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期間限定だけど仲間だもんな

「はあ、空気が美味い」

 マックスの背の上で、俺は郊外の爽やかな空気を思いっきり吸い込んで空を見ながらそう呟いた

 街を出て街道を進んだ俺達は、しばらくしてから街道から外れて林の中を並足で走っていて、マーサさんが追いついてきて合流したところだ。



 今回も、マーサさんはポニーもどきのノワールに乗り冒険者仕様になっている。クーヘンはスライムを連れてイグアノドンのチョコに乗り、巨大化したレッドクロージャガーのシュタルクと、レッドグラスサーバルキャットのグランツの猫属コンビを連れている。草食チームとミニラプトルのピノは店の防犯担当で留守番しているんだって。

 しかも、前回の早駆け祭りが終わって俺達が出て行った後、郊外へ狩りに出ている時に頑張ってもう一匹自力で新たに従魔にしたらしい。

 テイムしたのは何とグリーングラスランドウルフ。つまり森林狼。薄い緑がかった灰色の大きな狼で、一番巨大化するとマックスに近いくらいの大きさになるらしく、戦力としても相当なものらしい。普段は大型犬サイズになって、店の番犬として頑張ってくれてるんだって。

 これでクーヘンの肉食の従魔が四匹になったので、その狼はミニラプトルのピノとコンビを組んで、猫属二匹と交代で郊外に定期的に狩りに連れて行っているらしい。



「じゃあ今回は、こいつらが郊外へ行く順番だった訳か」

「ええ、前回は紹介しそこないましたからね。戻ったら新しい従魔も紹介させてください。名前はファング。甘えん坊の優しい雄です」

 並んで走りながら、のんびりとそんな話をしていた時だった。

「あの大木まで競争するぞ!」

 いきなりハスフェルがそう叫んで立ち止まる。

「マーサさんは後からゆっくり来てくださいね」

 そう言い、ギイと並んで構える。

「クーヘン、行くぞ!」

「ええ、もちろんです!」

 俺の掛け声に、クーヘンも嬉しそうに目を輝かせて横に並ぶ。

「オンハルトさん!」

「おう、絶対勝つぞ!」

 目を輝かせたランドルさんがそう言って、オンハルトの爺さんの隣に並んだ。

 まあ今回はマーサさんや、ランドルさんやバッカスさんもいるので、いきなりのレースの開始じゃ無かったわけか。

 その声に、慌てたようにドワーフのバッカスさんがダチョウの背から飛び降りる。

「じゃあ、あんたは私のところに一緒に乗りなよ。この子は強いからね。ドワーフ一人くらいなら乗せても大丈夫だよ」

 自慢げなマーサさんの言葉に、バッカスさんは申し訳無さそうにお礼を言って、マーサさんの後ろに乗せてもらった。

「じゃあ私がスタートを言いましょう」

 マーサさんがそう言って右手を高々と上げる。それを見た俺達は従魔共々一斉に身構えた。



「スタート!」



 物凄い大声と共に手が振り下ろされ、その瞬間に俺達は遥か先にある目標の大木に向かって全力疾走した。

 鳥達が一斉に羽ばたいて上空に逃げる。

 マックスは大興奮状態でものすごい勢いで走っている。俺は落ちないように体を低くして、必死で手綱にしがみついていたよ。



 大木の横を駆け抜けたのはほぼ同時だった。

「これはすごい! なんて速さだ。今からもう早駆け祭りが楽しみで仕方がないですよ」

 目を輝かせるランドルさんを見て、俺はマックスの頭にちょこんと座っているシャムエル様の尻尾を突っついた。

「なあ、あれって誰が一位だった?」

「おめでとう。ケンが一位でオンハルトが二位、あとの四人は完全に同着だったね。いやあランドルの乗るビスケットの早い事早い事」

 シャムエル様の言葉に、俺は拳を握りしめた。ハスフェル達はこっそり悔しがってる。

「よし! マックス、よくやったぞ」

 笑って首を叩いてやると、まだ大興奮状態のマックスは嬉しそうにワンと鳴いた。

