新たなチーム結成!
「俺達は、一泊したらもうここを出る事にしました」
最初に俺達がテントを張っていた場所にランドルさん達はまたテントを張るらしく、背負った鞄から畳んだテントを取り出しながらランドルさんがそう言って笑っている。
おお、あんな小さな鞄からテントが出てきたって事は、あの鞄も収納袋な訳か。
一瞬、彼も収納の能力持ちかと思ったんだが、同じ鞄からバッカスさんも手を突っ込んでテントを取り出しているのを見て納得した。それはつまり、カバンに収納の能力があるって事だよな。
「それにしても、ここの飛び地は本当に素晴らしいところでしたね。もっと収納袋を手に入れて、近いうちに必ずまた来ますよ。何しろ今回は、持っていた収納袋を予備の分まで含めてありったけ使って、入れられる限り詰め込みましたからね。街で売ったら幾らになるかとても楽しみですよ」
嬉しそうなランドルさんの言葉に、何となく状況を察した。
要するに、予想以上のジェムモンスターの出現率に、手持ちの収納袋だけでは足りなくなったのだろう。まあ、ここのジェムモンスターの出現数を考えたらそれも納得だよ。
なので一時撤退して、売上金で新しい収納袋を追加で買ってまた来るつもりのようだ。
まあ、収納の能力持ちでない限り、それが一番正しいやり方なんだろう。
「それに、せっかく強い従魔を手に入れたのだから早駆け祭りに参加してみるつもりですよ。ここを出てそのままハンプールへ行けば、丁度秋の早駆け祭に間に合うでしょうからね。ビスケットも早駆け祭りの話をすると、大興奮していましたから、期待出来そうです」
ランドルさんが目を輝かせていきなりそんなことを言うものだから、俺達は揃って目を見開いた。
おお、いきなり強力なライバル登場じゃん。しかもダチョウの脚ってかなり早いんじゃなかったっけ?
焦る俺を無視して、目を輝かせたオンハルトの爺さんがいきなりランドルさんの背中を叩いた。
「なあ、ちょっと聞くがお前さん。どのレースに参加するつもりだ?」
「そんなの、早駆け祭りの花形の三周戦に決まってるじゃありませんか! こいつの足の速さは馬なんかの比じゃないですよ。文字通り桁違いなんですから」
「だよな。やっぱりそうだよな!」
満面の笑みになったオンハルトの爺さんは、そう言ってランドルさんの腕を取った。
「それならお前さん、俺とチームを組んでくれんか。こいつらは金銀コンビ。ケンはまたクーヘンと組むだろうから、俺だけチーム戦で相方がいなくて困っておったんだよ。ここで知り合ったのも何かの縁だ。どうだ。受けてくれんか」
「おお、それは願ってもない事です。喜んでお受けしますよ。チーム戦は無理でも個人戦で参加出来ればいいと思っていたのですが、そういう事ならもっとやる気が出ますからね」
がっしりと握手を交わした二人は揃って俺を振り返った。
「連覇はさせませんよ。個人戦も、チーム戦も!」
「おお、出来るもんならやってみろって。喜んで受けて立つよ!」
ランドルさんの言葉に勢いでそう答えた俺を見て、ハスフェル達は密かに笑ってるし。
「こらそこ、笑わない!」
悔しくなって、大きな声で笑っているハスフェルとギイの背中を叩いてやった。
「お前、やっぱり硬すぎ! 手が痛ってえよ!」
まるで石の壁を叩いたみたいで、そう叫んだ俺を見てまた皆が笑った。
「それじゃあ、お休み」
「ああ、おやすみ」
先にテントに入って行ったランドルさん達を見送り、俺達も片付けてもう休む事にした。
「じゃあ俺達は、明日はあの激うまリンゴとぶどうをありったけ収穫して、最後にウェルミスさんから苗木を預かって、西アポンへ持って行って埋めてくれば良いんだよな」
「そうだな。それでマギラスの店へ行ってレシピを受け取ったら、その後に俺達もハンプールへ行こう。秋の早駆け祭りの受付がそろそろ始まってる頃だからな」
「おう、新しいチームメイトも出来たみたいだし、楽しみだな」
俺の言葉に、オンハルトの爺さんも嬉しそうだ。
実は密かに俺も心配してたんだよ。早駆け祭りでオンハルトの爺さんのチームメイトがいないって。
まあ、参加するのは個人戦だけ参加でも構わないんだろうけど、せっかくだからチームでも競いたいものな。
「絶対二連覇だぞ!」
マックスの大きな頭に抱きついてそう言ってやると、尻尾をブンブンちぎれんばかりに振り回しながらマックスは俺に力一杯頬擦りしてきた。
「こらこら、そんなに押したら俺が倒れるって。分かった分かった。分かったからちょっと落ち着け」
興奮するマックスに押されて後ろ向きに倒れそうになって慌てていると、背中側をニニがさりげなく擦り寄ってきて支えてくれた。
「ああ、やっぱりニニは頼りになるよな」
こちらも大きいとはいえ、マックスよりは小さな頭を腕を伸ばして抱きしめてやる。
「ああ、やっぱりこのもふもふが最高の俺の癒しだよ。ああ、たまらん」
この、ふわふわの頬の辺りの毛が俺は最高に好きだ。
特に、この世界へ来て巨大化して以降、最高過ぎて尊いって言葉の意味を日々実感してるよ。
「さてと、それじゃあもう休むか」
机を片付けて広くなったテントの真ん中には、いつものスライムウォーターベッドが設置されている。
「ご主人、綺麗にするね〜」
サクラの触手が伸びてきて、一瞬で俺を包む。
解放された時には、もうサラサラさっぱりだ。
「いつもありがとうな」
スライムウォーターベッドを撫でて、従魔達を順番に撫でてやる。
お空部隊は、満足するまで撫でてやると、出したままにしてある椅子の背もたれに飛んで行き並んでぎゅうぎゅう詰めになって留まった。
「巨大化した鳥達に挟まれて寝るなんてのも、良いかもな」
羽毛のふわふわっぷりを思い出してそう呟くと、ニニとマックスが慌てたように俺の腕の隙間に頭を突っ込んできた。
「ほら、ご主人。早く休まないと!」
「そうですよ。明日も早いんだからもう寝ないと」
二匹が必死になって俺を引っ張る。
「あはは。そんな心配しなくても大丈夫だって。俺はお前達の側が一番だよ」
笑って二匹を撫でてやり、一緒にスライムウォーターベッドに飛び乗る。
「それじゃあ、今夜もよろしくお願いします!」
そう言っていつものようにニニの腹毛に潜り込むと、すぐ隣にマックスが横になって俺を挟む。背中側には、ラパンとコニーが巨大化して並び、俺の胸元にはタッチの差でフランマが飛び込んで来た。
「それじゃあ消しますね」
ベリーの優しい声がして、一つだけつけていたランタンの明かりが消える。
「うん、ありがとうな。おやすみ」
小さく答えて、横になったままフランマを抱きしめる。
まあ外は昼間と変わらない明るさなんだけど、もふもふに埋もれて目を閉じた瞬間から後の記憶は無い。
相変わらず、我ながら感心するくらいの墜落睡眠だね。