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ピンクジャンパー再び

「さて、腹もいっぱいになった事だしそろそろ出掛けるか」

 マイカップのお茶を飲み干してそう言うと、同じく飲み終えたハスフェル達も揃って立ち上がった。

「さて、何処へ行くかな。マーサさんもいるのなら、あまり凶暴なジェムモンスターはまずいしな」

「そうだな、どうするかな」

 ハスフェルとギイが顔を突き合わせて相談している。

「ピンクジャンパーは、マーサさんが連れているからなあ」

 振り返ったハスフェルの言葉に、マーサさんが満面の笑みで持っていた鞄の口を開いた。馬に乗っている時は彼女が背負っていた、肩紐が二本ある普通のリュックだ。

「この子の事なら、気にしないでください。何度かクーヘンと一緒に、ジェム集めの為にピンクジャンパーを狩りに行った事がありますよ」

 そう言ってリュックの蓋を開くと、見覚えのある緑色の小さなウサギがぴょこんと顔を出した。

「あ、あの時の子。確かヴェルディだったな。へえ、可愛がってもらってるんだな」

 手を伸ばして撫でてやると、緑のウサギは嬉しそうに目を細めて耳をパタパタさせた。

「おお、やっぱり良いな。この手触り」

 嬉しくなって笑いながらそう言うと、ヴェルディはリュックから出て来て机の上に飛び乗って、もっと撫でろとばかりに自己主張を始めた。

 今の大きさは、30センチくらいでリアルウサギサイズだ。

「あはは、わかったわかった。じゃあこれで良いか?」

 そっと抱き上げてやると、いつもやってるみたいに両手でそっとおにぎりにしてやった。

「きゃ〜助けて〜! 潰される〜!」

 嬉しそうにそう言いながら短い手、じゃなくて前足で顔を隠す振りをしている。

 何だよこいつ、めっちゃ可愛いぞ

 その時、奇妙な呻き声が聞こえて俺は驚いて振り返った。ハスフェル達も何事かと振り返る。

 右手で口元を覆ったランドルさんが、目をキラッキラに輝かせておにぎりの刑に処しているヴェルディを見つめていたのだ。



 あ、もしかしてこの可愛さ……ランドルさんのツボにハマった?



「あの、その子をテイムした場所がここから近いんですか?」

 ものすごい勢いで身を乗り出してそう尋ねてくる。

 そう言えばランドルさん、俺のラパンとコニーを見てウサギも欲しいって言ってたな。

「おう行くか? ここからなら今日中に行けるぞ」

 笑ったハスフェルが俺の手元を見ながらそう答える。

「お願いします! ウサギの従魔が欲しかったんです」

 嬉々としてそう言うランドルさんの言葉で、とりあえず今日の目的地が決まったみたいだ。



 手早く机と椅子を片付けて、俺達はそれぞれの従魔に飛び乗った。

「じゃあまずはピンクジャンパーのところへ行って、ひと運動するか」

 ハスフェルの言葉に、俺とクーヘンは苦笑いしていた。

 ジャンパーはやたら跳ねて突っ込んでくるから、どうしても青痣が出来るんだよな。万能薬が貴重な今、正直言って怪我はしたくないぞ。

 しかし、嬉しそうにしているランドルさんを見て俺は小さくため息を吐いた。

「まあ貴重なテイマー仲間だもんな。ここは後輩の為に一肌脱ぎますか」

 小さくそう呟き、うんうんと頷いているシャムエル様の尻尾を突っついて、走り出したハスフェルの乗るシリウスの後ろについた。



 カルーシュ山脈を目指して走り、到着したのは見覚えのある場所だった。段差のある土手の斜面には、あちこちにボコボコと穴が開いている。

「そうそう。こんな場所なんだよな。ウサギがいるのって」

 そう呟いてマックスの背中から飛び降りる。

 そこでまずマックスとシリウス、それからブラックラプトルのデネブが狩りに出発した。いくら獲物の弁当を持参してると言っても、出来る時には外で狩りはさせてやらないとな。

