲み物が、激うまジュース以外ほぼ全滅なんだよ。せめて半日もらえたら、コーヒーと麦茶と緑茶くらいは用意するんだけどなあ」
「ああ、それは確かに困るな。それなら午前中で作れるだけ作ってくれるか。それで午後から出かける事にすれば良かろう。目的地までかなり距離があるから、なんなら途中で狩りをしつつ向かって、境界線前の安全地帯で一泊すればいい。それなら翌日の朝から目的の場所へ行けるからな」
「ええと、その境界線って何だ?」
思わず質問すると、一瞬目を瞬いたハスフェルが教えてくれた。
つまり、俺達が行こうとしているカルーシュ山脈の奥地は、聞いたように猛獣のジェムモンスターが出る超危険地帯なんだが、そいつらは逆に言えば自分のテリトリーからは一切出てこないので、そこに踏み入りさえしなければ出会す危険性は無いんだって……本当だろうな?
それで、その手前にあるのが境界線と呼ばれているなだらかな草原地帯らしい。
冒険者達が境界線と呼んでいるその草原地帯を越えると、出現するジェムモンスターが一気に凶暴化するんだって。なので、今回はその境界線にベースキャンプを張って寝る時の安全を確保しつつ、奥地では日帰りで狩りをする予定らしい。
と言うのも、当然上位のジェムモンスターなので出現する個体数は少ないから、タイミングによっては簡単には見つからないかもしれないと聞かされ、俺は無言で少し離れたところで姿隠しの術を使って隠れているベリーとフランマを見た。
『ええ、もちろん探して追い込んであげますのでご心配なく。他にも何か見つけたら念話で教えて差し上げますので、欲しいジェムモンスターがいれば言ってくださいね』
念話で当然のようにそう言われてしまい、俺はフォールとソレイユをテイムした時の事を思い出して遠い目になるのだった。
「有難いんだけど、戦力過剰もここに極まれりだな」
思わずそう呟いて、肩を竦めた。
「それじゃあおやすみ」
手を上げたハスフェルがそう言って自分のテントに戻り、それを見送った俺はテントの垂れ幕を全部下ろしてから中を振り返った。
話をしている間に、いつもの野外用スライムウォーターベッドが用意されていて、ニニとマックスはもうその上に寝転がって定位置についている。
「あはは、寝る準備万端だな。いつもありがとうな」
笑ってそう言い、スライムウォーターベッドを撫でてやる。
「ご主人、綺麗にするね!」
サクラの声と同時に、足元から触手が伸びてきて一瞬で俺の体を包む。触手が元に戻った時には、汗も綺麗になりサラサラの快適になっていたよ。
「それじゃあ今夜もよろしくお願いします!」
防具と靴を脱いで剣帯を外すと、そう言ってニニとマックスの間に飛び込む。ラパンとコニーは俺の背中側、お空部隊はセレブ買いで見つけた洋服を掛ける大きなハンガーに並んで留まっている。横棒が太めのハンガーを探してもらったから、留まり心地は良いみたいだ。フランマが俺の腕の中に飛び込んできて、猫族軍団はベリーのところへ行ったみたいだ。ハリネズミのエリーは猫サイズになって外に出て行った。周りで夜の間に狩りをして、昆虫を食べるんだってさ。
それぞれ定位置についたのを見て、ベリーがランタンの明かりを消してくれた。
「ありがとうな。それじゃあおやすみ。明日もよろしくな」
それだけを言って上掛け用の毛布を引き上げて目を閉じたところで、俺の記憶は途切れている。
いやあ、いつもながら見事な墜落睡眠だね。我ながら感心するよ。




