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大切な仲間達

「待たせたな」

 空になったお皿をスタッフさんに返したまさにその時、ハスフェルとギイがマギラス師匠と一緒に戻って来た。

「お、おう! 早かったな」

「おかえり、もう全部渡したのか?」

 二人揃って妙な早口で同時に喋る。

 そんな俺達を見て、不思議そうに顔を見合わせた二人だったが、にんまりと笑ったハスフェルが近寄ってきて、丸太みたいな腕でがっしりと俺を捕まえた。

「で、俺達がいない間に、何を食ったんだ?」

「ナ、ナンノコトダカワカリマセ〜ン」

 何でもないようにそう答えたつもりだったが、まるっきり棒読み。これじゃあ何か食ったって白状してるようなものだ。

 それを聞いてもう一度にんまりと笑ったハスフェルが、ゆっくりと俺の口元を突っついた。

「惜しいな。残念だけど、こ、こ、チョコがくっついてるぞ」

 それを聞いた瞬間、俺とハスフェルは堪えきれずに同時に吹き出した。

「ごめんなさい。乾燥させた激ウマリンゴのチョコがけの試食をもらったけど、オンハルトの爺さんと二人で完食しちゃいました!」

 呆気なく白状した俺に、聞こえた事務所にいたスタッフさん達まで笑ってるし。

「美味かったろう? ハスフェルにたっぷり渡しておいたから、ケンも食べておくれ」

 笑った師匠の言葉に、俺とオンハルトの爺さんは揃って二人を振り返った。

「何だよ、ハスフェル達も食わせてもらってたんじゃん」

「食べたのなら、これは俺達がもらって良いよな?」

 そう言いながらハスフェルが手にしているのは、あの激うまぶどうを加工した、超大粒干しぶどうだ。

「ああ、何だよそれ! そんなの俺達食ってないぞ!」

「全くだ! お前らだけずるいぞ!」

 俺とオンハルトの爺さんの叫びが重なる。

「だってなあ。俺達はちゃんとお前らの分をわざわざ残して持ってきてやったのに。なあ」

「そうだよな。俺達に内緒で、お前らだけ食おうとしていたなんて。もう俺、傷ついちゃったよ」

 わざとらしく泣く振りをしているギイだったが、その顔は完全に笑ってる。

「ギイ、顔と言葉が連動してないんですけど?」

 腕を組んで呆れたようにそう言ってやると、また全員揃って吹き出し大爆笑になった。



「何だよ、お前らの方が食ってる量メチャメチャ多いじゃんか。ずるい! 俺達だってもっと食いたいぞ〜!」

「そうだそうだ。俺達も食いたいぞ〜!」

 俺とオンハルトの爺さんの叫びに、さっきからマギラス師匠は座り込んで大笑いしている。

 どうやら、ハスフェルとギイの二人は、激うま果物を渡しに倉庫へ行った際、俺達も食べたあの激うまドライリンゴのチョコがけの試食をさせてもらったらしいのだが、詳しく聞くと、さっき俺達が食った量の倍くらいは余裕で食ってたらしい。しかも、超大粒干しぶどうまで何粒も!



 って事で今、事務所の奥のソファーに並んで座った俺達の目の前には、ドライリンゴのチョコがけと超大粒干しぶどうが山盛りに並んだお皿が置かれています。

「あと、これも瓶ごと渡してあるからよかったら食べてくれ。レシピにある焼き菓子に使っても美味いからな」

 そう言って師匠が出してきてくれたのは、何とりんごの砂糖漬け。

 表面が艶々のピカピカ。何これ、めっちゃ美味そう。

「ありがとうございます! では遠慮無くいただきます!」

 満面の笑みでお礼を言って、早速リンゴの砂糖漬けをいただく。

「何これ……美味すぎる……」

 衝撃の美味しさに、一口食べてソファーに倒れたよ。しかも起き上がって砂糖漬けの二つ目を食べたのは覚えているんだが、次に見ると何故かお皿が空になっていた。

 おかしい、誰が食ったんだ?




「それじゃあ、忙しいところをお邪魔して申し訳ありませんでした。沢山のレシピをありがとうございます。早速作ってみます」

「ああ、解りにくい所があれば質問はいつでも受け付けてるからな。それじゃあ、早駆け祭りを楽しんで来ておくれ。二連覇期待してるよ」

 すっかり綺麗にしてもらった従魔達と合流して、総出で見送ってくれた師匠とスタッフさん達に笑顔で手を振り、俺達はギルドへ向かった。

 追加の肉の解体をお願いするためだ。

 何でもハスフェル達によると、師匠から、大量の作り置きの料理を始め、いろんな肉の燻製や干し肉、それ以外にも味噌漬けや醤油漬けなどの下ごしらえをしてある肉を大量に貰ったらしい。

 要するに、師匠もタダでもらうのは気が引けるから、俺が作れないような料理や手間のかかる下ごしらえ済みの材料やなんかで物々交換に出たって事みたいだ。

 まあ、師匠の料理は間違いなく美味しい事はわかってるので、有り難くいただく事にした。

 なので相談の結果、前回と同じ数でギルドに解体をお願いして、また肉を届けてもらう事にしたのだ。



「それにしても、待ち構えてたみたいに大量の料理まで作って渡してくれてるって、もしかして今日行くって連絡していたのか?」

 半月くらいの予定ではあったけど正確にいつ来るとは言ってなかったのに、まるで今日来るのが分かっていたかの様な準備万端っぷり。

 何となくだけどそんな気がしてそう言うと、ハスフェルは笑って、店のある後ろを振り返った。

「ああ、今日行くと連絡してあったよ。今でもマギラスには、俺達から一方通行だが連絡出来る手段があるんだよ。まあ、使ったのは久し振りだけどな」

 ハスフェルの言葉に、何となく納得した。

 マギラスさんは、クーヘンみたいに店を持ったけど冒険者そのものはやめた訳ではないのだろう。だからこそ彼らも、恐らく念話か何かの連絡手段を解除せずにそのままにしているのだろう。

「冒険者仲間って、良いな」

 笑ってそう言った俺に、二人は嬉しそうに何度も頷いていたのだった。




 ギルドに到着して、まずは持ったままだった部屋の鍵を返し、前回と同じ数でグラスランドブラウンブルとブラウンボア、それからグラスランドチキンとハイランドチキンの解体をお願いする。

 当然、また分けて欲しいと頼まれたので、こっちも前回と同じ数で渡した。

「これで全部だね。じゃあこっちはアクアヴィータのマギラスへ届けて、こっちは商人ギルドへ届ける分っと。素材は全て買い取り。じゃあ明細を渡すから確認してくれるか」

 嬉しそうなレオンさんから明細をもらい、確認のサインをして渡す。控えの明細を貰えば、もうこれでここでの用事は全部終わりだ。

「それじゃあ、次はハンプールの早駆け祭りだな」

 俺の呟きに、三人が笑って胸を張る。

「おう、今度こそ負けないからな」

「何を言ってる、勝つのは俺だぞ」

「俺も負けんぞ」

「こっちこそ。二連覇してみせるからな。覚悟しろよ」

 顔を見合わせた俺たちは、ニンマリと笑って拳をぶつけ合った。



 さあ、秋の早駆け祭のハンプールへ行くぞ!

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