今後の予定と夕食の準備
「なるほどなあ。ご縁なんてどこで繋がるか分からないもんだ」
嬉しそうにマーサさんと話をしているバッカスさんを見て、そう呟いた俺は横目でランドルさんを見た。
ランドルさんも嬉しそうに話をする二人を見ている。
「じゃあ、ランドルさんは、バッカスさんが引退したらソロになるんですね」
なんとなく手持ち無沙汰で。そう話しかける。
「そうですね。ちょっと寂しい気もしますが、店を持つのは彼の長年の夢だったんです。なので俺も応援していたんです。それにハンプールは、初めて商売をする奴には良い街だって聞きますからね」
「ああ、それは確かにそうですよ。クーヘンが初めて店を開けた時も、商人ギルドでずいぶんと世話になりましたからね」
「そうなんですね。しかもハンプールで実際に商売をされている方とお知り合いになれるとは、ケンさん。本当に感謝しますよ。あなた達と出会えて本当に良かったです」
「俺もテイマーと知り合えて嬉しいですよ。仲間は多い方が嬉しいですからね。これからもよろしく。ああ、ですけど早駆け祭りでは手加減しませんからね」
「当然です。こちらこそ、手加減しませんからね」
にんまりと笑うランドルさんが拳を突き出して来たので、俺も笑って拳をぶつけ合った。
「なあ、猫科と犬科どっちが良い?」
「へ、なんの話だ?」
いきなりハスフェルに話しかけられて、驚いた俺はそう言って振り返ると、ハスフェルだけでなく、ギイとオンハルトの爺さんまで揃ってこっちを見ている。
「いや、ケンじゃなくてランドルさんに質問。どっちが良いですか?」
「猫か犬?」
不思議そうなランドルさんの言葉にハスフェルが笑って首を振る。
「猫科か犬科ですよ。カルーシュ山脈の奥は、普通は入れない危険地帯なんですが、このメンバーなら問題ありません。貴方の乗っている従魔なら大丈夫ですよ。マーサさんとクーヘンが街へ戻ってから行きましょう。申し訳ないが、さすがに彼女が乗っているポニーには無理な場所なんでね」
カルーシュ山脈の奥と聞いて一瞬何か言いかけたマーサさんだったが、ハスフェルの言葉に苦笑いして首を振った。
「ああ、それは確かに私には無理な場所ですね。お気になさらず。自分の腕は自分が一番よく知っていますよ。では申し訳ありませんがそれは明日以降にお願いします。それなら今日はどうしますか?」
空を見上げながらのマーサさんの質問に俺も空を見上げる。まだ日が高いので、大物じゃなければあと一働きくらいは出来そうだ。
「それなら普段使いに出来そうなジェムが良いだろうな。ならばあれか」
「ああ、良いんじゃないか。だけどあれだと無理があるんじゃ無いか?」
「ああ、ケンは無理かもな」
ハスフェルとギイが、また主語の無い会話をしてるし。しかも俺には無理って?
「なあ、俺には無理って何なんだよ」
俺の苦手なアレだったら困るのでそう聞くと、振り返ったハスフェルは予想通りにんまりと笑った。
「まあ、普通は大丈夫なんだけどなあ。ケンにはちょっと無理かもな?」
「……もしかして、足がいっぱいあってモニョモニョ動く系?」
笑顔で頷かれた瞬間、俺は顔の前でバツ印を作って叫んだ。
「了解! じゃあ俺は先に今夜泊まる場所へ行って夕食を作る事にするよ! 皆、何が食べたい?」
驚くマーサさんとランドルさんとバッカスさんに、笑ったギイとハスフェルが説明している。でもって三人揃ってそれを聞いて吹き出してるし。だって無理なものは無理なんだって。
どうやらマーサさんは芋虫系は平気だったよう。さすが元冒険者だね。
丁度マックス達が戻って来てくれたので一旦全員揃って移動して、以前もベースキャンプを張った綺麗な水場がある草地に到着した。
そこで居残り組だった猫族軍団とファルコとプティラが狩りに出発した。
草食チームはどこででも食料は調達出来るから大丈夫だし、インコ達もそこらの森で餌集めは出来るんだって。なのでベースキャンプ周辺の森で交代で留守番しながら狩りに行ってくれるらしい。ありがとうな、俺の護衛役。
「それじゃあ夕食を楽しみにしてるぞ」
「ああ、行ってらっしゃい。それじゃあ頑張って作っておくよ」
笑って走り去る彼らに手を振ると、まずはテントを取り出してスライム達に張ってもらう。今は俺一人だから人目を気にせずスライム達に働いてもらえる。
鞄から出て来て巨大化したハリネズミのエリーに手を振ってから、まずは水場で手を洗ってくる。
「それで、何を作るの?」
取り出して並べた机の上で、シャムエル様が目を輝かせている。
「人数も多いしあまり時間もないから、手早く作れる料理がいいよな。さて、何を作ろうかな」
そう呟きながら取り出したのは、マギラス師匠からもらったレシピ帳だ。
「おお、主菜、副菜、製菓、その他。それに素材別の索引まで作ってくれてある。すげえ」
パラパラとめくってみたが、マジでどこの料理の専門書だよってくらいに丁寧に書かれたレシピの数々に本気で感動したよ。
しかも、俺でも作れそうな簡単レシピ満載。ありがとうマギラス師匠、頑張って作ります!
「じゃあパカっと開いて出た料理にしてみるか。時間のかかる煮込み料理とかなら再チャレンジって事で!」
そう言って、目を閉じて一旦閉じたレシピ本を開く。
「何々、ポークピカタ。おお、これなら俺でも作れそうだ。しかも他の肉や魚でも出来るし、アレンジではチーズ味やカレー味なんかも出来るって。うわあ、めっちゃ良いじゃん。よし、じゃあこれに決定だ。早速作ってみよう」
今回、セレブ買いでお願いして持って来てもらって買った大きい机もあるので作業机が広い。まずは材料を取り出そうとして手を止める。
「そうか、味噌汁を作ろうと思ったらお出汁から取らなきゃならないのか。それならホテルハンプールのコンソメスープがあるから、今夜はあれを使えば良いな。じゃあまずはメイン以外を作っておいて、最後にメインを焼いても良いくらいだな。じゃあ副菜は何にするかな」
はっきり行って無い材料は無いくらいに充実しているので、逆に何を作ろうか考えてしまう。
「確かナスの美味しそうなのがあったな、ナスで何か一品作ろう。それから、俺が食べたいからジャガイモちりめんを作る。後は生野菜のサラダと温野菜くらい作っておけば良いな。よし、じゃあまずは生野菜のサラダからだな」
メニューが決まったので、サクラに取り出してもらったサラダ用のレタスとキャベツを洗うために、俺はまずは水場へ向かった。