 嬉々として走り去るマックス達を見送り、巨大化した猫族軍団を振り返る。こっちはジェムモンスター狩りに参加する気満々みたいだ。

 頭上ではお空部隊も巨大化して旋回しているので、あいつらもピンクジャンパー狩りに参加するみたいだ。

 草食チームは、あちこちにばらけて好きに草を食べている。うん、どう見ても戦力過剰だから無理に参戦しなくて良いぞ。



 土手の真ん中あたりにある、一番大きな穴の前にランドルさんとバッカスさんが陣取り、俺とクーヘンとマーサさんが手前側、ハスフェル達三人が奥側、猫族軍団はそれぞれ巨大化して全体にばらけて展開している。

 ベリーとフランマは何処かへ行ってしまったみたいで、少なくとも見える所には存在を確認出来なかった。

「それじゃあ行きますね」

 普通の蛇サイズになったセルパンが、全員配置についたのを見て巣穴の中にスルスルと入って行った。



 ……沈黙。



 いきなり、穴の中で暴れる音がして俺達は武器を構えて身構える。次の瞬間、ほぼ全ての巣穴から緑色の塊が噴き出してきた。

「うわあ、これはデカい!」

 嬉々としたランドルさんの声が聞こえる。

「とりあえず、一通り戦って殲滅しましょう、そうすれば巣穴から次が出るまでの時間稼ぎの繋ぎの子が出て来ますから、それを捕まえれば良いですよ」

 笑ってそう言ってやると、嬉しそうな返事が聞こえた直後にウサギ達が飛びかかって来て戦闘が開始された。




 ランドルさんの手にあるのは、かなりの業物と思われるやや黒光した長めの剣で、バッカスさんが持っているのは、これも黒光を放つ幅広で湾曲したように反っている形の剣だ。

「あれって確か、シミターって言うんだっけ。切れ味抜群のやつだよな。うわあ、さすがは上位冒険者。装備がハンパねえよ。後学のために後で見せてもらおう」

 小さく呟くと、俺を蹴ろうとする巨大な緑色のウサギを叩き斬った。


 ハスフェル達三人は余裕綽綽で楽々と戦ってる。まあ、お前らの腕ならそうなるんだろうな。

 ランドルさん達は見事な連携を見せて次々と緑のウサギを叩き斬っているし、クーヘンとマーサさんは、火や水の魔法で戦っている。

 お空部隊は、急速降下で一気にウサギを捕まえては上空へ舞い上がりそのまま放り投げるという、ある意味すげえ怖い攻撃でジェムを量産している。

 猫族軍団は言うに及ばず、そりゃあもう嬉々としてウサギを叩きまくっていた。

 途中から俺とクーヘンとマーサさんは、従魔達のあまりの張り切りぶりにドン引きしてしまい、身の危険を感じてちょっと下がって離れて戦ってたよ。うっかり前に出たら俺達まで一緒に叩かれそうだったもんな。

 その結果、以前よりもかなり早く一面クリアーした。まあ俺達の方も、人数も従魔達も増えてるからな。



「一面クリアーしたみたいだな」

 ハスフェルの言葉に俺も剣をしまって巣穴を覗き込んだ。

 ごく小さな緑色のウサギが出てくるのが見えて、急いでランドルさんを呼んでやる。

「ほら、あれならそのまま掴んで言えばいいから。俺の仲間になれって」

 目を輝かせたランドルさんが、手を伸ばして一番前にいたウサギを掴む。

「俺の仲間になるか?」

 顔を寄せて嬉しそうにそう言う。ランドルさん、その笑み……怖いって。

 怯えたように縮こまったそのウサギは、何とか顔を上げてランドルさんを見て鼻をひくひくさせている。

「はい、貴方に従います!」

 返事をした瞬間、光って一気に大きくなる。


 可愛い声だったから、どうやら雌みたいだ。


「お前の名前は、クレープだよ。よろしくな、クレープ」

「はい、よろしくお願いします! ご主人!」

 もう一度光ったウサギのクレープは、そう叫んでさっきよりも少し大きいくらいの大きさになった。

 それを見て、俺達は揃って拍手をした。

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