料理開始!
「ええと、じゃあまずはレタスだな」
大きなボウルに氷をたっぷりと作り、冷水を用意してからサクラに出してもらったレタスをガンガン千切って洗う。綺麗に洗ったら、冷水で冷やして水切りをしてからサクラに渡していく。
もう慣れた作業なのでバリバリと豪快にレタスを千切っていると、見ていたレインボースライム達がやると言い出し、お願いしたら山ほどあったレタスをほぼ言った通りにしてくれたよ。
つまり、半分はサラダ用に小さく千切り、そして半分はサンドイッチ用に大きめのまま。冷やした後の水切りも完璧。
よし、またスライム達に任せられる作業が増えたぞ。
次に取り出したのは、紫色の綺麗なナスだ。
「ええと、何を作ろうかな」
そう呟きながらレシピ本の素材別の索引を見てみると、ナスの料理も当然だがいくつも載っている。
「副菜なら何があるんだ?」
パラパラと見ていてあるページで手が止まる。
「もう一つがじゃがいもちりめんなんだから、これにしよう。あ、でもこのメニューだと俺とマーサさんは良いけどハスフェル達は足りないかも……うん、ポークピカタだけじゃなく、チキンピカタとかチーズピカタも作ってやれば良いな。余裕があればカレー風味ってのもやってみよう」
メニューが決まれば後は作るだけだ。
その前に、ベリーに果物を箱ごと渡しておき、草食チームで食べたい子達にも分けてもらうようにお願いしておく。
まずは鍋に湯を沸かして鰹出汁を少しだけ作っておき、洗ったナスのヘタを切り落として縦に半分に切る、それから皮側に斜めに細かく飾り切りを入れる。これは定食屋で仕込みを手伝ってたから得意なんだよ。
「じゃあ、こんな風にしてくれるか」
「分かった。やってみるね!」
俺のする事を横で見ていたサクラとベータとデルタに見本を渡してナスを指差すと、元気良く返事して、洗って置いてあったナスを手分けして全部飲み込んでしまった。それでしばらくモゴモゴしていたが、揃って完璧に綺麗に飾り切りされたナスを吐き出してくれた。
「おお、上手い上手い。じゃあこれを多めの油を入れたフライパンで焼いていくっと」
やや深めのフライパンにたっぷりの油を入れて、ナスの皮の方から焼いていく。
焼いている間に、煮浸しにする材料を用意する。
「だし汁にみりんと醤油とすりおろした生姜。あ、ネギも刻んでおこう」
細めのネギを取り出してアクアに刻んでおいてもらい、さっきの材料を測って合わせておく。
「そろそろ焼けたかな?」
反対側もひっくり返してしっかりと焼き目を入れたら、さっきの合わせ出汁を全部まとめてたっぷりと入れてそのまま中火で煮込んでいく。湧いて来たら弱火にして落とし蓋をしておく。
「だいたい十分くらいかなっと」
以前シャムエル様にもらった十分砂時計をひっくり返して置き、手早く机の上を片付ける。
「じゃあ、煮込んでる間に次の準備だな。ええとこれ、いつもみたいに皮を剥いて芽を取ったら、大きめの角切りにしてくれるか」
じゃがいもを数えながら多めに取り出して机に置くと、側にいたアルファが、一瞬でジャガイモを全部取り込んでしまった。
「こら〜仕事の独り占めは駄目だぞ〜仲良くしろ〜」
笑いながらそう言って突っついてやると、まだ皮の付いたままのジャガイモを大人しく吐き出した。
「ごめんなさい」
ちょっとしょんぼりしてぺしゃんこになってしまったので、笑って両手でおにぎりにして丸く戻してやった。
「アルファはすぐ謝る良い子だな」
「はあい、アルファは良い子だから仲良くしま〜す」
すぐに立ち直ってそう言うと、残りのジャガイモを皆と一緒にあっという間に手分けして角切りにしてくれた。
