いつもの朝と虫取りの開始!
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
ショリショリショリ……。
「うん、起きるって……」
最近増員が確定したらしいいつものモーニングコールチームに起こされた俺は、半ば無意識で返事をして被っていた毛布の中に潜り込んだ。
顔の横にはいつものニニのもふもふの腹毛。
「ああ、これが俺を駄目にするんだって……」
そう言いながら、もふもふの中に潜り込んで行く。今の俺は文字通りの子猫状態だ。ううん、なんたる幸せ。
最高に暖かくて柔らかな腹毛の海に潜り込んで、俺は二度寝の海に垂直落下して行ったのだった。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
ショリショリショリショリ……。
「うん、起きてるよ……」
二度目のモーニングコールに夢現のまま、我ながら突っ込みどころ満載な返事をした時、鳥達の羽音が遠くに聞こえて俺は内心で大いに焦った。
はっきり言って鳥達のアレは、かなり冗談ギリギリのレベルに痛い。
本気で痣が付いてるんじゃないかとか、出血してるんじゃね? と疑うレベルにマジで痛いんだよ。
何とか起きようとした時、毛布が誰かに引っ張られて剥ぎ取られる。そのまま無理矢理手をついて起き上がった。
「ふああ〜」
ニニの腹の上からずり落ちて、スライムベッドに腰かけたまま大きな欠伸をした俺は、まだ半寝ぼけだけど起きたぞアピールの為に腕を突き上げるようにして大きく伸びをする。
「あれえ、ご主人起きちゃったよ」
「ええ、せっかく起こしてあげようと思って張り切ってたのに〜!」
「そうだそうだ。私達の楽しみを奪うなんてご主人なのに酷いです〜!」
俺の周りで、お空部隊の三羽が口々に文句を言っている。
だけどその声は笑っていて、それを聞いたモー二ングコールチームまでがそうだそうだと笑いながら俺を突っつき出した。
「こらこら。起こしたのはお前らだろうが。それで起きた俺がどうして文句を言われなきゃならないんだよ〜!」
俺の膝の上で、そうだそうだと言いながら飛び跳ねていたシャムエル様を両手で捕まえてやる。
「きゃ〜誰か助けて〜」
笑いながら、棒読みの悲鳴を上げるシャムエル様。
「シャムエル様をお助けせねば〜!」
口々に叫んだ従魔達が、俺に向かって突撃してくる。
もふもふの塊の巨大化したラパンとコニーに激突され、俺はそのまま一緒にもふもふの海に沈む。
そこへ猫族軍団が襲いかかり、俺の頬や額、それから俺の頬や耳の後ろあたりを一斉に軽く舐め回る。
「ひゃあ、勘弁してください〜!」
シャムエル様を離して、ラパンに抱きついて笑いながら悲鳴を上げる。
「仲が良くて大いに結構なんだが、そろそろ起きないと朝飯抜きで行く事になりそうなんだけどなあ」
呆れたようなハスフェルの声と二人の笑う声が聞こえて俺は慌てて振り返った。
そうだった、昨夜はテントは張らずにそのまま寝たんだった。
防具も着たままなので、そのままサクラに綺麗にしてもらい、サンドイッチと飲み物を適当に出してもらう。
タマゴサンドの横で自己主張をしているシャムエル様の尻尾を突っつき、いつものキャベツサンドとタマゴサンド、それから野菜サンドと鶏ハムを取る。
マイカップにコーヒーを注ぎ、グラスにはリンゴとぶどうの激ウマジュースを混ぜて入れる。
ステップを踏みながら目を輝かせて差し出すシャムエル様の蕎麦ちょこに、それぞれコーヒーとジュースを入れてから、改めて自分の分を入れてくる。
「これって先に蕎麦ちょこを貰って俺の分と一緒に入れたほうが早いと思うんだけど、俺のカップから貰いたいらしいんだよな。ううん、ちょっと悪い癖をつけてしまったかも」
笑って肩を竦めながら小さく呟き、そろそろ少なくなってきた激うまジュースを追加でグラスに注いだ。
座って手を合わせて食べ始める。とは言え、目の前でお皿を差し出して跳ね回っているお方がいるので、そっちの分を先に用意するよ。
タマゴサンドは耳を落としてほぼ全部渡してやる。差し出したキャベツサンドを先に齧らせてやりながら、俺は残ったタマゴサンドの耳を齧る。
野菜サンドはいらないみたいなので、鶏ハムを一切れ渡して残りを俺が食べる。
これってもう、神様の食べ残しを俺が頂いている図だよな?
なんだかおかしくなって、残りのコーヒーを飲みながら笑いが止まらなくなって皆から不思議そうな顔をされたよ。
「さてと、それじゃあ行くとするか」
少し休憩して、机と椅子を片付けたらもうそのまま出発だ。
鞍を装着したマックスの背に飛び乗り、昨日の草原へ向かって揃って走って向かった。
「うわあ、めちゃめちゃいっぱいいる!」
到着した草原は、青い蝶で埋め尽くされていた。
「よし、それじゃあ頑張って集めるとするか!」
三人が嬉々として虫取り網を取り出すのを見て、俺も貸して貰ったまま収納していた大きな虫取り網を取り出した。
「では行きますよ、ご主人!」
マックスの声に、ばらけたスライム達があちこちに転がって行く。
「そっか、従魔達が集めたジェムや羽も確保しないとな」
残っていたアクアとアルファが昨日のようにビヨンと伸びて俺の下半身を確保してくれる。
「ご主人は、とにかく網を振り回してメタルブルーユリシスを捕まえてください。網の中に入ったジェムと素材はアクアが貰いま〜す」
右足を確保してくれているアクアの声に、俺は笑って頷く。
「おう、それじゃあよろしくな」
マックスの首を軽く叩いてやると、一声吠えたマックスは勢いよく駆け出して行った。
そしてそのまま青い塊の中に突っ込んでいく。
「ぶわあ、おい! ちょっといくらなんでも無茶が過ぎるって!」
目の前が一気に青と黒だけの世界になる。
はっきり言って闇雲に振り回している俺の網の中に入る蝶より、俺達の身体に直接当たってジェム化する蝶達の方が多い気がする。
しかも、羽がまるで金属みたいなので、生身の顔に当たると結構痛い。
あっという間に、虫取り網が満杯になる。
満杯になると、アクアの伸びた触手が一瞬で虫取り網の中を収納してくれるので、そのまままた走り回るマックスの背の上で必死になって網を振り回し続けた。
あちこちを跳ね回っているスライム達は、従魔達が叩き落として飛んでいきそうな蝶の羽も目にもとまらぬ早技で確保している。
なので、いつもと違って足元に落ちてるのはジェムばかりで、素材の羽は一枚も無い。
ようやく一面クリアーされた頃には、俺の両腕はもう上がらないくらいにヘトヘトに疲れ切っていた。
「おかしい。虫取りって、こんなにハードだったっけ?」
水筒の蓋も開けられないくらいにヘロヘロになった俺は、サクラが出してくれた美味しい水を飲みながらそう言わずにはいられなかった。
「まあそうだよな。ここでの虫捕りならこうなるよな。うん、虫捕りなんて久し振り〜って、呑気に考えてたの昨日の俺が間違ってたんだよな」
大きなため息を吐いた俺は、またしても森から吹き出すようにして出て来た青い塊の蝶達を見て情けない悲鳴を上げるのだった。