夜間飛行
「鳥のジェムモンスターは、ファルコもそうだけど夜でも見えるんだな」
かなりの高度を飛んでいるファルコの背の上で、頭上に広がる満天の空を見上げて思わず呟いた。
「そうですね。我々は夜目も利きますから、必要なら月の無い夜であっても飛べますよ」
ファルコの言葉に納得して周りを見る。
俺とマックスとニニが一番大きなファルコに乗り、ベリーとフランマがモモイロインコのローザに、タロンとソレイユとフォールがキバタンのブランに、草食チームはセキセイインコのメイプルに乗せてもらって、それぞればらけたスライム達が落ちないようにホールドしてくれている。
ハスフェルとギイとオンハルトの爺さんは呼び出した大鷲達に乗せてもらい、大鷲が掴んで運ぶエラフィ以外は巨大化した鳥達が背中に乗せて飛んでいる。
ちなみにベリーは自力でも飛べるくせに、最近ではほとんど従魔達と一緒に乗っている。
あれって絶対ふかふかの羽毛を楽しんでるんだろうと俺は思ってるんだけど、多分間違ってないと思うぞ。
しかし、大鷲達だけでなく、新しくテイムした鳥達まで全員巨大化して飛んでいるものだから、ちょっとした団体飛行状態だ。
「しかし増えたな。これって地上から見ると本気で驚かれる数だと思うな」
「まあ、別に悪い事してる訳じゃないんだから、構わないさ。堂々としてろ」
笑ったハスフェルの声に俺も笑って頷き、返事をしてもう一度空を見上げる。
遮るもののない頭上は、大小様々な星で埋め尽くされている。
「それにしても綺麗だな。だけど、夜空を見るのが久し振りって、冷静に考えたら何だかおかしいよな」
俺の呟きに、ハスフェル達が笑っている。
「確かに、暗闇を見て安心すると言うのも、なかなかに貴重な経験だな」
オンハルトの爺さんの声に、全員揃って苦笑いしたよ。
それにしてもやっぱり気になる飛び地へ行く前の、あのモンスターの出現と各地の群生地の壊滅事件。
落ち着いて考えれば単なる偶然だったのかもしれないけど、あそこまで重なると絶対何かあるって思うよ。普通。
だけど、飛び地では別段事件らしい事も……まあ、俺の不幸体質的な事件は色々とあったけど、地下迷宮と違って血塗れで死にかけたり穴に落ちたりする事も無なかったし、飛び地自体が襲ってくるなんて事も無く普通に出て来られたんだよ。
大きな事件も事故もなく出て来られたんだから喜んでいいはずなのに、何も無くて逆に不安になるって何だか納得出来ないよ。
「でもまあ、何もないに越した事はないよな。うん、平和がいいって」
自分に言い聞かせるように、ごく小さな声でそう呟く。
「ん、何か言ったか?」
小さな呟きだった為、今の俺の言葉はハスフェル達には聞こえなかったみたいな。
「何でもない」
誤魔化すように笑って肩を竦めて、気分を変えるようにゆっくりと深呼吸をしてすっかり秋の気配になった吹き抜ける風を楽しんだよ。
「あ、街が見えて来た」
真っ暗な地上の先に光が集まっている場所がある。東西アポンの街だ。
街へ続く街道にもランタンを持った人がいるみたいで、所々光る点で上空から見ると街道が線になって見える。
今回は転移の扉を使わずに久々の夜の星空をのんびり楽しむ夜間飛行での移動だったので、そのまま西アポンの郊外にある草原に着地してもらった。
「では我らはここまでだな。良い旅を。またいつなりと呼んでくれたまえ」
そう言って、大鷲達はそのまま真っ暗な空に飛び去ってすぐに見えなくなってしまった。
「じゃあ、とにかく街まで行こう」
小さくなった鳥達を腕や肩に留まらせ、従魔達もいつもの定位置につく。マックスの背中に飛び乗った俺は、腕に留まっている鳥達を見て小さく笑った。
「街に着いたら、真っ先にギルドへ行って従魔登録をしないとな」
ハスフェルの呟きに、全員揃って大真面目に頷いたのだった。
うん、新しい従魔達の登録は忘れずにやろうな。
「あの双子の大木まで競争!」
全員がそれぞれの従魔に乗り、さあ出発だと思った瞬間、突然のシャムエル様の宣言。
それを聞いたマックスは弾かれたように一気に走り出した。体を低くして一気に駆け出す俺達の腕から鳥達が一斉に飛び立つ。
マックスのすぐ隣をハスフェルの乗るシリウスがピタリとついて来る。その左右にはギイの乗るブラックラプトルのデネブとオンハルトの爺さんの乗るエルクのエラフィがこれまたピタリと並ぶ。
「行け〜!」
ほぼ全員の叫ぶ声と同時に、俺たちは目標の大木の横を一気に駆け抜けた。
「ほぼ同着だったけど私には見えたよ! では発表します! 一番はハスフェルの乗るシリウス! 二位はオンハルトの乗るエラフィ、三位と四位は同着でケンの乗るマックスとギイの乗るデネブ! いやあ、これまた僅差のすごい接戦だったね。うん、これは本番の早駆け祭りが楽しみだよ」
尻尾をぶんぶんと振り回して、マックスの頭の上に座っていたシャムエル様が着順を知らせてくれる。
「よし! 一位取ったぞ!」
ハスフェルの喜ぶ声がして、ため息を吐いた俺は拍手をしてから興奮して跳ね回るマックスの首を叩いた。
「ほら落ち着けって。悔しいけどほぼ同着の接戦だったんだから、時の運だって」
慰めるつもりでそう言ったんだが、振り返ったマックスは、悔しそうに大きな声で吠えた。
「何を言ってるんですかご主人。その時の運を無理矢理にでも自分の元に引き寄せるのが勝者なんですよ。負けても仕方がないなんて言ってはいけません!」
おお、マックスに叱られたよ。
「あはは、ごめんごめん。うん、確かにその通りだな。じゃあ次は絶対に勝つぞ」
「そうですよ。そう来なくっちゃ!」
また興奮して跳ねたマックスは、嬉しそうにそう言ってまた大きく跳ねた。
「相変わらず、無駄に走るわねえ」
「本当にね」
「疲れるだけなのにねえ」
猫族軍団の呆れたような声を置いて、俺達はまた、街道目指して一気に走り出したのだった。