西アポンのギルドにて
「街道に到着〜!」
駆け足で草原を走り街道に突き当たった後は、そのまま街道を西アポンに向かってゆっくりと一列になって進んだ。
日が暮れた後も街道にはそれなりに人がいて、俺達はやっぱり大注目の中を進む事になったよ。
城門が見えてきて間も無く街へ到着って時に、一人の冒険者らしき人が俺達に駆け寄ってきた。
「あの、魔獣使いのケンさんですよね。ハンプールの夏の早駆け祭の勝者の!」
「ああ、はいそうですよ」
俺よりも明らかに年上の、目をキラキラさせたおっさんにそんな事を聞かれてちょっとドン引きつつ平然と答える。
「今頃、西アポンに来るって事は、秋の早駆け祭りには参加されないんですか?」
「いえ、もちろん参加しますよ。ちょっと所用で西アポンに来たんです」
「ああ、そうなんですね。失礼しました。夏には貴方に賭けて大いに儲けさせてもらったんです。秋も貴方に賭けますので、どうか二連覇目指して頑張ってください。応援してます!」
「あのっ、俺たちも応援してます! 二連覇目指して頑張ってください!」
後ろにいた、同じく冒険者と思われる数名の男性達が、彼の後に続いて拳を握り締めて揃って応援してくれたよ。
「ああ、ありがとうございます。まあ、一発勝負ですからね。どうなるかはやってみないと分かりませんが、俺もそう簡単には負ける気はありませんよ」
我ながららしくないとは思ったけどさ。ここまで言われたら、そりゃあちょっとは見栄も張るよ。
って事で、一応胸を張って偉そうに言ってみると、揃って尊敬の眼差しで見つめられてしまった。
勘弁してくれ。こういうのマジで苦手なんですって。
満面の笑みのおっさん達に見送られて、必死で笑いを堪えながら何とか城門を通って中に入った。
「じゃあまずはギルドへ行って、従魔登録と宿の確保だな」
ハスフェルの言葉に頷き、揃ってまずはギルドへ向かった。
「ああ、いらっしゃい。ハンプールの英雄一行のお越しだぞ」
丁度カウンターからレオンさんが出てきたところに出くわしたので有無を言わさず確保されてしまい、そのまま奥の部屋に連行されてしまった。
いやあ、相変わらず見事な筋肉の付いた腕ですね。と、妙なところに感心してしまう俺だった。
「どうだい? 何かあれば喜んで買うよ」
「ええと……」
飛び地で集めたジェムと素材はまだ全然整理をしていないので、どれを売っても良いか全く決めていない。チラッとハスフェル達を見ると、苦笑いしながら首を振られた。
「あの、売ってもいい在庫は前回と変わりませんけれど、何か要りますか?」
「割引のジェムはまだあるかい?」
真顔で聞かれて素直に頷く。
「ああ、そっちはまだまだ在庫に余裕がありますので、大丈夫ですよ」
「じゃあ、前回と同じく色は混ぜてもらっていいので各種類三万個、亜種は一万個ずつお願いしたいんだがどうだね?」
「それなら大丈夫ですね。ええと、ここに出しても良いですか?」
俺が鞄を下ろしながらそう言うと、奥にいた副ギルドマスター達が慌てたように走って行って、また猫車を大量に持ってきてくれた。
スライム達は、アクアゴールド超ミニバージョンになって鞄の中に入ってくれているので、そのまま手を突っ込んで出してくれたジェムをどんどん取り出していく。
ちなみにハスフェルやギイ、オンハルトの爺さんの従魔のスライム達も、合体して小さくなり鞄や小物入れの中に入って隠れている。
頼まれた量は前回ほどでは無かったので、それほどの時間もかからずに全部取り出す事が出来た。
「ええと、これで言われた数は以上ですね」
山積みになった亜種のジェムを見ながら、ため息とともにそう言う。うん、これだけの量を一度に出すとやっぱり凄いな。
「心から感謝するよ。これで冬の間も充分な燃料が確保出来たよ」
「お役に立ててるのなら嬉しいです。まだ未整理のジェムや素材もあるので、落ち着いたらまた来ますね」
「いつでも大歓迎だよ」
笑顔で握手を交わし、従魔登録と宿泊の手続きのために受付へ戻った。
「ええと、一泊分の手続きと従魔登録をお願いします」
受付に座ってそうお願いして、担当のお姉さんから書類をもらう。
ハスフェル達も、空いている席に座って宿泊の申し込みと、従魔達の登録の書類を書き始めた。
俺も、まずは宿泊申し込みの書類を書いて、従魔登録の書類を書き始めた。
「ええと、エリーと、ローザ、ブランにメイプル。全員移動はばつ印でいいな」
一応間違えないように確認しながら書き込んでいく。
すると、腕に留まっていたモモイロインコのローザが退屈していたらしく、俺が書類を書き出してすぐに机に降りて来て、書いているペンの反対側を齧りだした。
「こらこら、字が書けないからやめろって」
苦笑いして左手で顔を押さえてやると、甘えるように押さえた指を大きな嘴で甘噛みし始めた。
「ちょっと待ってろって言ってるのに、全く仕方ないなあ」
一旦手を止めてローザの顔を撫でてやる。それを見たブランとメイプルまで降りてきて甘え出したものだから、ますます書類を書けなくなってしまう。
「だからちょっと待ってろって。お前達の登録をしてるんだぞ」
無理やり捕まえて定位置に戻してやる。
「可愛いですね。そんな羽の色の鳥は初めて見ました。どちらでテイムされたんですか?」
受付のお姉さんの視線は、モモイロインコのローザに釘付けだ。
『なあ、飛び地でテイムしたって言っても良いか?』
この辺りの常識がいまいち分かっていないので、素直に念話でハスフェルに助けを求める。
『ああ、構わないぞ』
笑ったハスフェルの答えに頷き、モモイロインコのローザをお姉さんの前に降ろしてやる。
「飛び地でテイムしたんです。可愛いですよ」
「あの、触ってもいいですか?」
握った両手がプルプルと震えている。お姉さん、もしかして鳥好きだったみたいだ。
「ええ良いですよ。でも、嫌がるようならやめてくださいね」
俺の言葉にお姉さんは、これ以上ないくらいの笑顔になる。
「初めまして、ちょっとだけ触らせてね」
優しくローザに話しかけると、お姉さんはそっと右手を伸ばしてローザの背中の辺りを撫でた。
「うわあ……」
思わずと言った感じのため息のような声が漏れる。
「可愛い、可愛い可愛い可愛い!」
小さな声で延々と可愛いと言いながら何度も背中を撫で、嫌がられていないことを確認してからは頭や目の横の辺りを指先でくすぐるみたいにして撫で始めた。
ローザも満更ではないらしく、目を細めて頬のあたりの羽を膨らませてご機嫌だ。
それを見ていたブランとメイプルが、自分達も撫でろとばかりにお姉さんに突撃して、両肩に留まって構ってくれアピールをしたものだから、彼女はもうこれ以上無いくらいに笑み崩れて大喜びで三羽を交互に何度も何度も撫で回していた。
全員、もう書類を全部書き終えているんだけど、彼女の幸せそうな様子があまりに面白くて黙って見ていると、俺達に気付いた別の人が来てくれて、書類をまとめて持って行ってくれたよ。
お姉さん、後で叱られてないといいけど、大丈夫かね?