ブラウンハードロック狩りと次の目的地の相談
「お先、行ってきてね」
ニニが戻って来て、交代でマックスが駆け出して行ったのを見て、俺も一旦ハンマーを降ろした。
「じゃあ、俺も昼飯にしよう。サクラ、机と椅子の小さい方を出してくれるか。それから、コーヒーのピッチャーとカップだ」
サクラが、それを聞いて順に取り出してくれる。熱々のコーヒーをカップに注いですぐにサクラに返す。
「飯は何にしようかなぁ」
在庫を思い出しつつメニューを考える。
よし、ちょっと疲れてるのでガッツリ肉の挟んだやつにしよう。
以前屋台で買った、ハンバーガーみたいなのを取り出してもらって、ミルクをたっぷり入れたコーヒーと一緒に美味しく頂いた。
うん、出先では手間をかけずに簡単に食べられるのが良いね。
残っていたイチゴの盛り合わせの皿を取り出して摘みながら、俺は鞄から地図を広げて見る。
「ドワーフの工房都市バイゼンへ行くなら、この街道だけど、王都周りで行くなら、こっちの街道なんだよな」
ドワーフの工房都市バイゼンは、地図の左端の上にある辺境の街だ。すぐ近くにベリーの目的地であるケンタウロスの郷が有る、等高線で真っ黒になった山が連なっている場所だ。
今いるレスタムの街からは、東西に開いた城門から出た二本の大きな街道がある。
いつも利用しているのは東に向かって開いた城門と街道だ。この街道はS字を大きく描いて北にあるターバラって街へ続いている。
街の反対側に開いた西側の城門から続く街道を行くと、大きく半円を描くように西へ進み最初にあるのがチェスターって街だ。そのまま半円を描くように大きく湾曲した西への街道を進むと、幾つもの街を通って最後に辿り着くのが工房都市バイゼンだ。
「西のチェスターって街を目指して工房都市バイゼンを目指すか、東のS字の街道を行って、ターバラって街から王都を経由して、工房都市バイゼンを目指すかだな」
「行くなら、チェスター経由かな」
地図の上に突然現れたシャムエル様が、チェスターを指差しながら教えてくれる。
「だけどその道を行くと、大きな川を二回も越えなきゃ行けないけど大丈夫かな?」
貰った地図には、右斜め上から逆Y字になった大きな川が地図を斜めに横断しているのだ。王都の少し下で二つに分かれたその川は、それぞれ蛇行しながら左下にある海へと注いでいる。
「街を繋ぐ大きな橋があるからね、川を越す時の心配はいらないよ」
成る程、それならそっちへ行っても大丈夫だな。
「じゃあ、お勧めのチェスター経由で工房都市バイゼンを目指すよ。だけど、大きな街だけでも幾つあるんだよこれ」
西回りの街道を指で辿って、街の名前を読み上げていく。
「チェスター、東アポン、川を挟んで対岸に西アポン、カデリー、南グラスダル、また川を挟んで北グラスダル、北へ向いてリーワーフ、ウォルス、で最後が工房都市バイゼンだ。へえ、長い道のりだな」
「ターバラ経由で行くと、ターバラと次の街のルーシティとの間が、かなりの山越えのルートなんだよね。その道は治安が悪いからお勧めはしないよ。従魔達がいるから負ける心配はないけど、ケンは人間と戦うのは嫌なんでしょう?」
「おう、それは絶対嫌だね。分かった、情報感謝だな。そっちには近づかないようにするよ。それじゃあ、まずは西の街道を行って、チェスターって街へ向かうか」
まずは当面の目的地が決まり、地図を畳んだ俺は大きく伸びをした。
「マックスはまだ帰らないし、それじゃあ俺ももうひと働きするか」
最後のコーヒーを飲み干して、サクラに綺麗にしてもらって机と椅子も片付ける。
見渡すと、またゴロゴロとブラウンハードロックが増えているし。
「それじゃあ、やりますか」
置いてあったハンマーを手に、また岩が転がる広場へ向かった。
巨大猫二匹とセルパンまで巨大化して、俺が叩いたブラウンハードロックをあっと言う間にジェムにしていく。どの子も凄すぎる……。
早く次を叩けとばかりに、横で並んで身構えて待ち構えるもんだから、俺は必死になって、片っ端から岩を叩き続けたよ。
ファルコが戻ってブラウンハードロック狩りに乱入し、俺が叩くのを待ちきれないファルコは、岩石状態のブラウンハードロックを掴んで持ち上げ、上空から落として割ると言う荒技に出た。
「なんだよ、そんな事出来るなら最初からやってくれよな!」
笑いながら大声でそう叫んでやると、上空のファルコが甲高い声で笑ったように鳴いた。
俺の手が何度も真っ赤になって万能薬のお世話になっていると、ようやくマックスも戻って来た。
「おかえり、それじゃあそろそろ戻るか」
サクラに頼んで取り出してもらったチョコレートを摘んで口に入れると、マックスの背中に乗って、ひとまず街へ戻る事にした。
「サクラ、アクア、今日のジェムは幾つあった?」
「こっちは148個だよ」
「サクラが集めたのは129個」
「勝った!」
「ウワーン。負けちゃった」
どうやら二匹で、集めたジェムの数を競っているらしい。何やってるんだよ、お前らは。
笑って二匹を見ると、二匹揃ってニニの背中でポンポンと楽しそうに跳ねている。
タロンもセルパンも、もう小さくなって定位置に収まっている。
「あ、そう言えば、タロンに首輪を買ってやろうと思ってたんだけど、あんなに大きさが変わるなら、無理だよな?」
思わずそう呟くと、ニニの背中で丸くなっていたタロンは顔を上げた。
「あ、大丈夫ですよ。身に着けているものは一緒に大きくする事が出来ますから」
目をキラキラさせてそう答えるのを見て、俺は吹き出した。
「そっか、ジェムモンスターと違って、術で大きくなるんだから、首輪も一緒に大きくするって事か」
「そうですよ。もちろん、そのままにしておく事も出来ますが、それだと、巨大化した時に切れてしまいますから勿体無いですよね」
「じゃあ、街へ戻ったら、まず革工房のおっさんのところへ行くか。タロンなら、店先に並んでいたのでサイズはあると思うぞ」
タロンが嬉しそうに目を細めて、まるで猫みたいにニャーと鳴くのを聞いて、俺はもう一度吹き出したのだった。