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エミューとオーストリッチと災難の予感

「ええと、それでそのエミューとやらは何処にいるんだ?」

 巨大な木々が生い茂る林に向かう三人の後ろをついて行きながら、かなりびびっている俺は辺りを見回しながら必死になって目を凝らしていた。

 大丈夫だ。俺にはシャムエル様から貰った鑑識眼があるんだから、例え茂みの中に隠れていようとも見つけ出す事が……きっと、きっと出来るはず!

 と、かなりの希望的観測を胸に、草原を見回していた俺はそのせいで肝心の目の前の林に対する警戒を怠っていた。

 不意にガサガサと賑やかな音がすぐ近くで聞こえて、マックスの背の上で飛び上がった俺は慌てて林を振り返った。



 その瞬間、謎の巨大な塊がいきなり林から飛び出して来て、俺達に向かって真っ直ぐに突っ込んで来たのだ。



「どっへぇ〜〜〜!」

 情けない悲鳴を上げ、マックスの背の上から転がり落ちそうになって慌てて伏せるようにして両手両足を使ってしがみ付く。

「ご主人、しっかり掴まってて下さい!」

 声と同時にそのまま大きく跳ね上がるマックス。

「ほげぇ〜〜〜〜〜!」

 突然の加重力からの無重力状態に、俺はまた情けない悲鳴を上げる。

 地響きを立てて、跳ね上がったマックスの下を走り抜ける謎の集団。

「カメレオンエミューだけじゃなく、カメレオンオーストリッチまで出たぞ!」

「おお、これはすごい!」

 嬉々としたハスフェルとギイの声に、マックスにしがみついたままの俺は納得した。

 そっか、エミューってオーストラリアにいたダチョウみたいなやつだな。でもってオーストリッチってもろダチョウじゃん。生息域が違うけど、多分ここは地区の境界線だから別に良いんだよな。それにここ、異世界だし。



 諦めの感情とともにそう考えて、着地の衝撃をやり過ごして何とか体を起こす。



 ダチョウとエミューと戦うのなら槍かな? などと呑気に考えていたら、いきなり巨大化した猫族軍団がエミューとダチョウの群れに襲い掛かった。

「ご主人、行きますよ! 槍を出してください!」

 大興奮した声と同時に、マックスは俺を乗せたままエミューとダチョウの群れに突っ込んで行った。

「無理無理無理〜〜〜〜〜!」

 槍を出す間も無く、マックスの背にしがみ付いたまま半泣きになって叫ぶ俺。

「ご主人、しっかり〜!」

「頑張ってね!」

「マックス、ご主人の事よろしくね〜!」

 俺の悲鳴に笑う猫族軍団に何故か励まされ、それを聞いたハスフェル達までが戦いながら笑っている。

 走り回るマックスの背の上で、俺は文句を言う余裕も無く、必死になってただただマックスの背にしがみついていたのだった。

 俺の周りでは、猫族軍団に倒されたエミューやダチョウが大きなジェムになって転がっていく。素材はどちらも羽根らしく、あちこちで大量の羽根が舞い飛んで大変な事になってる。分解したスライム達が、総出で触手を伸ばしては舞い飛ぶ大量の羽根を確保していた。

 ようやくマックスの暴れっぷりが少し落ち着き、俺は改めてきちんと鞍に座り直した。そして何とか体を起こした後は、今更だがミスリルの槍を取り出して戦闘に参加したよ。



「そりゃ!」

 俺のすぐ近くに走って向かって来たエミューに、長く持ったミスリルの槍を突き刺す。ジェムが転がり羽根が舞い散る。

「的がデカいと上手く出来るな!」

 そう叫んでもう一匹のダチョウもやっつける。

「やりますね。でも負けませんよ!」

 そう叫んで、マックスは巨大なダチョウに噛みつき一瞬でジェム化した。マックス自身、既に何匹ものエミューやダチョウをやっつけていて、はっきり言って俺とは桁が違うと思うぞ。