「あはは、久々に聞いたぞ。お前の普通の犬っぽい鳴き声」

 笑ってもう一度首を撫でてやってから、ハスフェル達を振り返った。マーサさん達と猫族軍団が、俺達の後を追って遅れて走って来るのが見えて何だかおかしくなった。

「それでどうするんだ? どこかで狩りをするのなら、昼飯は先に食っておくべきじゃないか?」

 このまま空腹で戦うのはまじで勘弁して欲しいからな。

「ああ、それならこの先に水源があるから、先にそこで飯にしよう」

 ギイの言葉に頷き、全員揃って移動した。




 案内された場所は林を抜けた先にあった草原で、岩場になった段差部分からはこんこんと綺麗な湧き水が溢れ出して、その先にある小川へと流れ落ちていた。

「テントを張るにはちょっと狭いな。じゃあ机だけで良いな」

 少し前と違い、吹き抜ける風は確かに秋の気配をのせている。

「何食いたい?」

「肉〜!」

 ランドルさん達以外が、全員揃ってそう叫んだ。

「分かった、焼いてやるから待て」

 苦笑いしたランドルさんとバッカスさんが、少し離れて鞄を下ろすのを見て俺はちょっと申し訳なくなった。

『なあ、ランドルさん達も一緒でも構わないよな?』

 一応念話でハスフェルに確認する。

『ああ、お前が良いなら構わないと思うぞ』

「じゃあ決まりだな。ランドルさん、バッカスさん。せっかく臨時の期間限定とは言え一緒のパーティにいるんですから、飯くらいご一緒しましょうよ。作りますよ」

 机を出しながらそう言ってやると、揃って戸惑うように俺を振り返った。

「いえ、ご迷惑は掛けられませんよ」

 慌てたようにそう言って顔の前で揃って手を振っているんだけど、二人の目は机の上に取り出した大きな肉の塊に釘付けだ。

「良いから気にしないでください。俺が嫌なんですよ。せっかく縁あって一緒のパーティになってるのに、二人だけ違うものを食ってるなんてね」

 そう言って、取り出した肉の塊をガッツリ分厚く人数分切っていった。



 ちなみに、マーサさんは控えめに、俺の分はシャムエル様に取られるのを前提で皆と同じように分厚く切ったぞ。



 サイドメニューはホテルハンプールのデリバリーで賄う事にして、サラダとか温野菜とかは適当に取り出しておく。それからいつも使っている簡易オーブンを取り出し、パンとおにぎりも出しておく。おにぎりは俺が食いたいんだよ。

 手早く肉を叩いて筋を切ってから、しっかり塩胡椒と肉料理用の配合スパイスも振りかけておく。

 玉ねぎスープが鍋いっぱい届いていたので、それを人数分小鍋に取り分けて温める。

「お皿はこれな。スープはこれ、肉は今から焼くから、その間に自分の分は自分で準備しておく事」

 そう言ってお皿を重ねて置くと、ハスフェル達は嬉々として自分の皿の準備を始めた。

「あの、本当によろしいんですか」

 ランドルさんとバッカスさんが、俺のところへ来る。

「どうぞ遠慮なく。あ、好き嫌いとか何か食えないものとかってあったりします?」

「いえ、何でも食いますよ」

 揃って答える二人に、俺は机の上を指差した。

「じゃあ大丈夫ですね。自分の分は、自分で準備してください」

 二人は顔を見合わせた後、揃って大きく頭を下げた。

「ありがとうございます! それでは遠慮なく世話になります!」

 そう言って、笑顔になった二人も、お皿を取って嬉しそうに自分の分の準備を始めた。



「じゃあ焼いていきましょうかね」

 そんな彼らの後ろ姿を見て笑った俺は、取り出して並べたコンロに順番に火をつけてから、それぞれのフライパンに肉を並べていく。

「ううん、この人数分の肉を一気に焼くのは久しぶりだぞ。焼き過ぎないようにしないとな」

 思わずそう呟いて、ゆっくりと焦げ目のついた肉をひっくり返していった。

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