今度は鳥をテイムする
二匹のスライムをテイムした俺は、また別のモンスターをテイムしろと言われて、ひとまず場所を変える事になった。
なんでも、あの辺りはスライムの巣になっているらしく、いくらでもスライムが湧いて出るらしい。
逆に言うと、スライム以外はあまり見かけないらしい。
俺はまたマックスの背に乗せてもらう事にした。
二匹のスライムは、並んでニニの背中に乗ってる。どうやってるのか知らないが、何故か落ちる心配もなさそうだし、二匹もニニも嬉しそうだから良い事にする。
「あんな風に、この世界にはジェムモンスターが湧く場所が沢山あるんだ。地下に流れてる地脈の吹き出し口でね。そう言った所は、モンスターが誕生する場所になるんだよ。もし見つけたら、ジェムモンスター狩りが出来るよ」
俺の肩に座ったシャムエル様が、そう教えてくれる。
「地脈? 何の事だ?」
初めて聞く言葉に、首を傾げる。
「地脈ってのは大地の持つ力の事で、地脈は強い流れとなって常に世界を巡っている。でも、時々浅くなって地上に吹き出すんだ」
「大地の力……? もしかして、俺がここへ来た事で回復したって言ってた、アレか?」
「そうだよ、よく出来ました! お陰で、一気に地脈が整って、モンスターの出現も元に戻ったんだ」
嬉しそうにそんな事を言うシャムエル様を見て、俺はふと思った。
それって、ここに住む人達ならどう思うんだろう? と。
「なあ、この世界の人達は、世界が崩壊の危機に瀕していたなんて……知ってるのか?」
すると、笑って首を振った。
「ごく一部の、世界の中心に近い位置にいる人達は知っていたよ。だけど、どうする事も出来なかった。それが突然元に戻ったんだから、そりゃあ今頃、皆びっくりしていると思うよ」
おい、そんな事を簡単に言わないでくれ。ってか、俺はもう関係ないからな!……ないんだよな?
不安げにシャムエル様を見ると、ご機嫌で笑っている。
「まあ、いいや。俺が何したかなんて仮に聞かれても、そもそも自分が何したか知らないんだもんな」
もうこの件は終わり!考えても答えが出るわけない!
って事で、のんびり進む風景を見ながら、さっきから気になっている事を聞いてみた。
「なあ、さっきから見えてるアレって……もしかしてただの鳥か?」
上空を、何やらデカい鳥が旋回しているのだ。どう見てもシルエットは猛禽類だ。
「ただの鳥じゃなくて、あれもジェムモンスターだよ。ちなみにアレが次の目標だから、頑張って捕まえてね!」
待て待て!
何そんな簡単に言ってるんだよ!
空を飛んでる鳥を、地上にいて、弓矢も無しにどうやって捕まえろと?
どう考えてもおかしいだろう! 絶対無理だよ!
しかし、シャムエル様は、そんなの簡単な事、と言わんばかりに平然としている。
ちょっと泣きたくなったけど、俺は間違ってないよな?
しばらく進むと、周りの景色が少しずつ変わってきた。草丈が短くなり、所々に背の高い木が生えているのだ。
「この先が、目的のオオタカの巣がある場所です」
マックスの声に、俺は首を傾げる。
「オオタカ? それって、俺の知ってるオオタカとは違うのか?」
日本人がイメージする鷹って言ったら、だいたいオオタカの事だぞ?
