昆虫採集とガッツリの夕食
「いやあ、取りも取ったりって感じだな」
一旦川原のキャンプ地へ戻った俺達は、昨日と今日の二日間で集めたメタルブルーユリシスのジェムの数を数えて苦笑いしていた。
この金属みたいな青い羽が、この世界の役に立つのだと聞かされたらそんなの頑張らないわけにいかないじゃないか。
って事でこの二日間、俺達はとにかくひたすらメタルブルーユリシスを集めまくった。
昼食の後、俺が考えた金網で蝶を叩き落とせば良いんじゃね? っていうあれ、話してみたら三人も大笑いして、ぜひやろうって話になった。
相談の結果、ギイが持っていた焼肉用の大きな金網を貸してくれたんだが、これがもう最高に面白いくらいに集まったんだよ。
しかも、どうやらメタルブルーユリシスは金属の大きなものに集まる習性があったらしく、俺が両手で金網を頭の上に立てて持ってマックスの背中に乗って走り回ったら、周り中の蝶達が一斉に俺に向かって集まって来たんだよ。
もう前が見えないくらいの青い蝶に取り囲まれて、持っていた網だけじゃ無く、顔にも体にも腕にも、とにかく蝶に当たりまくられたよ。
その結果、虫取り網の比じゃないくらいにジェムと素材は集まったんだけど、俺の顔はちょっと可哀想な事になってしまい、何度も万能薬の塗り薬の世話になったよ。貴重な薬を申し訳ない!
だって途中から三人は、持っていたけど全然使ってなかったフルフェイスのヘルメットみたいな兜を取り出して被ってたんだよ。ずるいぞ!
そんなの持っていなかった俺だけが、とっても可哀想な結果になったんだよ。
うん、バイゼンヘ行ったら俺も普段でも被れそうなヘルメットだけじゃ無く、あんなフルフェイスタイプのも作ってもらおう。素材なら腐る程ある。備えあれば憂いなしだよな。
飛び地での狩りは今日で終わりにして、明日は一日激うまリンゴとぶどうをありったけ収穫してからマギラス師匠の所へ行き、そのまま俺の提案通りにハンプールへ行く事になった。
よし、目指せ早駆け祭り二連覇だ!
「じゃあ、ステーキを焼くぞ!」
メインの揚げ物系が昨日の夕食でほぼ壊滅状態になったので、今夜はリクエストでステーキに決定した。
まあ、これなら肉を焼くだけだから俺も楽で良いよ。まだ作り置きのステーキソースも残ってるしな。
ハスフェルとギイが自分達のパンを焼いている間に、軽く叩いてスパイスを振ったグラスランドブラウンブルの肉を大きなフライパンで一気に焼いていく。
隣の鍋では、最後の味噌汁が暖まっている。
「かなり作ったつもりだったけど、見事に無くなったな。まあ、師匠の満貫全席の残りとホテルハンプールの料理は、あと数回分くらいは残ってるんだけどなあ。これはまた、作り置きしておくべきか?」
肉をひっくり返しながら、ちょっと考える。
「今回は、前回ほどの騒ぎにはならないと思うんだけど、どうなんだろう?」
フライパンを揺すりながら、前回の大騒ぎを思い出してちょっと遠い目になった俺だったよ。
ううん、のんびり異世界を旅して回るつもりだったんだけど、どうしてこんな事になったんだろうな?