「ありがとうな。じゃあ、切ったじゃがいもはここに入れてくれるか」
たっぷりの水の中に、切ってもらったジャガイモと塩を少し入れて茹でる。
「その間に、ちりめんじゃこをバターで炒めますよ」
そう呟いて、これも深めのフライパンにたっぷりのバターを入れて溶かし、暖まったらちりめんじゃこを入れる。
隣で煮込んでいるナスの鍋も、焦がさないように時々様子を見ながら同時進行で作業をする。
「ちりめんじゃこからパチパチ音がして来たら、焦がさないように中火にしてカリカリになるまで炒める。お、そろそろジャガイモが茹だったな」
フライパンのコンロの火を一旦止め、ジャガイモをザルに上げて湯切りしたら、さっきのちりめんじゃこを炒めていたフライパンにジャガイモを放り込む。
「ここからは強火で一気に炒めるぞ!」
そう言いながらコンロの火を強くして、フライパンをゆすりながらジャガイモの水気が完全になくなるまで、ちりめんじゃこと絡めながら炒めていく。
ちょっと全体に焦げが出るくらいになったら、最後に鍋肌に醤油をまわしかけて軽く炒めたら出来上がりだ。
このままだと普通にご飯のおかずになるんだけど、好みで食べる時に黒胡椒を軽く振ると、ビール泥棒になる一品だ。
出来上がったちりめんじゃがいもと、ナスの煮浸しをそれぞれ大皿に山盛りにしてサクラに預けておく。
「じゃあ、次はメインの肉にかかるか」
まずは豚ロースをやや厚めに切ってもらい、軽く叩いて筋を切ったら肉用スパイスと黒胡椒を振っておく。
「アクア、玉子を十個割ってくれるか」
大きめのボウルを取り出して渡すと、手早く言った数だけ割ってくれる。ちゃんと一個ずつ小皿に割ってからボウルに入れるって、最初に教えたら皆きちんとやってくれるんだよ。本当にうちのスライム達は良い子だよ。
玉子を割ってもらったら、粉チーズをたっぷり振り入れて箸で手早くかき混ぜる。
「ええと、ここからは手伝ってくれるか」
俺の呼びかけに、机の上にソフトボール大になったスライム達がワラワラと集まってくる。
「今から、これに小麦粉をまぶして溶き卵をつけて焼いていくから、手分けして準備して渡してくれるか」
コンロに、綺麗にした大きめのフライパンを三個並べて同時に焼いていく。何しろ大食漢揃いなので、用意する量も半端ないんだよな。
まずは定番のポークピカタだ。
スライム達が流れ作業で用意してくれるので、俺はせっせと焼くだけで良いから楽だよ。
焼けた分からお皿に並べて、横で待っているサクラにどんどん飲み込んでもらう。
用意した分が無くなったところで、今度は薄切り豚ロースの間にとろけるチーズを挟んで、同じように割ってもらった粉チーズ入り溶き卵をつけて焼いていく。チーズ用は見た目が変わるように刻んだパセリを玉子に入れておいた。
それから、普通の鶏肉とハイランドチキンの胸肉で、定番の粉チーズ入りピカタと、粉チーズ入り溶き卵にカレー粉を入れたカレーチキンピカタも作ってみた。
「おお、どれも美味しそうじゃん」
最後のフライパンに千切れて残っていたカレーチキンピカタのかけらを、目を輝かせて見ていたシャムエル様に渡してやる。
「熱いから気を付けてな。カレー味のチキンピカタだよ」
「ふわあ。美味しそう! いっただっきま〜す!」
興奮のあまり、膨らんだ尻尾をブンブンと振り回しながら夢中になってカレーチキンピカタを食べるシャムエル様の尻尾を突っつき、片付けを終えたところで話し声が聞こえた俺は振り返った。
「おかえり、ちょうど準備が出来たところ……だよ……って、うわあ。これまた凄いのをテイムしたんだな!」