「俺だって負けないぞ!」

 だけど一応そう叫んで、ダチョウよりもひと一回り小さいエミューに槍を突き刺した。



 マックスの背中に乗っていれば、あのダチョウやエミューの大きな脚に蹴られる心配も無い。

 だって、あの最強猫族軍団が、ダチョウやエミューの蹴り攻撃を相当警戒しながら戦っている様子や、ハスフェル達でさえ全員従魔に乗ったまま戦っているのを見て、うっかりマックスの背から落ちなくて良かったと心の底から安堵したんだよな。

 なんとなく降りたら危険なような気がしたから必死でマックスの背にしがみ付いてたんだけど、これって実はナイス判断、俺!……だった?




 ようやく辺りが静かになり、マックス達が自分の毛をグルーミングし始めたのを見て、深呼吸をした俺は恐る恐る地面に降り立った。

 マックスは、そんな俺をチラッと見たきり知らん顔で必死になってグルーミングしている。途中でハスフェルが乗ったままのシリウスがマックスのすぐ横に来て、互いの身体を舐め合うのを見て、俺はニニのところへ行った。

「お疲れさん、もう終わりかな?」

 大きな舌に思いっきり舐められて、悲鳴を上げた俺はニニの大きな顔に抱きついた。

 この、猫の眉間のジョリジョリの向きが不明の短い毛も好きなんだよな。それから超長い頬の毛!

 しばらく、ニニのもふもふを堪能してから辺りを見回す。

 その時、俺の足元に丁度風で吹かれて飛んできた大きな羽根を拾って見てみる。

 多分1メートルくらいは余裕であり、芯の部分はかなりしっかりした羽根だが全体にふわふわしていてすごく手触りが良い。

「へえ、めっちゃ綺麗な羽根だな。確かに装飾品として使えそうだ」

 感心して手に持ったそれをクルクルと回してみる。

 カメレオンの名が示す通り、不思議な事に元は黒いそれは時折、背景に溶け込むように色が変わって見え、感心した俺はクルクルと手にしたそれを無意識に回しながら眺めていた。



「ご主人、それはわざとよね!」

 いきなり叫ぶようなニニの声が聞こえて驚いて振り返った俺は、目を爛々と輝かせて今にも飛びかかりそうにしている猫族軍団達と目が合ってしまった。

「はあ? 何の事……あ、これかあ!」

 そりゃあ猫族軍団の前で1メートルクラスの鳥の羽を振り回してたら、そりゃあ皆釣れるよな。

 完全に猫じゃらしと化したそれを手に、にんまりと笑う。

「やるか? だけど俺も死にたくないから爪と噛み技は禁止だからな!」

 一斉に頷く猫族軍団を見て笑った俺は、もう一本サクラに出してもらって両手に羽根を持って構えた。

「行くぞ!」

 そう言って、手旗信号のように左右に持った羽根を右に左に上下にと一気に動かしては止める。

 猫族軍団の顔が、面白いくらいに俺の手の動きとリンクする。次第に全員が体を低くして身構え、目が一気に真っ黒になる。

「とりゃあ〜!」

 手にした羽根を思いっきり遠くへ投げると、それを追いかけて猫族軍団が一斉に走り出した。

 ハスフェル達の吹き出す音が聞こえて得意げに振り返る。



 その時、何故か近くにあった茂みがガサガサと音を立て、いきなり巨大なダチョウの顔が飛び出したのだ。



「はあ、もう一面クリアーしたんじゃないのかよ?」

 と言ったものの、時既に遅し。突然出て来たダチョウとの距離は、5メートルくらいしかない。本気で走られたら一瞬の距離だ。

 しかも、これがまたあり得ないくらいにデカい。多分、背中までの高さでも3メートル以上は余裕である。頭の高さは5メートルクラス。

 ハスフェル達が何か叫ぶ声が聞こえたが、目が合ってしまった俺は動けない。しかも槍は収納してるから、今の俺は剣しか装備していない。

「またかよ。もう勘弁してくれって……」

 またしても本気の身の危険を感じて、小さく呟いた俺は何とか落ち着こうと大きく息を吸い込んだのだった。

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