「はい、焼けたぞ」
準備万端整えて待ち構えている三人のお皿に、分厚いステーキをの押せてやる。
「俺の分は、まずはシルヴァ達にだな」
サクラとアクアが用意してくれたいつもの簡易祭壇にメインのステーキの乗ったお皿と山盛りのご飯、それからサラダの盛り合わせの入ったお椀を並べて、最後に味噌汁と麦茶を並べて手を合わせる。
「今夜はステーキ定食だよ。少しだけどどうぞ」
いつもの収めの手が、俺の頭を撫でた後に料理を撫でて消えていくのを見送る。
「お待たせ。それじゃあいただきます!」
大急ぎでお皿を自分の前に移動させて、改めて手を合わせる。
「食、べ、たい! 食、べ、たい! 食べたいよったら食べたいよ!」
いつも以上に大きなお皿を振り回しながら、勢いよくシャムエル様が飛び跳ねて踊っている。今夜のダンスはかなり激しめだな、おい。
最後はお皿を上に掲げるようにして勢いよく回転する。
だけど、決めのドヤ顔の後、足を滑らせて見事にすっ転んだのはお愛嬌だな。
「えへへ、転んじゃったよ。ちょっと油がはねてるよ。ここ!」
誤魔化すように口を尖らせて机の足元を指差し、跳ね飛んできたスライム達と一緒に跳ねた油がついた机の上を綺麗にしてくれた。
「ああ、悪い悪い、ステーキを焼いた時の油だな」
苦笑いした俺は、お詫びにステーキをガッツリ切ってやり、他の付け合わせも山盛り取り分けてやった。
うん、この量なら確かに以前のお皿には乗らないよ。
二つ並んで取り出された蕎麦ちょこには、味噌汁と麦茶を入れてやる。
「はいどうぞ、ステーキ定食だな」
付け合わせの塩揉みの大根もどきも、一本取ってお皿に乗せて目の前に並べてやる。
「うわあい、美味しそう。いっただっきま〜す!」
そう言うと、やっぱり顔面からステーキに突っ込んでいった。
そんなシャムエル様を見て笑った俺も、自分のステーキを大きく切って口に入れる。
最近ではシャムエル様の分も見越して多めに作っているので、俺のステーキもガッツリ分厚めだ。
「ううん、この分厚さなら、もうちょっと焼いた方が好みだな。よし、次はもうちょい焼いてみよう」
「確かに、いつもより焼きが浅いね。私も、もうちょっと焼いた方が好きだな」
大きな肉を齧りながら、俺の独り言に律儀にシャムエル様が返事をしてくれる。
「あれ、何ならもうちょい焼こうか?」
思わずそう言ってシャムエル様を見ると、驚いたみたい振り返ったシャムエル様は俺を見て笑って首を振った。
「いや、これはこれで美味しいよ。じゃあ次回はしっかりめに焼いてください!」
「おう、了解。じゃあ次はしっかり目に焼く事にするよ」
笑って頷き合い、気にせず食事を再開した。
大満足の食事を終えて、片付けも終えた俺はサングリアを取り出してちょっとだけ飲んで一息ついていた。
うん自分で作って言うのも何だが、これは美味い。もっと作っておこう。
ハスフェル達も最初はサングリアを飲んでいたんだが、途中からウイスキーに変わってしばらくした頃、不意に草の茂みがガサガサと音を立てた。
「うわあ、また何か出たな!」
慌ててグラスを置き、腰に装備したままだった剣を抜く。大丈夫だ、サングリア程度ではほとんど酔ってない……はず。
ハスフェル達は全く酔っている様子も無く、一動作で全員が武器を手にしていた。
「あ、ダチョウ!」
草地から、にょっきりとダチョウの首が突き出しているのに気付いた俺達は、慌てて机から離れてテントの外へ出る。三人も俺に続いて外に出て来た。
その瞬間、それぞれの主人のところにいたゴールドスライム達が一斉にばらけて地面に転がった。当然アクアゴールドもばらけて転がる。
しかも従魔達は、何やら揃って戸惑った様子だ。
「うん? どうしたんだ?」
普通なら、このまま一斉に襲い掛かりそうなのに、何故だか戸惑って動こうとしないニニの側へ行く。
「どうしたんだよ。行かないのか?」
「だって、ご主人。あれは襲っちゃあ駄目でしょう?」
ニニの視線の先を見た俺は、思わず叫んでいた。
「ええ、ランドルさん。それ、もしかしてテイムしたのか!」