いやいや、この世界ならきっと全く違う生き物だろう。
そう思って、改めて上空を見上げる。
……前言撤回。
どう見ても、見かけはまんまオオタカですねー。ただし、やっぱり大きさが桁違いだわ。
上空であの大きなら、下に降りてきたら……多分、翼広げたら5メートル以上は確実にありそう。どうやって、あんなの捕まえるんだよ。
ってか、逆にあんなのに捕まって上空に持っていかれたら、それこそ一巻の終わりだろうが。
本気で逃げたくなったが、シャムエル様がさらにとんでもない事を言いだしたのだ。
「じゃあ、君は囮役ね。アレを捕まえるのは……どっちがやる?」
「はい! 私がやりまーす!」
めっちゃ嬉しそうにニニが返事をするが、俺は慌てて振り返った。
「いやいやちょっと待て!おまっ今ナニ言った? 誰が囮役だって?」
「君が囮役! あ、そう言えば、君の呼び名を決めてなかったね。何か希望はある?」
なんか思いっきり誤魔化された気がするが、確かに名前はいるな。
「へ?呼び名? 俺の名前って事か?」
「そう、この世界では、大半の人は苗字を持たないからね。マックス、ニニみたいに、名前は一つなんだ。で、何が良い? ヤマダ? ケンタロー? もちろん他に希望があれば、なんでも良いよ」
満面の笑みで聞かれて、改めて考える。
「俺、大抵のゲームのアバターには『KEN』って書いて『ケン』って付けてたな」
「良いんじゃない?じゃあそれで良い?」
「うん、お願いします」
「じゃあケン。頑張ってね」
そう言って、シャムエル様は俺の肩を叩いた。
その時、マックスが止まった。
「ご主人、ここら辺りが良いと思います。降りてください」
まさかの本当にオレが囮役かよ。
ビビりながらマックスの背から降りた俺に、またしても爆弾発言。
「だから大丈夫だって。今はチュートリアル中だからさ」
はいはい、素敵な情報ありがとうな。
「ちなみに、いつまでチュートリアル期間なのか聞いても良い?」
苦笑いする俺の質問に、シャムエル様は目を瞬いて考えるように首を傾げた。
くそっ、可愛い振りしやがって! その尻尾、もふもふさせろっての!
思わず、右手が伸びそうになって慌てて下げる。
「まあ、まだしばらくはそうかな? 一通りの事は説明しないとね」
至れり尽くせり、ありがとうございます!
それならまあ、とにかくやってみよう……とは言うものの、どうすりゃいいんだ?
「ニニが捕まえるって言ったって、相手が空の上なら、どう考えても、ここにいる誰であっても無理じゃないか?」
俺の質問に、ニニは上空を見上げた。
「ご主人が、一人で歩いていると、間違いなくアレはご主人を狙って降りてきます。襲いかかってくる所を私が叩き落として捕まえますから、あとはさっきと同じです」
「俺が、仲間になれって言えば良いわけか?」
肩の上で頷くシャムエル様を見て、俺は大きなため息を吐いた。
「信じてるよ。ニニ。頼むから、えへへ失敗しちゃった!テヘペロ! なんてのはやめてくれよな」
態とふざけてそう言ったのだが、シャムエル様がまたしても冷たい目で俺を見る。
なんだよ、場を和ませようとしただけなのに。
泣くぞ俺は!
深呼吸して、気合いを入れるために顔を叩く。
「じゃあ行くから頼むよ。ニニ」
「任せてご主人。大丈夫だから安心してね」
若干不安はあるが、ここでビビってても仕方がない。諦めてニニとマックスからゆっくりと離れた。
いつの間にか、シャムエル様も肩からいなくなってる。
剣を抜いたところで、上空から襲ってくる相手にはどうせ届かないだろう。
少し考えたが、剣を抜くのはやめて俺は手ぶらのままゆっくりと歩きだしてニニ達から離れた。
しばらく沈黙が続いた。
突然、上空で甲高い鳴き声が聞こえて、俺は唾を飲んだ。
その直後、風を切るものすごい音が聞こえて、俺は背後から力一杯突き飛ばされた。
「ふぎゃっ!」
まともに顔面から地面にスライディングしたぞ、おい!
