特製段々パンケーキ
「よし、これで終わりだな」
最後の分をお皿に乗せてサクラに渡し、コンロの火を落としたところで廊下を歩く音がして顔をあげた。
三人の話す声と一緒にノックの音が聞こえる。
「アクア、開けてやってくれるか」
レインボースライム達が、手分けして調理道具を綺麗にしてくれているのを見ながら、出遅れて仕事が無くて扉近くで拗ねていたアクアに声を掛けてやる。
「はあい、開けま〜す」
嬉しそうな返事が聞こえて、アクアが鍵を開けてくれる。
「おかえり、上手く行ったか?」
振り返ると、三人揃って大きく頷きドヤ顔になってたよ。
「ご苦労さん。おからパンケーキが焼けてるけどこれで良いか?」
綺麗になったフライパンを見せてそう尋ねる。
「お願いします!」
嬉しそうな三人の声が重なる。
「おう、じゃあ出すからちょっと待っててくれよな」
笑ってそう言い、まずはジャム入りのパンケーキのお皿を取り出して渡してやる。
「ジュースはもう無いから、飲み物はここからな」
コーヒーとミルク、それから豆乳を並べた机を指差すと、三人とも揃って豆乳オーレを作っていた。やっぱりおからパンケーキには豆乳オーレだよな。
「これはリンゴとぶどうのジャム入りパンケーキだよ。少し甘め。もう一種類あるから、先にこれを食っといてくれ」
「おお、これは美味そうだ。それじゃあ遠慮無くいただきます」
それぞれに手を合わせて食べ始める。
「で、その間にこれを用意するっと」
四枚の空のお皿に、直径10センチくらいのミニサイズに焼いた普通のおからパンケーキを段々に重ねていく。以前店の賄いで冗談半分で作ってやったら大受けして、なぜか店の隠しメニューになった一品だ。
店では三段だったんだけど、あいつらなら六段くらいは余裕か?
少し考えて、無理やり六段重ねにしてやる。
積み上がったパンケーキの一番上に、サイコロに切ったバターを乗せてその上から蜂蜜をかける。
隙間に蜂蜜が染み込んで垂れて落ちるぐらいにたっぷりかけてから、自分の分の豆乳オーレと一緒にスライム達が用意してくれていたいつもの簡易祭壇に並べる。
「以前リクエストをもらっていた段々おからパンケーキと、新作のリンゴとぶどうのジャム入りおからパンケーキです。こっちは甘いからシロップは無しでどうぞ」
収めの手が俺の頭をしっかりと撫でてから、それぞれのパンケーキを撫でていき、最後にOKマークを作ってから消えて行った。
「どうやら、新作も気に入ってくれたみたいだな」
席に座ろうとすると、すっかり空になったお皿を持ったシャムエル様が目を輝かせて俺を見上げている。
「あはは、もう食ったのかよ。もちろんこっちもあるよ。ちょっと待ってくれ。サクラ、さっきの最後のお皿を出してくれるか」
「はあい、これだね」
ニュルンと伸びた触手が、取り出した大きめのお皿を渡してくれる。
サクラが出してくれたお皿には、スプーンですくって焼いた直径3センチくらいの超ミニサイズのパンケーキが並んでいる。
「さて、何枚乗るかな?」
座って笑いながら、シャムエル様のお皿にその超ミニパンケーキを積み重ねていく。
一枚乗せる度に、シャムエル様が飛び跳ねる。
十枚重ねたところでグラグラし出したので、そこまでにしてバターをひとかけら乗せてから蜂蜜をたっぷりとかけてやった。
「すごいすごいすごい〜!」
これまた初めて見るステップを踏みながら飛び跳ねたシャムエル様は、積み上がったパンケーキに、やっぱり顔から突撃していった。
「ふおお〜! これは良い! これは良い! 段々パンケーキ最高〜!」
何やら奇声を上げながら、倒れて斜めに重なったパンケーキを上から一枚ずつ剥がして両手で持って齧り始めた。
感激のあまり、興奮していつもの倍近い大きさになった尻尾をバシバシと振り回している。
「そこまで喜ばれたら、またやりたくなるよな」
ちょっと笑ってもふもふの尻尾を撫でてやったが、パンケーキに夢中のシャムエル様は全く気付いていない。
笑った俺は、一口サイズに切り分けたパンケーキを右手のフォークで食べながら、左手で延々ともふもふの尻尾を満喫したのだった。
「ふああ、いやあもう最高だったね。段々パンケーキ最高!」
見事に完食したシャムエル様は、最後に残った豆乳オーレを一気飲みした後、小さなゲップと一緒に何度も最高だ最高だと言い続けていた。
「気に入ってくれたのなら、また作ってやるよ」
もう元の大きさに戻った尻尾を突くと、態とらしく尻尾の先で俺の指を叩いてから尻尾を取り返してお手入れを始めた。
さっきは食べ終わる前に触るのを辞めたから、珍しく反撃されなかったよ。
シャムエル様の尻尾を堂々と触りたければ、食い物で釣れば良いんだな。よし分かった。またやろう。
俺の密かな決意に気付かないシャムエル様は、また作ってね! なんて言いながらせっせと尻尾の手入れをしていたのだった。
「それじゃあ、明日は朝市に行ってそのままマギラスの店に顔を出すか」
ハスフェルの言葉に、皿を片付けていた俺も頷いた。
「そうだな、もうレシピが出来ているなら、そのまま貰ってハンプールへ行くか?」
「良いんじゃないか? まあ、どうせまだレースまではしばらくあるから、その間はゆっくりすれば良いさ」
「作り置きの料理はしないと、在庫がほぼ壊滅だからな。あ、それなら朝市の後は、ちょっと買い出しもしたいな。生野菜とかがかなり無くなってるんだよ」
「了解、まあそれくらい付き合うから好きにしてくれて良いぞ」
って事で、明日の予定が決まり、今夜はそのまま解散になった。
「ご馳走さん。美味かったよ」
「ご馳走様、とても美味かったぞ」
「ご馳走様、美味しかったよ」
笑顔の三人は口々にそう言って立ち上がり、手を振ってそれぞれの部屋に戻って行った。
扉の鍵を閉めた俺は小さくため息を吐いて部屋に戻り、サクラに綺麗にしてもらってもう休む事にした。
ベッドには、既にマックスとニニが待機している。
「それじゃあ今夜もよろしくお願いしま〜す!」
靴と靴下を脱いだ俺は、二匹の隙間に潜り込んだ。背中側には巨大化したラパンとコニーが収まり、タッチの差でタロンが俺の腕の間に潜り込んで来た。
フランマはベリーのところへ行き、ソレイユとフォールは俺の顔の横に収まる。お空部隊は椅子の背もたれに仲良くぎゅうぎゅう詰めに並んでいる。
「それじゃあ消しますね。おやすみなさい」
ベリーの声がして、部屋の明かりが全部まとめて一瞬で消える。
「ああ、ありがとうな。それじゃあおやすみ」
小さな欠伸を一つした俺は、そう言って目を閉じる。
柔らかなもふもふに埋もれて、いつものごとくあっという間に眠りの国へ旅立って行った。
いやあ、もふもふの癒し効果って、相変わらず凄え。