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お疲れ様の昼食

「うわあ、もう出たのかよ!」

 森から吹き出すようにして出てきた青い蝶の群れを見て悲鳴を上げた俺だったが、残念ながら俺以外の全員の意見は違っていたようで、それを見た瞬間には座って休憩していた全員が嬉々として立ち上がりハスフェル達は従魔に飛び乗り、猫族軍団をはじめとした従魔達全員も勢いよく走って行ってしまった。

「ご主人、何をしているんですか! ほら、早く乗ってくださいって!」

 尻尾大興奮状態のマックスと一緒に、俺のホールド担当のアクアとアルファまでがポンポンと跳ね飛んで俺を急かしている。

「分かったって、行くからちょっと待って」

 そう言って何とか立ち上がり、大きく伸びをして強張った身体を解す。

「はあ、仕方ない。もうちょい頑張るとするか」

 そう呟いてマックスの背中に飛び乗る。瞬時にアクアとアルファが跳ね飛んできて俺の下半身をしっかりとホールドしてくれる。

「じゃあ後半戦もよろしくな」

 マックスの首を叩いてやると、元気よく一声吠えたマックスは文字通り放たれた矢のように一気に青い蝶達の群れに向かって飛び込んでいった。

「待て待て! まだ網を出してねえって!」

 叫びながら慌てて収納してあった虫取り網を取り出す。



 勢いよく駆け回るマックスや俺の身体にも、飛んでいる蝶達が当たってジェム化して転がり落ちる。

「これって、アクア達が回収してくれるのなら、それこそ虫取り網じゃなくて平くて大きな面積の金網かなんかを掲げて走り回るのが一番効率よさそうじゃね?」

 虫取り網の中に詰まったジェムと素材をアクアに回収してもらいながら、もっと普通の長閑な虫取りがしたいと密かに思っていた俺だった。



 結局、二面どころか三面クリアーしてようやく昼食タイムとなった。

 ハスフェル達やシャムエル様の腹時計はかなり正確みたいだから、ここでの時間管理は基本的にハスフェル達に任せている。

「確かマギラスさんのところへ戻るまでって、あと三日か四日だよな。最終日は激うまリンゴとぶどうを収穫しないと駄目だろうから、それならジェム集めはあと二日か三日程度。さて、このあと何が出るのか知らないけど、ここを出た後どうするかも考えておかないとな」

 机と椅子を並べながら、今後の日程を考える。

「ええと、西アポンでマギラス師匠からお願いしていたレシピ本を貰ったら、そのまま空路と転移の扉でバイゼンへ行くつもりだったけど、よく考えたらそろそろハンプールの秋の早駆け祭の受付が始まる時期なんだよな。しかもバイゼンヘ行ったら素材の買い取りだけじゃなく、俺の装備を一通り作ってもらう予定なんだよな。そうなると、かなり時間がかかる可能性が高い……」

 椅子を置いて、腕を組んで考える。

「あ、そうか、先にハンプールへ行って早駆け祭りに参加して、冬の間はもうずっとバイゼンにいれば良いんだよな。確か、冬場は何処か一つの街に決めて宿を取った方が良いって以前ハスフェルも言ってたしな。そうすれば、武器や防具を作るのに時間がかかったとしてもひと冬あれば充分だろうから、春の良い季節になったら、装備が新しく整った状態でまた旅を再開すれば良いんだよな。よし、この予定で良いか後で相談してみよう」

 自分の思い付きに満足したところで、机の上で待ち構えていたサクラと目が合う。

「ご主人、お昼は何を出すの?」

 ビヨンと伸び上がったサクラの問いに、好きに寛いでいる三人を見る。

「野外だから簡単に食べられるものがいいよな。あ、おにぎりバイキングにしよう。サクラ、おにぎりの種類ってどれくらいある?」

「おにぎりの種類はね、ええと……塩むすび、シャケもどき、ツナマヨ、エビマヨ、おかか、昆布、焼きおにぎりの醤油味、焼きおにぎりの味噌味、肉巻きおにぎりの塩味、肉巻きおにぎりの照り焼き味、あとは炊き込みご飯のきのこ入りと、炊き込みご飯の鶏肉入り、あとは大きいおにぎりが、鳥の唐揚げ入りと、三色そぼろ握りがあるよ」

