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ご馳走様!

「そろそろ焼けるぞって、うわあ!」

 最後の一枚をひっくり返して焼き加減を確認していた俺は、コンロの火を止めてそう言いながら振り返って飛び上がった。

 いつの間にか俺の背後には、皿を持ったランドルさんとバッカスさんだけでなく、何故か両手に皿を持ったハスフェルと、自分の皿を持ったギイとオンハルトの爺さん。それからクーヘンとマーサさんまでも並んでいたのだ。



 お前ら、さっき見た時は全員準備が終わって椅子に座ってたじゃねえか。



「ああ、びっくりした。まさかそこにいるとは思わなかったよ」

 誤魔化すように笑った俺はランドルさんからお皿を受け取り、焼き上がった肉を乗せてやった。

「ありがとうございます!」

 満面の笑みでお礼を言ってさっき座っていた椅子に戻る。バッカスさんも、同じように満面の笑みでお礼を言ってから席に戻った。

「ほら、こっちはケンの分だ。適当に取ったけどこれでいいか?」

 先に渡されたお皿には、いつも俺が取ってるのよりもやや多めの量のサイドメニューが並んでいた。

 刻んだ生野菜の盛り合わせに角切りにした豆腐を散らした一品は、めっちゃ美味しいホテルハンプールの特製胡麻ドレッシングがたっぷりかかっていて、俺が初めて食べた時に大感激したサラダだ。

 その横にあるのは、刻んだ卵とアボカドもどきをマヨネーズで和えた一品で、これも俺が美味しいと大喜びした覚えがある。

 その横に添えられているのは、温野菜の盛り合わせと俺もよく作るフライドポテトだけど、ポテトにはやや辛めのホテルハンプール特製スパイスが振ってあって、お酒のつまみにも最適なやつだ。

 要するに、全部俺が好きなメニューばっかり。

 しかも俺の席には、おにぎり各種の並んだお皿とスープのお椀が既に並べられている。

 何これ、何のご褒美?

「あ、ああ。充分だよ。ありがとうな」

 受け取ってひとまず横に置いておき、先に全員の肉を皿に乗せてやる。マーサさんの分だけやや控えめのミニサイズだ。

 最後に自分の皿に肉を乗せると、残った油は一つのフライパンに集めておく。今日は使わないけど、後日炒飯でも作る時にこれで作れば激うまチャーハンになるもんな。油が酸化する心配も無い、時間停止の能力様々だな。

 それから、いつの間にかハスフェル達が用意してくれた簡易祭壇に俺の分の料理を一通り並べて手を合わせる。

 収めの手が俺の頭を撫でてから、料理を一通り撫でて消えていくのを俺は黙って見送った。



「お待たせ。さあ食べよう」

 全員が食べずに待っていてくれたので、大急ぎで料理を移動させて席へ戻り座る。

 全員揃って手を合わせてから食べ始めた。

 ステーキソースは、前回作ったヨーグルトソースがまだあったので、それと定番の和風玉ねぎソースだ。

 お皿を持ったシャムエル様はランドルさん達に遠慮してるのか、大人しく下半身で不思議なステップを踏んでいるだけだ。

「ダンスはまた今度な」

 小さな声でそう言ってから、お皿に大きく切ったステーキを一切れ乗せてやり、サイドメニューも一通り取り分けてやる。おにぎりも一欠片ずつお箸でちぎって並べてやった。

「スープは?」

「ここにお願いします!」

 蕎麦ちょこが出て来て、笑った俺はスプーンで玉ねぎスープをすくって入れてやる。

 おお、シャムエル様の分を取ったら、いつも食べるくらいの量になったぞ。ハスフェル、グッジョブだ。

 チラッとハスフェル達を見ると、揃ってドヤ顔をされたので俺もドヤ顔を返しておいた。何やってるんだよってな。



陰膳(かげぜん)ですか。良い習慣ですね」

 隣に座っていたクーヘンにそう言われて、驚いて振り返る。

「我々クライン族の間でも、旅に出ている家族の為に陰膳をする事がありますが、ケンはどなたの為に陰膳を?」

 マーサさんも手を止めて笑顔で俺を見ている。

「ああ、シルヴァ達の為だよ。ほらシルヴァとグレイ、それからレオとエリゴールの四人分だよ。それぞれ大事な務めがあって帰っちゃったけど、いつも俺の料理を喜んで食べてくれたからさ。もう食べてもらえないのが寂しくて、せめて俺の分だけでも捧げてみようかなって思って始めたんだ。こんなのただの自己満足だよ」

 照れ臭くなって何でもない事のようにそう言ったんだが、誰一人笑わなかった。

「きっと彼女達にも届いていますよ。ケンが作ってくれる料理は、本当にどれも美味しいですから」

 クーヘンに改まってそんな事を言われてしまい、俺はもういたたまれなくて咳払いをして。誤魔化すように大きな口を開けておにぎりにかぶりついた。




「はあ、美味しかった。昼から肉はどうかと思ったけど全然大丈夫だったな」

 お茶を飲みながらそう呟いた俺の言葉に、その場にいた全員が笑って何度も頷いている。

 昼からガッツリ肉を食って大満足の俺達は、今は食後のお茶タイムだ。

 一応この後、ジェムモンスター狩りに行く予定なので、さすがのハスフェル達もお酒は飲んでいない。



「本当に美味しかったです。ご馳走様でした!」

「美味しかったです! ご馳走様でした。またよろしくお願いします!」

 ランドルさんとバッカスさんは、もうこれ以上無いくらいに綺麗に平らげてくれて、二人揃ってお礼を言ってくれた。

 その後は、俺がお茶の用意をしながらアクアに食べ終えたお皿を綺麗にしてもらっているのを見て、ひたすらに感心していた。




「スライムにはそんな事も出来るんですね。教えれば、キャンディも覚えてくれるでしょうかね?」

 肩にいる透明スライムのキャンディを見ながら、ランドルさんがそんな事を呟いている。

「出来る?」

 小さな声で、机の上で尻尾のお手入れをしているシャムエル様に聞いてみる。

「浄化の能力はないから完全に綺麗に出来るわけじゃないけど、お皿を綺麗にする程度は出来るようになるよ。要するに、お皿に付いている汚れだけを食べて貰えば良いわけ。分かる?」

「もしかして、教えなかったら……お皿ごと食っちゃう?」

「まあ、お皿にはマナは殆ど含まれていないから美味しくはないと思うけど、中に取り込んだら普通は食べちゃうねえ。だけどテイムしたスライムは主人の言葉が分かるんだから、お皿は返してくれって言えば汚れだけ取って返してくれるよ」

 納得した俺は、ランドルさんを振り返った。

「教えれば出来ると思いますよ。要するに、お皿は返すように言えばいいんです。そうすれば汚れだけ取って返してくれますよ。なあクーヘン」

「ええ、それに濡れた服なんかの水分も取ってくれますよ。中まで染み込んだ汚れまでは取れませんが、服の表面についた泥汚れ程度ならまあそれなりに綺麗になります。旅をするとスライムの有り難みを実感しますよ」

 クーヘンも、胸元に潜り込んでいたスライムのドロップをそっと撫でて嬉しそうにそう言って笑っている。ドロップも何だか嬉しそうだ。

「成る程、それじゃあ頑張って俺も色々と教えてみる事にします」

 嬉しそうなランドルさんの言葉に、俺も笑顔になり側に寄って来たアクアをそっと撫でてやった。

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