新作料理は大人気!
「うわあ。これまた凄いのをテイムしたんだな」
思わずそう言ってしまうのも無理はないだろう。
ランドルさんとバッカスさんの乗ったダチョウのビスケットの足元には、恐らく狼と思われる一頭の犬科のジェムモンスターが、まるで甘えるように寄り添っていたのだ。
「ああ、ランドルが頑張ってテイムしたんだよ。グリーンバタフライの幼虫と戦った後、ここへ戻ってくる途中で偶然一頭だけでいるところを見つけてな。せっかくだからと俺達も協力して捕まえたんだよ。こいつはグリーングラスランドウルフの亜種。クーヘンがテイムしたのと同じ種類のジェムモンスターの亜種だよ」
ハスフェルの説明に感心して、大人しく座っている狼を見た。向きによって緑がかって見える灰色の毛並みとグレーの瞳。顔つきもキリッとしていて、こう言ってはなんだかマックスよりも断然野性味はありそうだ。
今は大型犬サイズぐらいになっているけど、デカくなったらマックスと同レベルらしい。うわあ、本当に良いのをテイムしたな。これならソロになっても戦闘力はバッチリじゃん。
「へえ、良かったじゃないか。それじゃあ、もう、言っていたカルーシュ山脈へは行かないのか?」
明日、マーサさんとクーヘンが街へ戻ったら行くような事をいっていたのを思い出して聞いてみる。
「それなんだがな。一応お前の希望も聞いてから判断しようと思ってな。とにかく腹が減ってるんだ。先に飯にしてもらっても良いか?」
ハスフェルの言葉に、笑った俺は机を指差した。
「了解。じゃあ出すから座ってくれよ。それで食べてからゆっくり明日の予定を聞くよ」
大喜びで席に座る彼らを見て、俺はコンソメスープを鍋に取り分けて大急ぎで温め直しながら、準備していた料理を机の上に取り出して並べた。
それからご飯の入ったおひつと、カゴに盛り合わせたパンも適当に取り出して、簡易オーブンの横に置いておく。
「ええと、まずメインのこれが定番のポークピカタ。要は豚肉にチーズ風味の玉子をつけて焼いてあるんだよ。こっちはさらにボリュームが出るように、肉の間にチーズが挟んであるチーズ入りピカタ。間のチーズが溶けて熱いから、食う時に火傷しないようにな。それでこっちが定番のチキンピカタと、カレー味の衣がついてるカレーピカタ。それからこっちはハイランドチキンピカタとカレー風味な。で、サイドメニューはそっちがナスの煮浸しで、こっちはちりめんじゃがいもだよ。スープはコンソメスープを温めたよ。ご飯がいい人はこれ、パンがいい人は好きに取って焼いてくれ。以上! どれもたっぷりあるから好きなだけどうぞ」
一応全部新メニューなので、指差しながら説明しておく。
「へえ、肉を玉子で焼いてあるのか。こりゃあ美味そうだ」
「へえ、これは初めて見るな。ナスを炊いてあるのか」
「こっちはこれで良い香りだ。どれも美味そうだぞ」
そんな事を言いながら、嬉々として用意したお皿に嬉しそうに山盛り取っているハスフェル達。
うん、遠慮なく食ってくれて良いけど、お前らは野菜も食おうな。
「ほら見てください。マーサさん。同じ料理なのにいろいろ種類があるみたいですよ」
「いやあ、どれも美味しそうだね。これは、どれを貰おうか考えちゃうねえ」
クーヘンの言葉に嬉しそうにお皿を持ったまま頷いたマーサさんは、先に小鉢にナスとちりめんじゃがいもをそれぞれ取り、メインのお皿に生野菜をたっぷり取り、ちょっと考えてからポークピカタとチーズ入りのポークピカタを一枚ずつと、それからハイランドチキンピカタの小さめのを選んで一枚取った。
ええ、別にいくらでも食べてくれて良いんだけど、マーサさんは俺より少食だったから、あんなに取って食べられるかな?あの小さめのハイランドチキンのは、これならマーサさんでも食べられるかと思って小さめに切ったから丸ごと一枚食べてもらっても良いんだけど、それにプラスであのポークピカタ二枚はちょっと多いんじゃないか?
若干心配になり見ていると、自分の席について手早くポークピカタを二枚とも三分の一くらいを切り、大きい方を二枚ともクーヘンのお皿に乗せた。
成る程。いろいろ食べたいけど多すぎるから、自分用に一口ずつ取ってあとはクーヘンに食べてもらおう作戦か。少食のマーサさん、よく考えてるな。
ランドルさんとバッカスさんは、お皿を手渡すと満面の笑みで何度もお礼を言ってから、大喜びでそれぞれ山盛りに取っていたよ。
良いねえ、さすがは冒険者。食う量も半端ないよ。
俺は、マーサさんと同じように生野菜をたっぷり取ってから、チーズ入りポークピカタとハイランドチキンのカレーピカタの大きいのをそれぞれ一枚ずつ取り、いつもより大きなお皿を持って目を輝かせているシャムエル様を見て、黙って普通のポークピカタも一枚追加した。
それから小鉢にちりめんじゃがいもと、ナスの煮浸しをそれぞれ山盛りに取り分けた。ご飯もいつもよりも多めによそり、コンソメスープも別の大きめのお椀にたっぷりと取ってからいつもの簡易祭壇に綺麗に並べる。
「新作のチーズ入りポークピカタとハイランドチキンのカレーピカタだよ。それからナスの煮浸しとちりめんじゃがいも。これは俺のお勧めです。お酒に合うんだよな。コンソメスープもどうぞ」
手を合わせて目を閉じて、小さな声で料理の説明をする。
いつもの収めの手が優しく俺を撫でてから料理を撫でていくのを見送り、急いで自分の料理を席に戻した。
「ああ、待っててくれたのか。悪かったな」
全員がまだ食べずに、俺が席に戻るのを待ってくれていた。
慌ててお礼を言って席につき、改めて全員揃って手を合わせてから食べ始めた。
「食、べ、たい! 食、べ、たい! 食べたいよったら食べたいよ!」
シャムエル様は、どうやらランドルさん達は気にしない事にしたらしく、遠慮なくお皿を持って食べたいを連呼しながら飛び跳ね始めた。
「はいはい、ちょっと待ってくれよな」
苦笑いした俺は、先に小鉢の料理をそれぞれ取り出した小皿に取り分けてやり、蕎麦ちょこにはコンソメスープを入れてやる。それからメインの二種類のピカタはそれぞれ大きく切って、野菜の横に盛り合わせてから、ご飯も大きく一塊取って切り分けたお肉の横に盛り合わせてやった。
うん、見積もりぴったり。これで残りがいつもの量になったぞ。
「はいどうぞ。新作料理の定番ポークピカタとチーズ入りポークピカタ。それからこっちがカレー味のチキンピカタ。あ、ハイランドチキンだぞ。それからナスの煮浸しとちりめんじゃがいもだよ」
目を輝かせるシャムエル様の前に説明しながら並べてやる。
「うわあ、どれも美味しそう! じゃあ遠慮なく、いっただっきま〜す!」
そう言って嬉しそうにお皿を両手で持ったシャムエル様は、やっぱり顔面から料理にダイブしていったよ。
「相変わらず豪快に食べるなあ」
小さく呟いた俺は、もふもふの尻尾を突っついてから、自分の分を食べ始めた。
うん、自分で作って言うのも何だが、どれもマジで美味しいよ。
マギラス師匠、簡単で美味しいレシピをありがとうございます!
心の中で、マギラス師匠にお礼を叫んでから、俺はまずは食べる事に専念した。