 次々に読み上げながら取り出されるおにぎりの数々に、途中からはハスフェル達までが側に来て、取り出す度に大喜びしていた。

 おにぎり以外では、唐揚げや鶏ハム、トンカツも色々出しておく。だし巻き卵やポテトサラダとおからサラダ、がんもどきや揚げ出し豆腐などの煮物もいくつか並べておき、残り少なくなってきた味噌汁を温めておいた。




「おお、これは良いな。どれを食べようか迷うぞ」

 ハスフェルの嬉しそうな声にギイも一緒になって頷いている。それを隣で見た俺は、吹き出しそうになるのを必死で堪えていた。

 マッチョなイケオジ二人が、おにぎりバイキングを前にして大喜びしてるって、ちょっと可愛く思えた自分がおかしかったからだ。

 ちなみに、オンハルトの爺さんはおにぎりを全種類取って早々に席に置き、真剣な顔でおかずを物色していた。


 大きなお皿を持って、俺達はおにぎりの前を行ったり来たりしながら大喜びで幾つもお皿におにぎりを取っていった。

 大急ぎで用意してもらったいつもの簡易祭壇に俺が取ってきたおにぎりとだし巻き卵と鶏ハムなどの乗ったお皿を置き、揚げ出し豆腐の入ったお椀、味噌汁の入ったお椀とお茶の入ったマイカップも一緒に並べる。

「少しですがどうぞ。今日のお昼はおにぎりバイキングだよ」

 いつもの収めの手が俺を撫でていくのを感じて目を開くと、収めの手がおにぎりを一つずつ撫でていくところだった。消えるのを待ってから、お皿を持って席に座る。

 待っていてくれた三人に一礼して、全員揃って手を合わせてから食べ始めた。

「食、べ、たい! 食、べ、たい! 食べたいよったら食べたいよ!」

 今日のダンスは食べたいダンスだったけど、いつもよりもステップがかなり激しい。お皿を手に右に左に激しく動き回り、最後は見事に一回転してキメのポーズだ。

 終わってもじっとしていなくて、またお皿を手に跳ね飛び始めた。

「はいはい、わかったから落ち着けって。で、どれにするんだ?」

 俺が取ったのは、ツナマヨとおかか、それから肉巻きの塩味と炊き込みご飯のきのこ入り、それから鶏ハムとだし巻き卵とおからサラダ、そして揚げ出し豆腐と味噌汁。飲み物は麦茶。

 ちょっと取り過ぎた気もするけど、どれくらいシャムエル様に取られるかわからないので、それを見越して多めに取ったんだよな。

「全部ください!」

 予想通りの答えに、俺はちょっと遠い目になった。

「どれくらいいる?」

 ツナマヨを前にお箸で一口千切ろうとしてシャムエル様を振り返る。

 お箸で切る位置を示してみたが、俺の一口分くらいでは頷かない。お箸の位置はどんどん下がっていき、ほぼ半分の位置で大きく頷かれた。

「了解、半分こな」

 苦笑いして、全部のおにぎりを半分に割って、中の具が多そうな方をシャムエル様のお皿に並べてやる。おかずも一通り取り分け、揚げ出し豆腐は別の小鉢に入れてやる。

 そして当然のように取り出された蕎麦ちょこには味噌汁と麦茶を入れてやった。

「お待たせしました。はいどうぞ」

「美味しそう! いっただっきま〜す!」

 目の前に並べてやると、目を輝かせたシャムエル様は肉巻きおにぎりに顔面ダイブしていった。

「これは後でもう一回お代わりだな」

 小さくなったおにぎりを食べながら、お皿の横で嬉々として肉巻きおにぎりを崩壊させながら豪快に食べるシャムエル様を、俺は笑って眺めていたのだった。

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