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次の目的地と虫取り網?

「それで次は何が出るんだ?」

 速足のマックスの背の上で、最近の定位置になってるマックスの頭に座ったシャムエル様に話かける。

「蝶が出るよ。綺麗な翅だし、せっかくだから集めておけば良いかと思ってさ」

 振り返ったシャムエル様は目を細めてそう教えてくれる。

「へえ、蝶か。それなら大丈夫そうだな」

「だよね。多分、今なら大丈夫だと思うんだけどさあ」

 小さな声でそう呟いたシャムエル様は、素知らぬ顔で前を向いてしまった。



 ん? 今、何か不穏な呟きが聞こえたけど……俺の気のせいか?



「なあ、今何か……」

「はい到着したよ! 降りた降りた!」

 俺の質問を明らかに遮ったシャムエル様に、またしても不安が湧き上がってくる。

「おおメタルブルーユリシスか、これは確保しないとな」

 ハスフェルのめっちゃ嬉しそうな声が聞こえて、俺も慌てて周りを見回す。

 目の前にあるのはかなり背の高い木々が生い茂り、奥は薄暗くなっている鬱蒼と茂る森。シャムエル様が到着したと言ったのは、おそらくこの森の事だろう。

 ええと、森の中には……特に何も見えない。ならば森の外か?

 そう思って辺りを見回したが、ジェムモンスターらしき姿は無い。もしかして、まだ出ていないのか?

 しかし、ハスフェルはシリウスに乗ったままいきなり方向転換して、少し離れた後ろにいるギイの所へ走って行った。

 勢いよくシリウスの背から飛び降り、同じく従魔達から飛び降りた二人と顔を突き合わせて、何やら相談を始めた。

「ギイ、網は幾つ持ってる? 予備があればケンに貸してやってくれ。俺もこのサイズは自分の分しか無い」

「任せろ。大小合わせて幾つも持ってるぞ。オンハルトは?」

「大きいのなら持ってるから大丈夫だ。これは頑張らねばな」

 何やら大興奮の三人を見て、俺は首を傾げる。

「なあ、何処にいるんだよ。そのメタルブルーユリシスって」

 マックスに乗ったまま三人に近寄り声をかける。

 すると三人揃って勢いよく振り返られた。何そのシンクロ率。




「ほら、ケンは持ってないだろうからな。これを使え」

 ギイがそう言って何やら巨大な物を取り出して渡してくれた。

「はあ、虫取り網〜?」

 マックスの背から降りて受け取ったそれを見て、思わずそう叫ぶ。

 そう、渡された網の直径は約1メートル、深さは1,5メートルくらいは確実にある。めっちゃ巨大な網だったのだ。

 だけどこれは確かに昆虫用の網だよ。

 はっきり言って釣りの時に、釣った魚をすくう時に使う大物用のタモサイズだけど、タモと違って網の部分はとても薄くて柔らかいから、これは間違いなく昆虫用の虫取り網だ。

「ええと……それで、これを使って何を採るんだ?」

「何って、目の前にいるだろうが?」

 ハスフェルの言葉にもう一度森を振り返る。

「違うそっちじゃない。草原の方だよ」

 笑ったギイが指差すのは、森の横に広がる草原だ。

 ちらほらと小さな蝶が飛んでいるのが遠目に見えるが、あれがそうなのか?

 頑張って目を凝らしてよく見ていると、何やら違和感に気が付いた。

 あの飛んでる蝶の色がなんだか変なのだ。かなり遠いのに、不自然なほどにキラキラと光って見える。

 光っているのは鑑識眼のおかげもあるのだろうが、あの不自然な揺らめく様な光り方は間違いなくあの蝶自身の光みたいだ。

「マックス、追えるな?」

「もちろんです!」

 何故かハスフェルが、俺じゃなくてマックスにそう言っていきなりシリウスに飛び乗った。いつの間にか彼の右手にも大きな虫取り網がある。

「行くぞ!」

 ハスフェルの号令で、同じく右手に大きな虫取り網を持ったギイとオンハルトの爺さんも、ほぼ同時にデネブとエラフィに飛び乗り駆け出して行く。



 呆気にとられる俺をそのままに、三人は蝶の飛んでいる草原へ向かって勢いよく駆け出して行ってしまった。



「うわあ、待ってくれって。俺を置いて行くなって!」

 置いて行かれた俺は、我に返って慌ててそう叫んでマックスの背に飛び乗る。右手には渡された巨大な網を持ったままだ。

「しっかり捕まっていてくださいよご主人!」

 俺が背中に乗るなり大声でそう叫んだマックスが、物凄い勢いで草原目掛けて走り出した。

「うわあ、待てって! 落ちる落ちる!」

 体を後ろに持って行かれそうになり、必死になって左手で手綱を掴んだ。体が完全に後ろに倒れて仰向け状態になっていて、今の俺の目の前は完全に太陽の無い空だ。マジで怖いって!

「ご主人確保〜!」

 俺の頭の上にいたアクアゴールドが、瞬時に大きく伸びて俺の下半身をしっかりとホールドしてくれた。

「おお、ありがとうな」

 おかげで落ちる心配はしなくてすみ、なんとか腹筋に力を入れて体を起こして体制を立て直す事が出来た。

 そして草原を見渡した俺は目の前に繰り広げられている光景に、堪えきれずに吹き出した。




「あはは、マジで虫取りなのかよ」

 笑いながらそう言った通り、俺を置いて先に行った三人は、従魔達に乗ったまま本当に蝶を追いかけて網を振り回していたのだ。

 なんだか楽しそうな三人を見て、俺は笑いが止まらない。

 マッチョなおっさん達が巨大な従魔に乗って真剣にやってるのが虫取り!

「楽しそうじゃないか。ぜひとも参加させてもらうぞ!」

 もう一度笑った俺は、改めて虫取り網を持ち直してマックスの首を叩いた。

「よし、じゃあ行こうぜ!」

「もちろんです! じゃあ行きますよ!」

 大興奮して何度も飛び跳ねたマックスは、嬉しそうに一声吠えると草原に向かって走り出したのだった。

 さあ、子供の時以来の昆虫採集開始だ!

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