しかし幸い、今度も地面は柔らかかった為に、少し汚れた程度で、鼻血を吹くのは免れたようだ。
背後では、何やら格闘する凶暴な音と唸り声が聞こえる。
恐る恐る振り返った俺は、そのまま恐怖のあまり固まってしまった。
ニニが、超デカいオオタカの上に、のし掛かるようにして首元に思いっきり噛み付いている。だけど、よく見ると血は全く出ていない。
うわあ、あの押さえつけてる爪も全開だよ。しかもあの爪、俺の指よりデカいって。
大型の猫はやっぱり猛獣だね。改めて思った。ニニが仲間で良かった。
しかし、そのニニより大きいって……どんだけデカいんだよ、あのオオタカ。
遠い目になって現実逃避していると、暴れていたオオタカが反撃に転じた。
羽ばたいて、ニニごと上空へ逃げるつもりらしい。
オオタカが思ったよりも大きかったらしく、ニニの力だけでは、完全には両方の翼を抑えきれていないみたいなのだ。
俺は慌てて腰の剣を抜こうと立ち上がった。
「いえ、ご主人はそこにいてください」
俺が剣を抜こうとしたのを見たマックスがそう言って、ニニの加勢に入った。
羽ばたいていた翼を大きな腕、いや前足で押さえ込み、ニニが噛み付いている首の反対側の翼の根元辺りに噛み付いたのだ。しかし、二匹とも完全に噛みつきはせずに、歯が肉にめり込む直前で留めている。まあ、噛まれてるオオタカにしてみれば、何の慰めにもならんだろうけどな。
デカい二匹に左右から完全に押さえ込まれてしまっては、さすがのオオタカも、もうこれ以上の抵抗は出来なかったみたいだ。
二匹の唸り声と、オオタカの悲鳴のような鳴き声が響き、突然オオタカの抵抗がやんだ。
羽を広げたまま首を伏せるようにして、大人しくなる。
「ほら行って。今なら捕まえられるよ」
俺、今回は何にもしてないけど良いのかな? まあ、あんなの相手に、俺に何か出来るなんて思わないけどさ。
若干不安は残るが、シャムエル様に言われて側へ行き、オオタカの頭に手を当てる。
「俺の仲間になるか?」
一瞬嫌がるように首を振ったが、力を入れて押さえつけると、すぐに大人しくなった。
「分かりました。貴方に従います」
案外若い男の声でそう答える。次の瞬間、オオタカの身体が光った。
「えっと……お前の名前は、ファルコな。よろしく」
まんま、 鷹って意味だけどね。
すると、ファルコはもう一度光って、さっきのスライムとは逆に小さくなった。
それでも、かなりデカいけどね。多分、頭の先から尻尾の先まで、60センチぐらいか?
まあ、これなら……俺の肩に止まれる……かな?
小さくなったとは言っても、指ぐらいあるデカい爪にビビりつつ、そっと腕を差し出すと、ファルコは嬉しそうに革の籠手をはめた俺の腕に飛び乗ってきた。
「お?案外軽いんだな。お前」
思っていたよりもはるかに軽くて驚いた。でもそういえば、鳥って意外と軽いんだって聞いたことがあるな。
「ご主人、これからよろしくお願いします。普段はこの姿でおりますが、私は大きさを変える事が出来ます。いざとなったら、貴方や仲間達を乗せて飛ぶ事が出来ますので、必要な時には、どうぞご遠慮無くお命じください」
自慢げにそういうファルコに、俺は笑顔になった。
空を飛ぶ術を手に入れたってのは大きいな。うん、チュートリアル万歳!
「へえ、すごいな。じゃあ必要な時にはよろしく頼むよ」
嬉しくなってそっと手を伸ばして撫でてやると、嬉しそうに頭を差し出してきた。
ニニやマックスとは違う、羽根の軽い手触りに俺は満面の笑みになって、思いっきり撫で回してやった。
うん、新たなるもふもふの世界を開拓したよ、俺。
この軽さなら、肩に乗せても負担にならないだろう、
そう思ってそのまま肩に乗せてやると、遠慮がちに肩に止まった。
丁度、革の胸当てに付いている肩当ての部分に乗れたみたいだ。
とは言え、はみ出した太い足の先についた俺の指よりデカい大きな爪を、極力俺の肩に立てないように革の部分にしがみつくようにしているのが、何ともいじらしいじゃないか!
密かに感動していると、俺の腹が音を立てた。
うん、実はさっきから思ってたんだよ。
腹減ったなあってさ……。